さる の てんし
「ぎ、ギャア、ァ、だず、げでぇ、ェ」
バリバリと内臓を生きたまま貪られ、タクシー運転手は必死に助けを求めた。
「きゃあ?きゃーあ?」
「だすけでーえー?」
美しい金毛の猿、強いて例えるのならばハヌマンラングールのような化け物たちが、首を傾げながら眺める。タクシー運転手は首都圏郊外のある駅のロータリーでただ客を乗せて、ある山のすそ野にある、指定された病院の前にきただけだった。
だが、病院ではあったものの廃墟化しているものだから不審に思って、後部座席を振り返った──ら猿に似た化け物たちが飛びかかってきた。
そうして内臓や肉を食べられている。
「きゃあ?きやー?」
猿もどきたちは異常に見開いた眼窩を運転手へ向け、傍観している。
「ヤニ臭いですねー。煙草を吸いすぎなのでは?」
バリバリと血肉を食いちぎっていた『者』が人語を話した。
「あ、あ、いだ、い」
純白のスーツを纏う、ブロンドヘアーの少女。防犯灯に照らされ、漆黒の黒目にヤギの瞳孔がうっすらと浮かび上がる。
運転手はこれは悪魔だと確信した。
「ごちそうさまでした!お金、置いときますね!お釣りはいりませんので」
ニッコリと笑うと少女は腰をあげ、廃墟へ向かっていく。猿もどきたちもつられて四つん這いで追っていった。
猿もどきの背中には小さな金管楽器が背負われ、長い尾を揺らしながらご主人と共に消えていく。
タクシー運転手は彼女が不可思議な組織に属していると、話していたのが過ぎる。
天使代理人協会。
冗談だと思って聞き流していたが、あれは天使ではない。
暗がりに紛れ、周囲にたくさんの化け物が舌なめずりしているのが見える。あの少女のような人型の者ではない。
この世の者でない、たくさんの存在が食べ残しを狙っている。
「あ、ぐ、ま──」
息絶え、彼はヘッドライトに照らされ、アスファルトに血の海を作る。
人間のいない国道で。