96 戻らない物
用意してくれた部屋は会議室っぽい部屋で、誰か偉い人の使用人とか秘書とか? そういう感じの人が飲み物と軽食を用意してくれて、
「後ほど会議に参加して頂きます。一時間程お待ちください」
と、なにやら台座に乗せた地球儀みたいな物を設置して出て行った。
そういやまともに飯を食ってなかったな。
モソモソ食べながらエルンストさんに聞く。
「その丸いのなんですか?」
「テレビデンワ」
えええええええ!
丸いって事は三百六十度カメラ?
なんて思ったんだけど全然違った。
カメラ部分は台座の方で、地球儀部分が画面になるらしい。
「魚眼レンズみたいな映りにならない?」
「映るのは壁や天井だよ」
プロジェクター的な?
「会議って、誰とするんですかね?」
「各国の王様。ビアンカさんも参加するよ」
わぁ。
「心配してますよね? 怒られないといいんだけど……」
さっき先生に物凄く叱られたばっかだから、また色々言われるのはちょっと辛い。
恐怖とは。
単純に一つの感情ではなく、いくつかの感情を取りまとめた一つだと先生は教えてくれた。
その半分とは、全部が半分づつなのか、例えば十個の感情があったとして、五個って意味なのか。
そんなの聞かれても分からない俺は、その場にいた全員に可哀そうな目で見られたよね。
だって、自分で分かるとしたら、いつもより落ち着いてるとか、パニックにならないな、って、その程度で。
言われて気が付いたんだけど、他人のケガとか、血とか、そういうのも平気になったみたい。
今までは見る度に倒れたり吐いたりしてたけど、全然そんな気分の悪さもなくなってた。
恐怖っちゃ恐怖なんだろうけど、恐怖のど真ん中からはちょっとズレてたのかな。
追加で他人にケガをさせる事も、って言われたけれど、こっちはしっくりこなかった。
前に拉致られた時も攻撃はしたし。無抵抗の人を金属バットで殴れとかだと厳しい気はするけど。
なんて答えたら、カトリンさんから傷口に枝を刺していたよと言われてしまった。
うーん。でも、手を噛まれてて痛かったし、仕方なくない?
そんな事情説明に、エルンストさんは、
「イブキならまた右手をダメにするまでなにもしないと思う」
と言い、先生は、
「それ以前に自分から口内に手を入れてまで通訳機を探すとは思えない」
と言われてしまった。
そうかな?
言われてみれば?
やっぱりその程度の感想しか持てなくて、ようやく前はもっとぐちゃぐちゃ考えていたかも、とは思えた。
飛んできてくれたイーダも合流したんで、そんな話をしてたら、
『今もらしくないと思うよ。本当なら失った事に恐れを抱いていたと思う』
だって。
「昨日まで腕の切断面から目を逸らしていたイブキが、今日会ったらじっくり切断面を観察している、でどうだ?」
エルンストさんが例えてくれてなんとなくの理解。
人が変わったとか言うけど、そういう感じ?
なにがあったんだろうってなるけど、そこは明確に感情半分あげちゃいました、だからなぁ。
「……後悔はしてないので、俺としてはこれでいいです」
先生が死んだり、俺の事を忘れたりする方が大問題だったのだ。
するりとイーダが巻き付いて、
『大切な友人を助けてくれてありがとう』
そんな風に言うからちょっと泣きそうになったのに、
『家族の感情を蔑ろにされて許せない部分もあるが』
と首を絞められた。
死んじゃう、死んじゃう。
ポスポスとタップして緩めてもらって、一息吐く。
蔑ろかぁ。
確かに軽くは見てたかもしれない。
会議前に電話をくれたビアンカさんから、
『対価に感情の受け渡しなんて冗談じゃないわ! 廃人になったかもしれないのよ?!』
って怒鳴られて、ようやくみんなの心配が半分だけ分かった。
気がする。
この期に及んでまだ半分だけで、気がするだけってのも我ながらどうかしてるけど。
なにかが俺の中で決定的に変わってしまって、取り返しはつかないのだ。
ほんの少し沸いた恐怖に、ああ、ちゃんと恐怖あるじゃん、なら全部を半分づつかな、なんて思いながら口を開く。
廃人になる恐怖はなかったけど、
「嫌いになる?」
嫌われて離れられるのは怖いと思えた。
ポンと肩に手を置いてエルンストさん。
「特には」
特には?
「ならないよ」
電話中なのでイーダは声にだして簡潔に。
『根本的には変わらないのではない? 行動予測が付かなくて困るけれど、好き嫌いとは別の話よ』
呆れた感じのビアンカさん。
「手がかかる程愛着が湧くというものです」
後ろから先生まで言うから、振り返ろうとしたら顔面に飛び付かれました。
「ふび! ふびふぁもふぇる!」
首! 首がもげる!
「何ですって?」
ワタワタしてたらみんなが笑ってたのでホッとした。
それから、これ以上心配をかけないようにしなくちゃと、内心反省しつつ、みんなから一通り総攻撃をくらう。
バカだのアホだの考えなしだの言われたい放題だった。
そうそう、気になった事も一通り。
大規模災害の後なのにこんなにのんびりしていていいのかとか。
ここもビアンカさんもあくまで隣国なので、出来る部分だけ手を貸すってスタンスみたい。
それでも元は一つの国だったから、自国並みの手助けをしている印象だな。
会議もフォーティスト国の王様は基本不参加らしい。
書記っぽい役職の人がまとめて報告して、最終決定の会議にだけ少し参加するんだって。
うん、大変そうな事しか分かんないや。
俺がまとめて治した国の関係者は経過観察をぶっちぎってもう被災地に向かったって言うし、なかなかパワフル。
ちなみに先生は被災者で家もないので慌てて戻らなくても大丈夫。
戻ったら戻ったでやる事はあるけれど、受け入れ態勢も整っていない。
俺と一緒にこのまま七国連合で組合の召集を請け負う形にする、ってか、してくれるって。
付き添いなのか監視なのか謎だけど、先生の家に居た時みたいで懐かし嬉しい。
それからさっきの秘書っぽい人がシャチの人と戻って来て、テレビデンワを起動。
地球儀からはスポットライトみたいに光が出て、壁に七つの丸を作った。
地図と同じ並び順で王様の顔が映るみたい。
既にビアンカさんは映っていて、軽く手で合図を送ってくれた。
あ、モニターもできるんだ! 地球儀の載った机には俺の顔が映っている。
先生とエルンストさんがカメラに映らない位置まで避けて、イーダは薄ーく伸びて薄っすら見える程度に。
仕上げとばかりにさっと、シャチの人が俺の後ろに立つ。
「? なんですか?」
軽く振り返って聞いたら抱き着かれた。
「虚偽の発言はお控えください。濡れますよ』
そういえばウソ発見器だったね!
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次回は1/12更新予定です。
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