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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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90/111

90 対価


「久しぶり! クレメンティア先生から連絡を貰ったんだ。塔で勤務しているからずっと忙しなくてね。気が狂いそうだったから助かったよ」


 セバスチャンとは組合の説明会の時に顔を合わせたのが最後だったけど、その時と比べると物凄く疲れた顔をしている。

 隕石落下事件からもうすぐ二十時間。

 この辺りも揺れたそうで、すぐに状況確認や救助の会議が開かれたそうだ。

 各所に居る錬金術師の受け入れ準備とか、まだまだ仕事は山積みだとぼやいている。


「ああ、あの時の製造・複製機実験メンバーが呼ばれているんだよ。気にしないで」


 申し訳なくて黙っていたら即バレだったみたいで、そんな風に言われた。

 それもまた俺のせいなので倍で申し訳ない。

 ゴーカートに乗って七国連合の拠点へ向かう。

 隣国の事故なんでこっちの街並みに変化はないけれど、大変な事が起きている空気は感じた。

 恐らく普段は走っていない大型車が街中を走っている。

 物資が運び込まれ、運び出され、ケガ人や、救助の人員を運んでいるのだろう。

 拠点の駐車場も人が多く、荷物が雑多に積みあがっていた。

 入口で用意されていた腕章を受け取り、早速クレメンティア先生と合流する。

 そこは前回も利用した実験場で、くすんだ色をした箱が等間隔にずらりと並んでいた。

 赤や青、紫に緑、黄色。それぞれがくすんで、言い方は悪いが汚らしい色合い。

 多分。

 保存液に漬かった誰か、なんだと思う。

 錬金術師は物質を無駄にしない。

 それは生物も一緒だ。

 たとえば腕が吹き飛んだとして。

 血も、砕けた骨も、飛び散った肉も、回収可能な限り回収して、治すための素材にする。

 血止めとかしている時間も人手もなかったのだろう。

 透明な箱の中、保存液に体液が混ざり、上部には髪や骨の欠片が浮いていた。

 耳障りなほど心臓の音が大きく感じて、慌てて深呼吸。

 いきなり倒れたら話にならない。

 俺の状態を察して助けてくれる人はいないから、自分でなんとかしないとダメだ。


「……酷い有様でしょう? 奥の機材庫を空けて作業室にしたの。確認して貰えるかしら?」


 小さく頷く事しかできなかった。

 クレメンティア先生に誘導されるまま作業室に入る。

 体育館倉庫みたいな感じで、実験場からしか入れない部屋だ。

 窓も出入口以外の扉もなく、すでに防音加工を済ませたのだろう、壁には布が貼られている。

 突き当りの棚には体を治すために必要な素材が一通り並んでいた。


「実験に参加した私とセバスチャン、ベンヤミン、それから木のカトリンはこの部屋への立ち入りを許可して貰うわ。大変申し訳ないけれど部屋の外にはイェンス、マルレーネ、医者のゲルハルトが常駐。その他手伝いの人員が出入りする。極力君を視界にいれない努力はするけれど、絶対ではない。いいね?」


 素材を確認している俺に、クレメンティア先生が言う。

 セバスチャンとベンヤミンさんは中と外の連絡係として参加。

 木のカトリンさんは大活躍だった木の妖精さん。言葉は大丈夫か確認したら、クレメンティア先生が通訳機を制作済みだった。妖精代表として中に常駐で参加。他の妖精さんとも意思の疎通が可能なので俺がなんか失敗しても助けてくれるって。しかも急に衝立とか必要になったら生やしてくれるらしい。最強の盾だ。

 薬特化の錬金術師イェンスさんは変わらず拠点の医局で働いているそうで、ゲルハルト医師と同行。

 マルレーネさんは知らない錬金術師さんだけれど、生命系の錬金術師さん。

 三人とも、俺が失敗した時とか、俺の作業を待っている間に軽症者の対応とかをするらしい。

 そして一番大切な、俺がいないと想定した時に、誰が治したんだよ? 対策で参加。

 まだ実験場には到着していないので、挨拶は後でかな。

 みんな優秀な人枠で、それぞれ別の仕事がある。参加してくれるだけでも有り難い。

 了承を返す俺に、続けて確認される。


「十人ずつ入れる。最初はマックスとフォーティスト国の国関係者だ。いずれも重症。詳細は必要?」


 どうせ聞いても分からないし具合が悪くなるだけだ。

 緩く首を振って、


「不要です。運んでください。すぐに始めましょう」


と告げて、俺はポンチョを脱ぐ。

 部屋の奥、棚の前。

 水の国でポンチョの下に留めていた毛布を敷く。

 荷物をまとめて置いてから、装備と作業エプロンも外した。

 そうこうする内に箱は運び込まれてくる。

 三人で運び込むと言うから心配だったけれど、なにか仕掛けがあるのか簡単に運べるみたいだった。

 先生は小型種用の箱に入って、一番最初に俺の前へ。

 外から先生の状態は分からないけれど、濁った保存液を見て涙が出そうになる。

 箱に手をついて、絶対に治しますね、と心の中で話しかけた。

 治ったらきっと元気に叱ってくれるはず。

 中と外の連絡係はセバスチャンとベンヤミンさんで交代制。最初はベンヤミンさん。

 入り口でカトリンさんと待機してくれるみたい。


「時間、わからないので、椅子と飲み物は用意してくださいね」


 内臓や脳の損傷なんて初めてやるのだ。

 不思議と、出来ない、とは思えなかった。

 すべての準備が整ってから扉を閉めて貰う。

 ただの機材庫だから薄暗い。

 ポケットからカリンバを取り出しながら、毛布の上にあぐらをかく。

 緊急時ばかりだから無意識でも演奏できるように指の動きはかなり練習している。

 大丈夫。大丈夫。

 すぅっと息を吸いこんで、定番になったチャイムの旋律と、日本語で願う。


「治したいんだ。力を貸してくれる?」


 応答する様に光の粒々が一つ、また一つと部屋を埋めていく。

 小さくベンヤミンさんの悲鳴が聞こえた気がする。

 ああ、そう言えば前回は箱に集まってもらっただけで、こんなじゃなかったんだっけ。

 伏せていた顔を持ち上げて、息を吸えば入り込みそうな程群がる粒に話しかける。


「治せる?」


 多分、俺の気持ちの問題だと思うんだけれど、先生の箱に一番多く粒々が吸い込まれていった。

 他の箱にも吸い込まれ、恐らく一番軽症な人の箱、保存液の濁りがゆっくりと取れていくのが分かる。

 ただ治ります様にとだけ思って、ひたすら演奏した。

 どれくらい経ったんだろう?


「いつかみたいに、なにかヒントを貰えないかな?」


 目の前の先生の箱に変化がなさすぎて、焦りと不安が膨らんで口に出していた。


「後ろの素材も使って大丈夫。なにか足りない物はある?」


 最悪今日治らなくてもいい。最終的には治せる、そんな確約が欲しくて。


『それなら君の恐怖を頂戴?』


 無邪気な子どもみたいな声色が脳に響いた。




***


お読みいただきありがとうございます。

次回は12/24更新予定です。

引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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