のびるくん と はいきょの あぱーと
覃(のびる、ひととなる)は物珍しいモノを見ては、ニヤニヤと首を傾げた。何度も確かめるように。
「お前、アレか?人間に造られた、人間の型落ち?」
あれから日数がたち、落ちついてきたクスへ餌となるち〇〜るを与えていると、いきなり現れた人面獣に驚く。このクスというこの世の者でない部類は人間ではないものの、そこまで化け物の食人のみでの生活は無用のようだった。
乎代子はフワフワの猫に似た──ユキヒョウだが──足を見つつも、ヤツは一度会った事のある危険な存在だと身構える。
「型落ち同士、笑える。そっちは粗悪品。腕の悪い、下手くそ、ぶきっちょ」
「あー、えっと。コレ欲しいの?」
猫用の餌を見せびらかすと、のびるはさらにグリンと首を横にねじった。
「有名な猫、の、オヤツ。のびる、猫ではない、猫、人間、滅多に食わない」
クスは人面獣に怯えた様子で縮こまっている。それはそうだろう。
町を一つ破壊できる化け物が前にいるのだから。
「ソレ、造った人間、もう居ない。願い。成就した。封じ込めた人間、いない。呪詛の力、強かった」
「え、え。あ、えっと、どーすりゃいいかな?」
「次に呪い、連鎖するしかない。コレ、恨みに伝播して、永久的に移動する」
「ええ…」
乎代子は猫の餌を与えつつ、うーんと悩んだ。
「お前だって、周り、人間不幸にする。コレより強い。いるだけで、周りが、狂う。蛾の目玉、見られて、目玉、潰す」
ニタニタと頭をゆっくりと回転させながら、そんな言葉を吐く。言語化する能力が欠如している覃(のびる、ひととなる)は存じていたが、彼女には伝えなかった。
周りに建つ家の人々は皆、精神的に不安定になったり不幸が続いている事を。
洞太 乎代子は他人への興味がない。
近隣住民が土色の肌をしてヨタヨタと歩いていたとしても、会釈や軽い挨拶で済ます。ゴミ置き場に謎の注意書きや被害妄想に駆られた人々の諍いを見ても日常茶飯事だと通り過ぎる。
近所の人間がどんな生活スタイルをしているのかも。
幸いなのはアパートの対面や道に点在する墓場があり、人の住む場所も限られている事。
のびるが大好きな死の匂いが漂う、最悪な土地。
目の前で乎代子へくっつくようにして、こちらを伺う化け物も解き放たれ、これからどうなろうか?
愉快でたまらない。
「のびる。機嫌がいい。そっちにいる良くわからないの、に、狩りの仕方教えられるヤツ、連れてくる」
「え、知ってたの?」
「茶髪オンナ、何回か来て、ウザかった」
「マジ?アイツ、そこまでして…」
ヘラヘラして鎖に繋がれているクリラーチ・去田を横目に彼女は関心した。
「ソイツ、フスに名前似てる。許さない。九相と名乗れ」
「はぁ…わかりました」
フスに対して実は並々ならぬ感情を抱いているのでないか?と乎代子は心外な視線をよこしてきた。
人面獣はニタニタしたまま、答えてやらないと意地悪をする。
「呪いの産物たち、世にたくさん、死を、ばらまけ」
酷くメンタルダウンしていた際にある界隈で有名なYouTubeチャンネルを見ていたら、クスちゃんの感じ?に似た呪術があるのを知りました。
「フーリンシェンホワン」というアジア諸国の呪い。画像を見るのは自己責任系だそうです。まあ、画像自体アレなんですが。
多分、創作だとは思うんですけど。
文章系でいう洒落怖の「ヤマニシさん」的なアレなんでしょう。