99 墓場からゆりかごへ
先生と話し合って、ビアンカさんに相談して、イーダに俺の希望を伝えて、今後の予定を決めた。
まず七国連合の拠点でやり残しがないかの確認。
俺からなにかありますか? と聞かなければなかった仕事もいくつか。
クレメンティア先生の質問状が届いたり、ベンヤミンさんと改めてカリンバと歌についてを話したり、ね。
拠点を出る少し前に、セバスチャンからお詫びにと、素材を採取するための道具一式を貰った。
人伝で本人に会う事はなかったけれど、考えてみればセバスチャンが一番貧乏くじを引いたかもしれないな。
塔勤務で出世も移動も無しって確定している。
お礼の手紙には、塔を利用する時に差し入れをしますね、と一文を付け加えた。
それから先生の家でイーダを待つ。
先生の家付近は依然と変わらない雰囲気だったけれど、即死だった人の家が空き家になってしまうからと、建物数は減っていた。
家と家の間にゆとりを持たせたり、そのまま空地にしていたりと色々。
久しぶりに先生の家で勉強兼お手伝いの日々。
軽いケガだって放置していた人なんかが重症化するケースが多くて、お医者さんと連携しての対応が多かったかな。
物系はみんな新品を使っているから錬金術師の出番はない。
王様にも会ったけど、元全身タイツ部隊の人だし、周りにいる人もそうだから気楽な謁見だった。
ダイアンさんも変わらず元気そうで一安心。
街中の事はシュテファンさんの方が詳しくて、隕石が落下した中心点に案内してくれた。
慰霊碑とか、そういう感じだと思うんだけれど、まだ小さな果樹が植えられている。
「土に還って肥料になり、育って実を付けたら食して、残された者の血肉になる」
そういう弔い方なんだって。
俺は俺の世界の墓参りを実行。
献灯には熱光石を、献花はカトリンさんの伝手で種を貰って強引に咲かせ、献香は花の中から香りの良かったヤツを錬金で。
こっちの材料だからちょっと違っちゃったけど、それなりじゃない?
手を合わせて冥福を祈る。
俺の感覚だと、マルレーネさんみたいな例もあるし、生きているのか死んでいるのかも曖昧なんだけど。
次は寿命で、老衰で、穏やかに終われます様に。
と、思ったので。
イーダと合流してからはキベン国のビアンカさんの所にお邪魔した。
イサキには既にビアンカさんの遺伝子がちょっと組み込まれてるらしい。
「金髪黒目……」
「可愛いでしょう!」
ビアンカさんは誇らしげだけど、物凄い違和感。
カラコン開発しちゃおうかな、なんて思ったけど、唯一無二なんて言われて、確かにな! ってなったんで滞在中はたくさん遊んだ。
「いいとこ取りなのよね」
「いいとこ取り?」
獣人の子どもってすぐに立って歩いたりするから、おんぶとか抱っこの道具がなくて開発しつつ話もした。
「夜泣いたりしても使用人が対応するでしょう? 食事の準備もしないし、都合のいい時に癒されに来てるだけだもの」
「忙しいから仕方がないんじゃ……」
王族ってなんか教育係がお世継ぎの面倒を見るんじゃないの?
「そうだけど。それが嫌だと思ったのに同じことをしているから」
ビアンカさんの師匠に当たる錬金術師さんは、マティルデさんやエルンストさんと親子関係に見えたのに、って事みたい。
なんとなくイーダから言われた、条件が違うなら発展する方向も違うと思うよ、って言葉を思い出した。
発展、発展か。
「どんな子に育つとイイですかね?」
ふにふにとイサキの頬っぺたを揉みながら、ビアンカさんはうーんと考える。
「……国民に優しい子がいいかしら。あとは……王子だからって無理に継がれると困るわね。自分で決めた将来を歩ける子、とか?」
そのまんまビアンカさんじゃん。
おかしくて噴き出した俺にキョトンと首を傾げているので言う。
「俺のいた世界だと親の背中を見て育つとか言うんですけど」
「背中?」
「多分、子どもは身近な人を真似るって意味だと思います。だから親はお手本をしなくちゃならないから大変なんだって」
家での正しいダラケ方の手本を見せてやっているんだと、寝転んでポテチを食べながら父親が言ってました。
「ビアンカさん見て育つなら、大丈夫そうだなって」
ビアンカさんはイサキの脇の下に手を入れて自分の目の高さまで持ち上げると、
「そうだと嬉しいわ。でもダメなところは真似しないでね?」
なんて言って笑った。
ちゃんとお母さんしてるんだな。
俺も、よく分からない体の不調予防に一年に一回は顔を出す予定ではあったけれど、
「一年に一回とか言ってないでマメに遊びに来ないとですよねぇ。お金だけ入れて放置とか……えっ! これ、言葉にしたら、ろくでもない男すぎません?」
大真面目だったのに、ビアンカさんにケラケラ笑われた。
イサキはしばらくしてグズりだし、大きな声でワァワァ泣き、控えていたマティルデさんが、
「そろそろおやすみだと思います」
とビアンカさんから受け取ろうとしたので引き止める。
「たまにはいいとこ取りやめて、うるさいなー、困ったなーって、ちょっとだけ思いませんか?」
もうかなりうるさいけど。
マティルデさんはそれはいいですねとにっこり笑顔。
ビアンカさんはちょっとオロオロしてるかな?
可哀そうに見えるみたい。
俺はうるさいが勝つかなぁ。可愛いがちょっと減って微笑ましいって感じで。
自分の子どもって感覚は相変わらずないけど、親戚の子くらいには近付けたかな。
「ついでに演奏しましょうか」
カリンバを取り出して演奏したのは子守歌。
有名だし日本語の歌詞もあるから童謡とか唱歌だと思ってたんだけど、なんかクラッシックの曲なんだよね。
弾くと日本の曲じゃないのは分かるんだけど、固定されたイメージって凄いよな。
簡単だからこっちの言葉で歌ってみようかと思ったけど、意外と難しい。
翻訳もそうだし、文字数が合わない。
まぁでも。
粒々が集まってすうっとイサキに吸い込まれたから、そろそろいいかな。
「ねむれ、ねむれ」
こっちの言葉で歌える冒頭部分だけを口に出して、テンポを落としつつ、ポンポンポポポポポン、と。
「寝ました?」
物凄い小声で確認。
「寝たわ」
物凄い小声で返って来た。
そこにコホンとマティルデさん。
「穏やかに眠ったのは喜ばしいですが、睡眠薬を飲ませる様な方法ではないですか。もう少し苦労してください」
ちょっとした達成感があったんだけど甘かったらしい。
ビアンカさんと二人で苦笑いを浮かべつつ、ベッドに寝かせて寝顔を眺めた。
おままごとだって笑われるかもしれないけれど、俺も育てる側だって、ちょっとづつ自覚していければと思う。
粒々がイサキに吸い込まれたって事はやっぱり問題がないとは言い切れないのだ。
「イブキは大丈夫なの?」
「はい。特に不調はないです。火の国ランプも使ってるし薬も飲んでるので」
止めればまた手足が震えるとかするんじゃなかろうか。
いつ隕石が落ちてきて即死するとも限らない。
不調が一生のお付き合いなら、その内イサキにも歌とかは教えないとダメかもしれない。
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次回は1/21の更新を予定しております。
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