さくひん
乎代子とパビャ子はチョーカーをつけ、4人でワイワイしていたが至愚にある場所へ連れられた。
いつもの閑静な住宅地。そこで不自然な一戸建てがある。
玄関が開け放たれ、血痕がてんでばらばらに残されていた。
「今回の件で。あんたらを作るような輩がアタシの他に居ると分かったろう」
術士は二人を見ぬまま、玄関先に転がる首のない大型犬の死骸を爪で柔らかく触る。
「それは?」
「アタシのような精巧な呪具、または紛い物を創る術士の作品が広まった証拠だ」
「作品…?私たちが作品だなんて。認めたくない」
乎代子が不機嫌な声色で言い放ち、一気に険悪な空気になった。
「アタシはあんたらを作品として作った訳じゃないが、世の中には呪具を芸術作品として完成させるヤツがいるんだ。クスが見つかったのも、偶然だけどそうでない。アレの完成度が悪いとは思うが凶悪性はかなりのものだ。クスの呪法を生み出した輩も多分、芸術を求むる類いの人間だろう」
「んー、待って?わかんないだけど?」
対してパビャ子はただハテナを浮かべ、嫌がりもしない。
「…ある呪具はマジナイや殺意を感染させるのを目的に造られる。外国人の学者が感染魔術だか定義していたが、不幸のメールみたいに広まれば広まるほどに凶悪化していく。死を伴うモノもあれば、人の存在自体を変質させるモノもある」
──そうして、それを至愚自身も頼まれて造った経験もある。
二人は顔を見合わせ、どう言葉を発していいものかと考えあぐねる。
「あんたらもその性質はある。…この人を変質させる呪法を造った術士はかなりの腕前だ」
「え、じゃあ犬になっちゃったの?!」
「違うよ、パビャ子。犬の頭を結合した獣面人が誕生した痕跡さ」
「…で、何が言いたいの?」
人面獣は陰気臭い顔をみやる。
「乎代子。あんたにもこのように人を変質させる力が備わっている。それはクスにも影響する。もしも厄介になったのなら、アタシはアレを処分する」
「させない。クスは可哀想な目にあって、やっと開放されたんだ」
怒りにザワザワと髪を逆立て、彼女は通常より低いトーンで牽制した。
「…乎代子も、本気だせば周りに悪いのを広めちゃうの?それは嫌だよ、ね、乎代子」
「私は人間だ!呪具だとしても、私が人間だと思ったら人間なんだ!クスだって──」
「乎代子」
睨めつけられ、息を飲む。どうも至愚の殺意のこもった目つきは苦手で、彼女はため息をついた。
「…話を戻すけど、クスは殺させないから」
「ねえ、ちょっと、ねえねえ!乎代子〜」
アパートに戻っていくのを、パビャ子は引き止めようとするが無駄だった。
「パビャ子。アンタは現し世にしがらみがないから、分からんとは思うがね。乎代子は八重岳 イヨ子の償いをしようと視界が狭くなってる…よろしくたのむよ」