てんじょううら の がいじゅう には ちょーくすりーぱー
洞太 乎代子は真夜中、天井からガリガリと引っ掻く音で目が覚めた。猫かハクビシンか。
廃墟であるアパートでは野生動物がよく出没する。
「…臭くなったらどうしよう」
マーキングされて、獣臭くなるのはごめんだ。
チラリと首輪と縄で杭に繋がれたクリラーチ・去田を見やる。ヘラヘラとしているだけで音に反応していない。
人間ではない。
(明日、忌避剤でも買ってこよう)
雑に階段ら辺に撒いたりしておけば野生動物たちは寄らなくなるだろう。
次の日。またカリカリと天井が引っ掻かれた。
「ううー、うるさいな」
忌避剤を撒きまくったというのにまだ来るか。なら明日はパビャ子に手伝って屋根や雨樋に撒いてもらうか。
クリラーチ・|去田はヘラヘラして、ヨダレを垂らしている。どうやら変態や不審者ではないので安心ではある。
カリカリ、カリカリと必死に引っ掻く音が響き眠るにも入眠できない。
「困った…」
(夕方になったら天井裏を覗いてみるか…)
仕方ないので唐辛子スプレーを買いに行ってから、覗いてみよう。いきなり顔を引っ掻かれたら最悪である。
そうして夕方。唐辛子スプレーを片手に、ハシゴに登り、天井の一部を外した。やってきた時から切り取られていたのは存じている。
懐中電灯を咥え、周りを探ると──呪符のようなものがたくさん貼られているではないか。
(うわ、何だこれ。日本の呪符ではないな)
不気味な赤文字のそれは天井の板にこんもりと貼られ、周りも固めるように囲ってある。言語もアジア圏ではあるが読めないものだった。
「うーん。夜中にパビャ子と正体を突き止めるか」
クリラーチが反応しなかったのは人間ではないから。ならば音の正体も人でなくこの世の者でない部類の可能性が高い。
「あああー、このアパートどうなっちゃてんの」
草木も眠る丑三つ時。
パビャ子にたらふく唐揚げを与え、代わりにカリカリと爪研ぎをする『何か』の退治の参加を依頼した。
二人で意味のないUNOをしていると、カリカリと天井から音がしだした。
「コイツ?」
「そうそう」
「ようし!みちゃるぜえ!」
腕をブンブン回して、パビャ子は飛び跳ねる。遠慮なく天井を蹴飛ばし、紙の雨を降らせた。
「ふギャーッ!!」
何かが落下してきて、雄叫びをあげる。長い黒髪を振り乱した獣と人が混ざったかのような、謎の生き物が出てきた。
「なんだコイツ?!野生児?!?」
「んギャえーーっっ!!」
牙を剥いたこの世の者でない部類は乎代子めがけて飛びかかってきたが、茶髪オンナにゲンコツを食らい、畳にめり込んだ。
「う、あわあ、…大丈夫なの?」
「平気平気!気絶しただけだから!」
パビャ子の言う通り野生児には傷一つついていない。コイツは何者なのだろう。
「…もしかしてアパートが廃墟になった原因て、コイツ?」
着物か、色褪せた葡萄茶色の衣を纏っているがボロボロで分からない。痩せこけ、体毛は生えていないが身体の構造は猿か、四足歩行の動物にも見えた。
乎代子がやってきた時から、既にアパートは廃墟と化していた。夜逃げしたような痕跡の部屋や血飛沫まみれの部屋もあり不自然な点がいくつかあったが、さして気にしていなかったのである。
「なんか、ちょっとさあ。都市伝説探検の山で出会ったフスに似てるよね?親戚かなあ!」
「いや、んな訳ないでしょ…リクルートスーツ来てないじゃん」
「じゃあ、マキg…クs…クスで!クスちゃん!よろしく〜」
茶髪オンナがナチュラルにチョークスリーパーをキメながら、嬉しそうに名前をつけている。
「もう!飼えないからやめて!」
「ええ?ちゃんとお世話するから!ね!」
「ぎぁはぁぁ」
「チョークスリーパーやめろ!」
何気なく執筆していたら新しいキャラができてしまいました。
アンビリバボー…。