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09 誤解の解消と健康診断


 毛布みたいな布をばさりと頭から被せてくる。

 犯罪者的扱いではなくて、視線を遮るみたいな、丁重に扱われている感じだ。

 確かに注目されてたからホッとしたけど、なんなんだ?

 優しく肩を押され、誘導されるまま歩く。

 入国審査前だから勿論塔は出ない。

 体感で二階分? 階段を登り、部屋へ入る。

 袋詰めのイーダは先に隣の部屋へ入ったんだけど、これは俺に分かる様に見せてから入った。

 部屋に入ってすぐに毛布は外してくれる。

 白衣を着た虎っぽい獣人さんと、シャチを無理やり人間にしたみたいな人が視界に入った。

 もともと部屋にいたみたい。

 連れて来てくれた制服を着た方々はなにか告げて、すぐに部屋を出て行って、替わりに制服を着たでっかい鳥が入ってきた。

 三人? でいいのか?

 三方向から物凄く話しかけてくるけど、何を言っているのかは分からない。

 鳴き声なのか、いくつかの言語で話しているのか、試してくれてるのも分かる。

 けど、知っている単語は一つもなし。

 椅子に座って聞いているのだけれど全然わからない。

 まくしたてるみたいになってきたんで、俺も日本語で自己紹介をしてみたんだけどそれも全然ダメ。

 しばらくして鳥さんが部屋を出て行って、虎さんに服を脱がされそうになったので、慌ててシャチさんにしがみついた。

 シャチさんって、人間の形だけど、肌とか柄はまんまシャチなんで、感触で色々思い出す。

 身分証明あるじゃん、て。

 身分証明はウーヴェの作ってくれた首輪の下に入り込んでて取りにくい。

 だから首輪を外してからシャチさんに渡した。

 あ、そうだ。虎とかだとじゃれつかれるだけで俺が死んじゃうかもしれないんだった。

 首を噛まれて運ばれるとかでも死にそうなので、慌てて首輪を装着しなおした。

 二人ともそれまでなにか色々言ってたんだけれど、急に静かになる。

 ああ、初めから渡せば良かったのか。

 どこか子どもを相手にする様な態度だったんだけど、ちょっとだけ雰囲気が落ち着いた。

 さて、名前は同じ発音になるはず。


「私の名前は高橋伊吹です。私は、イブキ」


 ゆっくりとそう告げると、シャチさんはそっと俺の頭に手を置いて、


「イブキ?」


と聞いてくれた。

 俺は何度も頷いて、名前を繰り返す。

 やがて虎さんが、


「ロッテ」


と自分の頭に手を置いてい言い、シャチさんも、


「ティモ」


と自分の頭に手を置いて言った。

 指をさすとか、胸に手を置くとか、そういう意味の動作なのかな?

 それがお互いの名前だと理解した俺たちは、名前を呼びあってしばらく盛り上がった。

 そうだよな。

 英会話の先生とか微妙にイントネーションが違うだけで、一応ちゃんと、タァカハァァシィ、つってたし。

 名前に言語は関係ないよな。

 それで虎のロッテがやっぱり服を脱がそうとするので、手で制して自分で脱ぐ。上だけだけど。

 ロッテの白衣が医者っぽいって思ったのもある。

 袖のボタンを外そうとして、水の国で食事をした時にアザラシの店員が握った痕が目に入った。

 ああ、これが見えてるからかな。

 脱いでいる間にシャチのティモは身分証明を持って部屋を出て行った。

 配慮? 確認? まぁ状況が進むならどっちでもいいか。

 空いてる椅子にシャツを置かせてもらって、軽く手のひらを上に向けて脱ぎましたけどアピール。

 ロッテはやっぱりお医者さんぽくて、そっと爪の痕になっている左手を取った。

 単三電池みたいなヤツを軽くコロコロと転がしている。

 ちょっと冷たい。

 で、何が分かるの?

 反対側の手も確認されたし、肘とかもすりむいてたみたいで、次々確認された。

 ロッテが回り込んで背中を確認しようとしたので、手で制して背中を向ける。

 背中ってか、肩を確認されて、ああ、肩も叩かれたっけと思う。

 あの時の痛さ的に痣になっているかもしれないが、自分だとわからない。

 あと牛にも跳ね上げられて尻を強打したし、その前は地面も転がってるんで、他にも痣とかあるかも。

 動けてるし、骨とかは大丈夫そうだけど。

 歩いたり床で寝たり椅子で寝たりで本格的に休憩って取ってないし。

 言われてみれば全身バキバキな感じはある。

 現実味がなくてちゃんと考えてなかったな。


「バンッ」


 大きな音をたてて扉が開いた。

 ちょうど扉側を向いていたので、慌てて入って来たティモにびっくりする。

 アザラシも力強かったし、シャチも力が強いのだろうか。

 後ろからロッテがなにか言って、ティモがなにか言い返して、その間にするっとすり抜ける様に、多分イーダが入ってきた。

 触角を伸ばして俺の頭に突き刺して、


『イブキ! 大丈夫だったかい?』


と、テレパシーなのに大声で聞いてきた。

 決壊って言うんだろうか。

 行動と気持ちと言葉が噛み合ってない俺は、


「あははは、大丈夫、全然、平気」


笑いながら号泣してしまった。

 イーダはすぐにその場にいる全員を繋げてくれて、俺が喋れる様になるまで二人に話をしてくれ……


『イブキは水の国に堕ちて来た言葉も通じない子どもだ。それを! 通訳も用意出来ないくせに引き離して服を脱がせて泣かせて何をしているんだ?』


『ケガをしているし首輪までしていて荷物も持たせていた! 年端もいかない子どもを奴隷にしているのだと思われても仕方がないだろう!』


『診察に決まっているだろう!? 可哀そうに上半身だけでも打撲だらけだ。本当に危害を加えていないと言えるのかい? どうして手当をしていないんだ?』


 え? ケンカ?

 そうは思えど、どうにもうまく涙が止まってくれない。


『私は彼を助けようとここまで連れて来たのだ! ケガなどさせては……え? ケガ?』


 イーダが俺を見ているのだと思う。言葉が止まった。


『雲族の君には馴染みがないかもしれないが、なにかに衝突しただけで千切れたり縮む様な身体的不調につながるのだ。この赤くなっている部分は内出血と言って……』


 イーダにとってのケガとは千切れたり縮む事らしい。

 想像してみると、そのまま消滅しそうでちょっと怖い。


『……そもそも無毛種は毛刈りをしなくても分かるのだから……』


 虎のロッテからしてみたら俺って無毛種なの?

 急にスンとして涙も引っ込んだ。

 怒られてるイーダと、ちょっとヒートアップ気味のロッテ。

 視線を逸らしたらティモと目が合った。


「……ティモも無毛種だから分かりやすい?」


『……切り刻まないと分からない。皮が厚いからね』


 毛も皮も薄くて悪かったよ。

 いや、ホント。

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