くびわ と あたらしい なまえ
「あいだァァーっ!この子脳みそからっぽどーぶつなの?!」
パビャ子は指を噛まれて、ブンブンと振り払おうとするが──ガッチリと歯が食い込み離れない。
人間ならあっという間に食いちぎられてしまうだろう。
「だから…口の前に指を近づけちゃダメなんだって」
乎代子も何回か指を失いそうになり、ヒヤヒヤしてきた。サリエリ・クリウーチだった者は食べ物とそうでない物の区別がついていないらしく、鼻の先に現れた物体なら何でも齧ろうとする。
人間の匂いや形をしていると尚更だ。
「パビャ子。お前、先輩らしく教えてやんなよ」
「ぇぇー?私は誇り高き無意味名 パビャ子であって、この人の同類じゃないですう」
「ああん?同じだろ」
スーパーで購入した最安値のカップ麺を食べながら、乎代子はこの野生動物に近しい生き物をどう匿うか途方に暮れていた。
この前は肝試しに来たヤンキーたちの頭部と目玉を食いちぎり、住処を探しに来たホームレスの喉をしとめた。
廃墟化したアパートは血染みが増えてバイオレンスなオーラを放っている。もはや呪われた館並みである。
パビャ子と二人で遺体を少し離れた場所へ運び、事故や殺人に見せかけているが時間の問題だろう。
怪死が増加しているとスマホでニュースになり、在住地の治安が悪いと風評被害がでてしまっている。
(防犯上、とってもいい…けど、見境がなさすぎる)
「こう、狩りの仕方?とかさぁ。伝授できない?あたしはさ。分類上、人間だから一応」
「んー…狩りかー。パビャ子さんはねえ、天才肌だから教えらんないなー?天性の才能でやってるからぁ」
「…はあ、サイテー」
ドヤ顔の茶髪オンナにイラつきながらも、ヨダレを垂らすサリエリ?を観察した。据わった目付きをして、どこを見ているのか分からない。薬物乱用した後のようにフラフラと歩いている。
キョンシーやゾンビ、そんな風に思える。もはや理性や自我もない、ただの死骸が動いている。
(サリエリさんはもう、死んで)
「あ!狩りが上手そうなひと知ってるかも!」
ポン、と手を叩くとパビャ子は顔を輝かせた。
「そーなん?なら良かた」
「うん。明日連れてく!首輪でもつけてこ!」
「首輪…尊厳否定してんな…」
「いいじゃん!逃げちゃうより。でさー、名前も決めようよ〜」
無理やり引き剥がし、サリエリ?はドスンと壁に叩きつけられた。それでも彼女たちは何事もなかったようにしている。
この世の者でない部類なる生き物はそんなものだ。
「名前かあ。クリラーチで」
「何それ?」
「名刺に書いてあったから」
最初に渡してきた名刺にはそう書いてあった。ウがラに見えるだけの下手くそな文字で。
「じゃあ、クリラーチ・サリダさんで!けって〜〜~!」
パフパフ。何とも投げやりに、サリエリの新しい名前が決まった。
「よろしくね!クリラーチ・サリダちゃん!」
躾のなっていない犬が誕生。