やまうば の つの
ミス(Miss)は脳みそを口にして、食事をしていた。今回の脳はあまりおいしくない。
(もっと若いのがいい?ちょっと味が薄い気がする)
逆さまになった見知らぬ人々から一体、食糧として頂いた。誰がどんな理由でこんな事をしたのか。
というより、不可思議に縄もなく宙に浮いていた。逆さまになったまま、老若男女が絶命している奇妙な風景。
山奥の中腹にある、集落の名残り。唯一住んでいた人の、ごく普通の民家に十体ほど均等に『並べられて』いる。
居間にはテレビがついたまま、コタツに入った老婆がテーブル部分に突っ伏して死んでいた。
夏になっているとはいえ、山の上は寒暖差が激しかったりするのだろうか?老婆はついさっきまで息をしていたかのように、腐敗していない。
(あのおばあさん。超能力者だったのかも、ご隠居していたのかな?)
超能力者が実在するかはおいといて、ミス(Miss)はおばあさんを眺めている南闇をみやる。
そんなに気になるのか、熱心にジッと観察していた。
「ミス(Miss)さん。この人、角が生えていますよ」
「つ、角?」
爽やかな笑顔のまま、突拍子のないワードを口にする。角。
「山姥?」
おばあさんに角と言えば、山姥だ。昔話では夜中になると刃物を研いでいる。月夜の障子に影が写り、あるはずのない角が生えていて──
「どうやらこの角が本体のようです。この人はただの人間ですね」
「ええ、角の化け物なんているんですか?!」
もしあの時自分が角になってしまったら──そんな未来もあったのかも、とミス(Miss)は変な方向に怯えた。
「つ、角になったら何もできなくなっちゃいます!」
「は?人間から角になりません。この類は生物に寄生して人を食うタイプの化け物です」
ああ、と納得して、ハッと遺体を確認した。角は生えていない。
「大丈夫です。化け物には角は増えないんですよ」
「…色んなタイプの化け物が居るんですね…。図鑑があったら面白そう…」
「はは!それは僕たちが見世物にされるのと同義ですよ?貴方はジロジロ見られると快感を得るタイプなんですね」
「なっ!」
人間の手によって調べあげられリスト化された図鑑。それは動物園に似ているのか。管理され、保護される。
ミス(Miss)はムッとして、南闇をねめつけた。だが彼は常日頃の笑顔のままだ。
「我々はお互いの距離感を保って生息しているのが一番いい。どんな化け物でも、普通ならそう望んでいるはずです」
「は、はぁ…そうですね」
そうしてひっそりと此岸に忍び込んで、生きているのが。
「もしも南闇さんに角が生えたら、ヘラジカの角みたいな気がします」
食事を済ませ道を歩きながら、ヘラジカの角が生えた南闇を想像する。ヘラジカは巨大だといつしか聞いた事があった。
山の中で出くわしたら恐怖でしかない、そんな印象があるからだ。
「ミス(Miss)さんはサイですかね」
「ええ〜〜っ」
「神経が硬そうな所が似てますよ」
(それって貶されてない?!)