うそもの かぞく
久方ぶりに廃墟化したアパートに至愚がやってきた。
何でも稀代の禍根術士時代に巡回した土地を歩き、何かを確かめてきたらしい。
そうして風の噂を頼りに、またこの市に戻ってきた。
「アパート…墓志波ハイツに封じられていたマジナイの産物を解放した、と」
「天井から毎晩カリカリって音がしたから、なんだと思ったらさ…」
「いやいや、乎代子を責めてるわけじゃあない。封印がとれかかってただけだ」
パビャ子と乎代子は改まって座らせられ、至愚と対面している。横にはクス、またの名を九相が足を毛づくろい?していた。
「コイツが封じられているのは知っていたがね」
「知ってたのお?」
茶髪オンナが少し驚く。「ひどっ。全く分からなかった」
「封じ手が上手かったんだろうよ。かの封じ手は反作用ですでに死んでいるとは思うが…あたしがこの市に来た時から、既にこの建物は廃墟だったから、随分昔に起きた出来事なんだろね」
護符だらけの部屋や血しぶき部屋や夜逃げ後、はたまたどう見ても畳の死体から出た黒いシミの痕跡などが各部屋に残されている。普通のアパートではなかったのは乎代子も理解していた。
「クスは何者なの?呪具なんでしょ」
「ああ、人間の死体を使う、マジナイの一種から生まれた死脚という呪具さ。異国のマジナイを使って製造される、アジア諸国か、アラブ系の。とても危険な呪法だと耳にした事はあるが…」
「なら、私と同じ?」
「まあ…言っちゃあ悪いが、コイツを作ったヤツは素人だ。見よう見まねで作ったんだろう」
二人は足を舌で綺麗にしているクスを見やる。器用なもので腕を封じられていても、色々と行動していた。
「可哀想だな」
「えっ」
「人間の都合で作られるなんてさ…」
乎代子が悲しい目で呑気な化け物に言う。
「ま、まさか情がわいたの?!」
「もういっその事家族として受け入れよう!この子はあたしの妹だよ!」
「乎代子、私がいるじゃん!!乎代子!ひどいよ!!!」
ガッシリとがんじがらめにする茶髪オンナと暴れる陰気臭いオンナを前に、至愚はどうしていいものか迷う。
ここにいるほとんどは呪具だ。姉妹だと認めてしまえば、縁が生まれてしまう。
そうなるとアンコトロールに陥る。クスという呪具の作り手が素人だろうと、高精度な呪具の眷属になれば…。
「ふうむ。ありもしない運に任せてみるか…」
「え?え?至愚?この子、家族にしちゃうのっ?!」
予想外の発言を耳にしたパビャ子が慌てて飛びつこうとしてきた。
「これには呪具を生み出した側にも責任てのがある。それはあたしも同じだ。それに乎代子は前々から家族が欲しがっていたし、この子を」
「ンみゃー!?!至愚ぅ!!!」
「パビャ子…はぁ…お前、乎代子に飯を集ってばっかでそれらしい事してないじゃないか」
「だ、だって!ヒモになるようにしむk」
アワアワと彼女はわがままな駄々をこねようとする。
「うぎ」
ペロリ、とクスが乎代子の腕をなめた。今まで他人に見向きもしなかった、化け物がだ。
「お姉ちゃんだって認めてくれたの?」
「いやいや、コイツ!!コイツも餌もらってるからそうやってるだけっ!!」
「おねえ」
「あ、ず、ずるい!!さいあく!」
大騒ぎな一室でヘラヘラとしているクリラーチ・去田を横に少しだけ物事が変わったのだった。