変わらない夜 Ⅲ
パートを終えた後の帰宅途中で、私はトイプードルの子犬が公園に置き去りにされているのを見つけた。子犬の体には殴られた痕やタバコの火を押し付けたような痕がある。いったい何があってこんなことをされたのかと思うと、涙が止まらなくなった。
「かわいそうに。痛かったよね、怖かったよね……」
私は泣きながら子犬を抱きしめる。前の飼い主が虐待したのだろうけれど、こんな想いをさせるくらいなら私が最初の飼い主になりたかった。
早速子犬を動物病院に連れて行く。若い男性獣医だったけれど、飛び込みでも快く受け入れてくれた。順番が来るのを待つ間、ロシアンブルーを連れた年配の女性が
「ちょっと、今日は織部先生いないの?」
と男性獣医に詰め寄っている。織部先生とは、この動物病院の院長のことだ。
「申し訳ございません。ホームページにも書いておりましたが、織部は本日大阪に出張に行っていて不在でして……」
男性獣医が丁重にお詫びするも、
「あんたみたいな若造じゃ話にならないわ! だいたい緊急で来てるんだからホームページなんて見るわけないでしょ? もういい、織部先生のいる時に来るから」
と年配女性は出て行ってしまった。予約なしで来たそうで、ホームページは見ていなかった模様。
私の順番が来て、子犬は治療を受けることになる。
「連れてきてくださってありがとうございます。虐待の可能性があるので、動物愛護法違反で通報しますね」
男性獣医にそう言ってもらえて救われた気分だ。子犬は治療の甲斐もあり、元気を取り戻したという。
夫に今日の経緯をLINEで送り、帰宅後は小学4年生の娘も交えて家族会議する。家族会議の結果、子犬は遠藤家の家族の一員となった。娘が子犬にポムと名付け、今日からポムは我が家で暮らすことになる。