あたらしい うえのもの
廃墟となった病院では夜間になると、霊安室からゴソゴソと音がする。死体安置の棚からひょっこりと白いスーツを着た少女が現れた。
昼間はジッと霊安室で過ごしているが、夜型なのでこうして現れる。廊下では同胞たちがトランプ遊びをして盛り上がっていた。
こちらを見るなり、シンと静まり返り、少女はいそいそと廊下を歩く。同胞たちは自分をよく思ってはいない。
避けられようとどうでも良かった。上司の秘書として働いていればいいのだから。
昔からそうだ。昔から…この世の者でない部類になる前から、あの人の隣で淡々と作業をこなしていればいい。
(──いつから)
(いつから──いつまで?いつまで?)
頭の中でいつまでが居座っている。いつまで?いつまで?いつまでこの地獄を味わう?
…味わっていられる?
いきなり前触れもなく頂点に立つサリエリ・クリウーチが失脚した。だがたいして頂点が代替わりしても組織は変わらなかった。
モニター画面を眺める時間。メッセージを振り分ける時間。人を調教する時間。
(そういや、ギャビー・リッターが居なくなったんだ)
メッセンジャー役の新任は上手くこなしているだろうか。後で見に行かないと。
少女はこの組織が何のために生まれたかを再確認する。──人類自らの手で希望を生み出す。
(そんなの。絵空事だ)
今の頂点は口ではそのフレーズを皆に言うが、人間が大嫌いだと『存じている』。だって生前からかの人物を知っているから。
「リヤン様」
制御室に入るとリヤンと呼んだ女の子に鋭い所作で敬礼する。
「今日も我々が天使代理人協会を取り仕切っていきましょう」
「うん。がんばろう」
誠実そうな口調でリヤンは答えた。
「我々が希望を抱けるよう、今日も一丸となって人間を調教しようじゃないか」