ひかるいろのはもの
無意味名 パビャ子は寒々しい深夜帯に、虹色に近い不思議な柔らかい輝きを放つ浮遊する──この世の者でない部類を見つけた。
それは最近、日本各地でも観測されているオーロラにそっくりであった。だが、赤い光ではなく北極などで観測される美しき色彩を放っていた。そして小さい。
アゲハ蝶くらしいかない。
「うわあっ!すごっ、オーロラの赤ちゃん?!」
パビャ子はソレを無遠慮に鷲掴みにすると、ポケットに入れてしまった。
廃墟化したボロアパートに、パビャ子と乎代子は『オーロラの赤ちゃん』を眺めていた。
「始めてみるヤツだな」
「オーロラって子供産むんだねっ」
「いや、だいたいオーロラってヤツはさぁ…」
説明しかけてめんどくさくなり口を閉じる。この頭すっからかんは明日になれば忘れているだろうから。
「で、どーすんの?コレ」
「お母さんが迎えに来るまで預かってようよ」
「お母さん?コイツにお母さんがいると思ってんの?」
フヨフヨと空中を漂うオーロラを見上げて、パビャ子はウンウンと頷いている。
「よく分かんねーけど。外で育ててくれよ…」
「合点承知之助ェ!」
オーロラをどうやって育てるのだろう?と内心不安になりつつも、常に摩訶不思議な事象と出くわしているパビャ子なら普通に空へ返してくれるだろう──と乎代子は思考を停止した。
──その考えは浅はかであった。
パビャ子にはペットを育て上げるという概念がない。ましてやオーロラが何であるかも理解していない。
事態は早々顕在化した。
「ぎゃあああああああああ!」
「うぎゃー!」
「うわああああああ」
街に悲鳴がこだまする。巨大化したオーロラ?が住宅地を貫通し、住んでいる住人たちをざく切りにしてしまった。
美しい光のカーテンは柔らかいのではなく、刃物の如く鋭かった。オーロラは低空を移動しながらも人々や建物を切断していった。
「わー、何あれ」
パビャ子は丁度鉄塔の上でのんびりとカラスを貪っていたお陰で、オーロラと街の全容を臨めた。オーロラはどんどん空へ上がっていく。
血を滴らせながら。
「バイバイ!またねー!お母さんの元へちゃんと帰るんだよっ!」
手を振って、夕焼けに消えていく光のカーテンを見送る。
「おい、パビャ子!どう責任とるんだよ!あれ!大事件になってんじゃねえかよ!」
鉄塔の下で乎代子が吠えている。
「えー、でも。私、ちゃんとお母さんの元に帰れるまで育てたし…」
衝撃的事件にバタバタとヘリコプターが空を飛んでいる。これから大惨事になるであろう。
これを境に…とはいかないのがパビャ子であり、またきっと何かを拾うに違いない。
乎代子はヘリコプターが飛び交うのを見上げて乾いた笑いをもらすしかなかった。
オーロラって南極と北極、両方見れるんですね。知りませんでした。
私も日本でオーロラを見たいです。