94 ブレない先生たち
思い描いたのは映画で見た弾丸が貫通するイメージ。
呼吸に合わせて少しづつ血が噴き出しているけれど、この量なら死なない。
これはこちらに来てからの知識だ。
返事がないのは痛すぎてかもしれない。
「イブキ!」
先生が突進してきたので慌てて受け止める。
バランスを崩して踏ん張ったけど、踏ん張り切れずに滑って尻もちをつく。
先生を膝に抱きかかえて座り込む体勢になった。
「ちょ、先生! 大丈夫!? せっかく治したのに、ケガとかしてない?」
顎、爪は刺さらなかった?
むにゅっと顎を持ち上げて見たけど毛が生えてるから見えないんだよな。
ゴワゴワもしてないから出血とかはなさそう。
「イブキ!」
タシタシと蹴ってきた。
「痛いです!」
「何をしているんだ! 殺す気か? 早く治しなさい!」
「っ先生どっかケ……」
「違う! クレアとセバスチャンだ!」
は?
「治してなんかされても困るじゃないですか! 痛いだけで死なないですよ! せっかく無力化したんです! 先に色々確認させてください!」
「いつからそんな子になったんだ! 育て方を間違えた!」
ゴツンと先生の本気頭突きを顎に食らって後方に倒れる俺。
痛すぎる。
性格が形成される程は育ててもらってないですよ! ひどい! 顎割れてない?
衝撃で何も言えないからチラ見したら、先生はクレメンティア先生になにか告げてから走り始めた。
あ、セバスチャンは踏み越えた!
そこは踏むんだ!
小さいから迂回すると時間がかかるからだな?
半分起き上がって先生の背に向けて言う。
「先生! 人を呼ぶなら俺に危害加えない人にしてくださいよ! あ! 荷物! 俺の荷物も! あったら!」
俺も走れば入り口に着く前に先生を捕まえられるけど、事情も状況も把握できてないから先生に任せよう。
先生は特になんの反応もせずにタッタカと走って行った。
戻ってくるまでに少しは話を聞けるだろうか?
もう一回クレメンティア先生を覗き込んだんだけど、話せそうにもない。
セバスチャンの方へ移動する。
「セバスチャンは話せますか?」
体毛が邪魔して顔色とか分かんないんだけど、ちょっと苦しそうかな?
死なないから大丈夫だとは思うんだけど。申し訳なさはある。
ビー玉みたいな綺麗な目と視線が合った。
「……前から聞きたかったんだけど」
「なんですか?」
「なんで私だけ呼び捨て?」
呼び捨て?
「……ホントだ! 無意識です!」
イーダとかも呼び捨てにしてるけど、確かに他の錬金術師組合関係はみんな敬称付けて呼んでたかも。
「……俺の居た世界だと”ちゃん”って敬称があって、セバスって名前の人にちゃんって敬称付けてる気がしてたのかも。なんか口が納得しちゃってました。ごめんなさい」
「……懐かれてると思ってたから、残念」
セバスチャンは笑うみたいにそう言った。
「……懐かれたかったんですか?」
両手足が動かないからか、腹筋とか背筋とかを駆使してモゾモゾと俺の方に体を傾けてる。
もう血は噴き出さなかった。
「懐かれてたら、大規模災害とか、一生に一度の大発明とか、そういう時には、優先して貰えるんだろうなって」
「ああ。そういう」
確かに。
先生が被害に合ってなくて、連絡が付いていたら、来なかったかもしれない。
いや、来たかな? どうなんだろう?
先生は手伝いに来いって言いそうだし、ビアンカさんも、なんだかんだ言って国としての対応で行けって言いそう。
積極的に救助活動に参加できたかと問われれば、否。
来ても言われるがまま薬液作り、とかだったと思う。
「……優先するつもりも消し飛ぶ所業でしたけど」
保護してくれたカトリンさんは削れてるし、話をしましょうとか言って俺の喉潰してたし、先生は拘束してたし。
「まぁ、怒ってた分も攻撃に回しちゃったんで今は怒りとかはないんです。なにがあったのか知りたいだけで」
話す気はありますか?
と首を傾げれば、ぽつりぽつりと話始める。
「イブキが意識を失った時には部屋に居た全員の体は完治していたよ」
俺が中で何をしていたのかは軽くベンヤミンさんが話したらしい。
魔力暴発の対応で部屋の扉はすぐには開かない。
これは俺も教えてもらったから知ってる。
実験場の壁は爆発しても大丈夫な作りだけれど、入り口だけはそうもいかない。
緊急の際は扉横の二重になった壁をスライドさせて閉じるのだ。
閉じるのはレバーを下げるだけの簡単構造なんだけど。
開ける時はエルンストさんレベルの力持ちを何人も呼んで元に戻さなくちゃならない。
そこだけなんでか力業なのだ。
そして力持ちはみんな隣国へ救助活動に出ていたり、ようやくの休憩中でなかなか捕まらず。
凄い頑丈な壁で壊すのも無理。
運び込まれた人々は保存液の作用で箱から出さなければ目を覚ますことはない。
「好機! って沸いたよね。クレメンティア先生と私は」
さすがの研究バカである。
俺も前に巻き込まれた、あのハイテンション。
勢いのままカリンバを回収して速攻で何度か実験したんだって。
あー、魔法、使えちゃうよね。
でもさ。
音楽なんてあっても不思議じゃないのに、この世界には全くなかった。
それってめちゃくちゃ規制したって事で。
「小さな爆発が何度か起きる程度だったけど、手応えは感じたよ」
セバスチャンは嬉しそうに言うけれど、それはただの事故だと思うよ?
「それなのにベンヤミンがイブキの時とは全然違うって、手を出す領分じゃないと言い出して……」
カトリンさんとベンヤミンさん、セバスチャンとクレメンティア先生で対立する形になったらしい。
話し合いの間にも情報はポロリポロリと洩れる。
日本語でも魔法行使が可能と思ったみたい。
内容が分からない様に日本語を使っているだけで、日本語で話をしても発動しないんだけどね。
そんな事を教えてくれる人はいない。
俺の意識が戻って騒がれても困るし、魔法を使われても困る。
だから。
「喋れない様に喉を潰している時にカトリンさんが」
俺をかっさらって巨大化した、と。
マジでありがとう、カトリンさん!
蚊帳の外だったゲルハルト医師は最初から大変危険な状況に巻き込まれていると感じてたそうで。
「扉を閉めるのに部屋を出ていたイェンスと連絡を取ってたんだ。白熱してたんで気が付かなかったんだけど」
扉を開ける気配に俺から取り上げる物を選択している時間はなかった。
「慌ててすべてを回収したのは申し訳なかったよ」
トイレとかね。マジで危なかったんですよ?
ビアンカさんとイーダからも何度か電話があったって。
ちゃんと毎回電話には出て、手が離せない作業の最中とか、休憩して眠っているので起こしたくないとか、伝えたらしい。
それだと乗り込んでくるのも時間の問題だな。
電話ができない場合は文章で。
そんなルールが俺たちの間にはあるのだ。
ビアンカさんが荒ぶってないといいんだけれど。
無理か。
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