ぱびゃこ の さいなん
乎代子はラファティ・アスケラが作ったお手製の服をクスに着せた。元より着ていたボロ布は着物らしく、平成昭和より前の時代を生きていたに違いない。
帯は美しい柄だった。金持ちの娘だったのだろうか?…この遺体はどこから来たのだろう。
葡萄茶色を選び、作ってくれた衣服は素敵な物だった。ワイシャツのような、それでいてどこか和風。下半身は獣びて脚が人間用のズボンでは通らないのでスパッツにした。
「いいなぁ。私もオーダーメイドの衣服きたいわ」
「おねえ」
「喜んでくれてるようで良かった…。私、始めてお姉ちゃんみたいな事してるかも」
妹がいた記憶はあれど、実際に会って会話すらしていない。他人の、八重岳 イヨ子の妹。
乎代子は不思議と目の前にいる呪具の方が家族に思えた。
「そうだなあ。苗字も決めようか」
「ン?」
「私たちには苗字があるんだ。まあ、雑につけられたモンだけどね」
至愚とラファティが適当につけた苗字があれば、一応は日本人として滞在している、はずである。彼らがどうやって手続きをしたかは謎だが。
「おねえ」
クスが僅かに親しみを持って呼びかけてくれた。
「あ…」
「あーっ!いいなぁ!!パビャ子さんにもオーダーメイドの洋服ほしー!!」
いきなり部屋に入ってきたパビャ子が、ジタバタと畳で暴れた。
「お前の服は着脱不可だろ」
「ずるいずるいずるーい!!この子ばっかり!」
「子供かよ…」
下の子ができた一人っ子なみに駄々をこね、何かとケチをつける。それを見たラファティも呆れていたし、この茶髪オンナが素なのかふざけているのかも明確でない。
無視をしていたが、しょうがなく乎代子は押し入れから首輪付属品である丸リングを、パビャ子の首を絞めている謎の赤い縄につけた。
「えっ…」
「これで散歩ができる。嬉しいだろ」
満面の笑みで言い放つ陰気臭オンナに、わずかながら後ずさった。
「そういう趣味なの???え、何…SMバーで…働いて…たの…?」
「私はチョーカーを付けるから、それでお揃いになるじゃん」
「散歩??私を、この一個人である自我を持つ無意味名 パビャ子を散歩するの?え?え?」
「当たり前じゃん。クスとクリラーチ、三人で夜中に散歩すんだよ。大型犬が2匹いるとなると、このリングが役に立つんだよね」
大型犬は自分を指しているのだと認識し、パビャ子は青ざめた。
「歪んでる〜〜〜~!!コイツ歪んでるよっ!!」
「パ」
クスがそう言って、乎代子を見上げた。
「クスは手を繋いで歩く?」
「うわああっ!差別だ!!至愚に言いつけてやるっ!」