や せい どうぶつ
午後10時。とある山奥でフス(廢)は道すがら、足を引きずるようにヨタヨタと目的もなく歩く二足歩行の化け物を目撃した。
彼女は幼いはずなのにリクルートスーツを着ており、意味もない言葉をダラダラと吐き出してはどこかへ向かう。
アレは己と同胞だが、深遠の者だ。おぞましい『愛憎に飢えた上位者』の手をとった愚か者。
そうは思えど自分には言語化する能力がない。ただジロリと見て、草木に埋もれるために身を伏せた。
アレらと関わるとロクな事がない。
「ぃだーいー、あああー、る?あー」
女の子は虚ろな目を宙に向けたまま、けもの道をさ迷う。
『親玉を崇拝してやまないアレら』が活発化しているという事は何かが起きる前兆だろう。普段、地獄に落ち餓鬼と化した亡者の如く血肉を食らい、満腹になるとまた此岸のすみっこに潜む。
凶暴性はあれど決して無差別に人間を食らいつくさない。
ああして表沙汰に歩き回るなど、自分自身が生活する限りでは久しぶりであった。
「あ、あー、あう…」
フス(廢)に気がつくと、生気を欠いた眼差しに殺意が宿る。
「ガウ」
鼻にシワをよせ、こちらも敵意を顕にした。互いに拮抗し、いつ飛びかかってもおかしくない空気が漂う。
「いたい、まま、いたい、やめでえ、えええ!ああーあーーーー、ご、ごろず」
あちら側からふらつき、それを合図に俊敏な動きで喉を狙ってきた。が、フス(廢)はベテランである。
慣れた動作でねじ伏せ、唸りを上げ、喉や触れた場所を腐食させた。それに驚いた相手はジタバタと抵抗する。
「るうあーーーー!!!」
「ガアウウッ!」
完全に腐敗する前に顔面に噛みつき、二度と逆らうなと忠告する。理解できたのか、少女は暴れるのをやめてワアワアと泣き出した。
「フッ、ズッ」
鼻を鳴らしてフス(廢)は体をどかし、どこかへ行こうとする。と、少女はまた起き上がり何かにたどり着こうと起き上がり歩き出した。
何かを追いかけている。
フス(廢)は目を凝らし、少女を追尾する事にした。
すると国道にこれまた同胞が二人、ノロノロと歩いている。あれはまだ若造で少女よりも『成り果てた』年数も少ない。
どうやらアレらを隠れてしつこくつけているようだ。
バカバカしい。獣の思考でフス(廢)は少女を崖からつき飛ばした。