たびを はじめよう!
ミス(Miss)は生前のように眠る真似をしながらも、誰かが寮の通路を歩き回る音に気づいた。
どうも人外になってからは五感が鋭くなり些細な事も気になってしまう。
(誰…?)
体を起こして目を凝らした。何か不気味な、ぼやけた『光』がうろついている。
それは壁越しでもなぜだか目視できた。
──ミス(Miss)は時折、『人魂』を目撃する。普通の色は白色矮星のような色なのに。アレは。
ガチャガチャとドアノブを開けようとする音。
さすがに南闇も異変に気づき、体を起こし「何かがいますね」と囁いた。
「な、南闇さんも見えますか?人魂」
「人魂?足音がしたので」
「は、はあ」
(私しか見えてないのかな?変な病気にかかったとか…)
内心心配になるミス(Miss)を横に、彼は満面の笑みを固定したままジッと外を眺めている。
「鍵を新調しましょう。こちらに気がつくのは普通の人物ではない。早々と対策をとった方がいいでしょうね」
「また、ジゼルさんとか…?」
しかし南闇は否定した。
「いえ、今のは人間でした。不気味ですね」
「分かるんですか」
「気配で」
気配で。何とも不確かな根拠だが、彼ならありえるかもしれない、とミス(Miss)は苦笑いする。
「人…空き巣では?」
「いや。空き巣は何回か迷い込んできましたが、今のは違う」
(空き巣、来るんだ…)
他人に言われて不思議と納得してしまう。悪い癖だが空き巣はその後、確実に息の根を止められただろうな、と同情した。
それが、旅を始める理由だった。
あの不気味な足音と人魂のあと、とある事態が起こったからだ。
学生寮にいるといずれ面倒な事になる。だから南闇はその日の気分で様々な場所へ行きましょう、なんて提案してきた。
風来坊になるのは魅力的で、しがらみから逃れられるのでは、と胸が躍る。ミス(Miss)は頷いて、学生寮から、首都から飛び立つ決意をしたのだ。