しかく
自由気ままな食材探しに、二人は牧歌的な田舎の町を歩いていた。町のはずれまでくると周りは荒れ果てた田んぼの跡地と、錆び付いたバス停、そうしてうねる山へと続く道であった。
「陽射しの強い日はこたえますね…」
「それは陽射しが眩しいと思い込んでいるからです。僕たちには陽射しも寒さも、関係ないのですから」
咋噬 南闇が無常にも、汗だくのミス(Miss)のぼやきをぶった切った。彼は汗ひとつかかず涼しい様子で歩いている。
「…水が欲しい」
「水?貴方の食事は──」
いきなり砂利道の方から野良作業をしていたと思われる男性が転がり出てきた。
「た、助けてくれ!亜田さんが!亜田さんがっ」
「落ち着いてください。どうかなさったんですか?」
「ど、どうもこうもっ」
かなり慌てた様子で彼は雑木林に挟まれた砂利道の方を指さした。そこにはパトカーが停車しており、ただならぬ雰囲気が醸し出されている。
「警察官がいるのに?警察の方は?」
「し、死んだんだっ。2人も殺られて!よく分からねえヤツに!亜田さんも、家族もっ」
ミス(Miss)は反射的にこの世の者でない部類の仕業だと悟る。熊ならよく分からないヤツなどと言わない。
「南闇さん…」
「敵意がなかったら、見てみましょう」
二人は男性に連れられて、亜田さんの家の近くまでやって来る。すると庭先に人を組み合わせた四角い物体が宙に浮いていた。
キッチリと人体を無視し、折り曲げて組み合わせできた四角さ。
「これ以上近づいてはなりませんね。あちらも止めて欲しがっています」
「え、南闇さん。アレ?の言葉が分かるんですか?!」
「なんとなくです。気配で」
『人を組み合わせた物体』を構成しているのは亜田さん一家であろう。そうしてその周りに警察官が二人、事切れている。
「あ、あれは」
男性が恐怖のあまりに2人の後ろに隠れている。
「四角い化け物です。ある一定まで成長すると四角くなるために周りの生物を取り込み、ああなるのです。凶暴性はありません」
「で、でも!」
「警察官が発砲したからでしょう」
スラスラと化け物の説明をすると、南闇は彼に向き直った。
「見なかった事にして、神棚にありったけの供物をお供えしてください。特に夜は窓を締め切り、部屋に鈴を垂らして置く事。特に警察官が来たら怪しんでください。それだけです」
「えっ、え!でも」
「でないと次は貴方が四角くなりますよ」
「ひ、ひいいっ!」砂利を転がる勢いで男性は逃走していった。
それを目で追って、ミス(Miss)はしばらくポカンとしていた。
「南闇さん、物知りですね…」
「至愚さんに色々教えてもらったのです」
はあ、と頷いていると、死んでいたはずの警察官がムクリと起き上がった。二人とも清々しい笑顔でこちらへ元気に挨拶すると、パトカーに乗る。
「…、あの人たち。四角くなるんですか」
「はい」
「…怖いです」
「貴方も似たようなモノじゃないですか」
そう言われ、否定できず己の手を眺めた。この身体は化け物なのだ。
「残念でした…。新たに晩御飯を探しに行きましょう」