98 強がりたいお年頃
それからは予定通り七国連合の拠点で錬金術師として復興支援に参加した。
俺の腕と経験だと見習い扱いで素材化とかの消耗品とかが主な仕事。
運ばれて来た落下した隕石を錬金して、水石とか火石とか光石なんかの燃料素材の作成とか。
もう一生分作った気がする。
先生の助手扱いで培養液も一生分作ったんじゃないかな。
一度足の切断も頼まれたんだけれど、腕力的な意味で無理だった。
先生は言ってみただけだったらしくて、
「えっ? やろうと思ったの?!」
って驚いてた。
「じゃあなんで頼むんですか!?」
あんまりびっくりするから俺もびっくりしちゃったよ。
先生はしばらく固まってたけど、
「……そういえば君はできる事はやるコだった……」
と呟いてから仕事に戻って、それっきりそういう事は頼んでこなかった。
当たり前なんだけど、先生と俺の間にあった、他人、という壁が、急に色を持ったみたいに感じる。
気持ちがもやっとしたけれど、日々の慌ただしさにいつのまにか忘れていた。
他にも、軽症者を集めてもらって、寝て起きたら治ってる薬、と称した睡眠薬を飲ませて治したりもしていたのだ。
これはイェンスさんから提案で、引き受けてから最初の実施は三日後。
提案された日に電話して言っておけば良かったんだけれど、会議で初めて聞いて驚いたと、またビアンカさんに心配をかけてしまった。
ケガとか病気みたいに、性格も治ったらいいのになぁ、なんて思う。
イーダとエルンストさんはまたフォーティスト国の被災地に戻り、イーダだけ一週間後に合流。
これは救助者の捜索が打ち切られたから一時的に来ただけで、三日滞在して隕石落下による地質変動の計算? とかをして、また現地に戻っちゃったけど。
仕事の細かい話ってお互いにしないから相変わらずなんだか分からないんだけど、地形学者らしい動きなのかな? そんな気がする。
復興は急ピッチで進み、仮設とかじゃなくて、普通に先生の家も元あった場所に同じ形で建ったって。
土の国や木の国から魔法使いとか妖精さんも手伝いに来てたらしい。
大型の製造・複製機もフル稼働だったから、なんなら元々住んでいた家よりも設備が充実した家もあるとか。
すげぇな、この世界の常識。
元の世界にもこんな風に魔法とかがあれば色々違ったのかな。
隕石が落ちてきて街が消失みたいな話はなかったけど、地震や大雨、山火事や噴火は一年中世界のどこかで起きていたと思う。
『条件が違うなら発展する方向も違うと思うよ』
なんてイーダは言ってたけど、元の世界の高層ビル群とかを思い浮かべちゃうからしっくりこなかった。
「そろそろ帰宅して、自宅で復興支援に参加します」
先生がそんな事を言ったのは一ヶ月を過ぎた頃。
拠点にいる錬金術師たちもそろそろ自国に戻ると言い始めている。
イーダは地盤沈下しそうな土地があるとかで、もうしばらくかかると言うし、どうしようかな、と悩む俺に、
「マルレーネに会いに行きましょうか」
と、先生が誘ってきた。
生命系錬金術師が集まる一画の、生育室と呼ばれているその部屋は、通常時は人工授精した子どもがいる部屋だ。一時的に錬金術での治療が必要な重症者を入れていたので、今は閑散としている。
「マルレーネさん、復帰してるんですか?」
マルレーネさんは組合の拠点が職場だった人。
元の世界で置き換えると、ノーベル賞を狙えるレベルの博士っぽいんだよね。
部屋の隅では何人かの子どもが毛布で綱引きみたいな事をして転げまわっている。
犬系の獣人かな?
こっち風の簡素なワンピースの裾から尻尾がはみ出してゆらゆらと揺れていた。
「復帰はどうでしょうね。マルレーネ?」
普通の音量で言った先生に、振り返ったのは子どもの内の一人。
「マキシミーリャン!」
不明瞭な発音でそう言って駆け寄って来たのは、知らない生物だった。
「お元気そうで何よりです。なにか思い出せましたか?」
先生はそう言って、タシタシと足を鳴らしている。
子どもはコテリと床に着きそうな程首を傾げてから、
「元気!」
とだけ答えて、先生に抱き着いた。
体のサイズが同じくらいだから倒れやしないかとヒヤヒヤしたけど、先生はしっかりと受け止めて立っている。
「……クレアの実験で負ったケガは致命的でした。マルレーネは交換用の体を用意していましたが、脳を入れ替えても記憶と知識は引き継げなかった。出来るだけ新しい物にと、交換できるパーツは全て交換したので、また新しい生を全うするでしょう」
ポンポンと、先生がマルレーネと呼んだ子どもの背中を叩けば、笑いながらまた子ども達の輪に戻っていく。
どうして俺を呼ばなかったのかって、一瞬にして怒りに似た感情で頭がいっぱいになった。
その時なら俺はカトリンさんに庇われて眠っていて、じゃあカトリンさんが悪いのかって、どんどん気持ちが黒くなる。
なんで今の今まで黙ってたのかとか、時間の逆向なら今からでも元に戻せるんじゃないかとか、とにかくグチャグチャになった。
「……恐れの対極感情は怒りと言われています。振り回されずに聞きなさい」
先生がマルレーネさんを指差して、静かに言う。
「本来なら私があそこにいたんです。私だってこの世界の錬金術師で生命が専門だ。予備の体を自宅以外にも保管しているし、それは一般的な行動です」
助けなくても良かったって?
カッとなって先生を睨みつけたけれど、先生はまっすぐに俺の事を見ていて、ああ、振り回されてるかもと思う。
何か喋ろうとして口を開くけれど言葉は出て来ない。
変わりに視界が歪んで、瞬きをしたら涙がこぼれそうだった。
慌てて袖口で目を拭う。
「マルレーネの方が優秀でこの世界で役に立つでしょう。けれど君は私を優先し、後悔はしていないと言う。それ自体はとても嬉しく思いましたよ。本当にありがとう。ただ、その気持ちだけでよかったんです」
俺の感情と引き換えに生き残り、その騒動に巻き込まれて先生の知っているマルレーネさんは死んだのだ。
それは俺が嫌だと思ってひっくり返した事と同じで。
先生にはできない事で。
後悔をしていないのは俺で。
気持ちだけでよかったって言うなら、その気持ちを先生に分かって欲しいのも俺だった。
考えなしの子どもがその場の勢いでたまたまワガママを通せちゃっただけの話。
責任も、後始末も、全部他人に任せて、言われるまま行動してやってるつもりになって、先生の気持ちなんか考えてもなかった。
マルレーネさんの事も知らなかったし、聞きもしなかった。
これからどうしようかなぁ、などと、それは呑気にぼやいていたのだ。
怒りでグチャグチャだった感情は、形を変えてもっとグチャグチャになり、今度こそ涙が落ちる。
「以前の君との違いに、私は少し怖いと感じていました。泣けるなら良かったです。よく学んで、よく考えなさい」
ポンポンと俺の足をたたく先生の声はとても穏やかで、追い詰めておいてそりゃないですよって、ちょっと笑った。
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次回は1/18の更新を予定しております。
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