ええ かわいい ぺっと
天井裏からやってきたクスは素早い動きで中々捕まえられない。奇妙な雄叫びをあげ、大音量で笑ったりする。
これではご近所さんから不思議がられてしまう。
とりあえずパビャ子に手伝ってもらい、捕獲するなり天井にあった呪符を顔面に貼ってみた。
「んギャー!!!」
効果はテキメンで劇薬を盛られたかの如くジタバタとのたうち回る。
「すげえ。なんだこのおふだ!」
「ぎゃははは!キョンシーみたいっ!」
「顔に貼るのは可哀想かな…。背中に貼ってみよう」
「乎代子ってたまに人の心ないよね」
もう一枚、呪符を背中に貼るとさらに苦しむ。顔は邪魔だろうから剥がしてやり、様子を見た。
「サリダちゃん、全く気にしてないね」
「悪い存在じゃないのかな?」
「サリダちゃん。新しい仲間だよぉ〜。ほらほら」
茶髪オンナが無理やり紐を引っぱりご対面させる。新しいペットを我が家に迎えた場面みたいだな、と乎代子は心の内で呟いた。
バチン!!
クリラーチ・去田の歯がクスの鼻を食いちぎろうとした。その暴挙に二人やクス本人も固まる。
「あ、ああ、サリダちゃん。嫌いだった?」
「っ…、っ…」
さっきまで活き活きとしていた化け物が尾を巻いて怯えている。
「…もしかしてだけど?マキグソちゃん、人間成分入ってるのかな?」
「クスだろ。自分で名前つけたんだから覚えろや」
人間の要素があれば捕食対象になるのは乎代子も何度か経験した。ならこの生き物は元は人間で、曖昧な境界線上に立っている?
ほんの少しだけだが親近感がわく。フス(廢)のように完全にこの世の者でない部類へ転化した訳ではない、となると。
「…ハーフ?」
「化け物のハーフ?き、帰国子女なの?!いや〜ん!初めて見たっ」
「うーん。研究所から逃げてきたとか?」
どのような理由で化け物へなったのかは不明である。そしてアパートが廃墟になった原因を調べる余裕はない。
クリラーチと共にどう部屋に置いておけるか問題だ。
「首輪、は何か監禁部屋みたいで私が嫌だ…」
「ええ?首輪で良くない?一番楽だし…ま、まさか…緊縛するの?えっち…」
「うるさい。緊縛まではいかないけど、縛ってみるか」
「やだ…こわぁ」
「だまれ。手伝ってよ」
乎代子は押し入れから持参していた縄で緊縛の一つ『後手一本縛り』を手伝ってもらいながらも、絞めあげる。
「を、乎代子こわい!何でそんなの知ってんの?!正真正銘の緊縛だよ?!」
「いろいろ…。うるせえな」
「えええ」
「おギャアアアア!!」捕食者として認識したクリラーチを前に縮こまっていたクスもさすがにジタバタと抵抗する。が、もう絞めあげられているので無駄なあがきだった。
「よし。これで苦労は軽減されたはず。後は笑ったりしないように躾ければ」
「私は乎代子が怖くなっちゃったよ…よ、良かった。ペット認定されなくて」
呪符はありまる程あるので何枚か追加して、二人でコレは何なのかあーだこーだ考察するのだった。
乎代子が住んでいる廃墟のアパート、周りから怖がられていそう。
モデルにした実際のアパートも落ち武者の霊が出ると聞きました。廃墟ではないですが。
私は今のところ落ち武者を目撃してないです。