89 単独行動
中央ではここ半年で元々あった塔より低い塔が建ち、新たな交通手段ができたと聞いた。
各国の首都と首都をつなぐ環状線と、各国の首都と中央国を繋ぐ横断線。
それに各国が必要そうな場所にも建ててるって話だった。
低い位置なので当然高低差が少なくて速度は遅いらしい。
イメージ的には塔が新幹線、低い塔が電車だったんだけれど、速度的には塔が飛行機、低い塔が新幹線かな?
だと、高速便はジェット機?
ガシャっと音がして少しの落ちた体感の後、窓の外がグワングワンし始めたので視界に入らない様に天井を見る。
ずっと震度一から二程度の微振動。
うん。寝よう。
怖かったので迷わず眠る事にした。
別に眠くもなかったので加減して薬剤投与。
五時間程で目が覚める。
寝て起きた分、怖さは和らいだけどまだ落ち着かない。
部屋の外を見る気にもならないので、到着してから自分ができそうな事を紙に書き連ねてみた。
集中して考えていたつもりでもあまり時間は進んでいない。
もう一度眠ろうか、でも起きられなかったらどうしよう?
いつまでも落ち着かずにソワソワしていたら電話が鳴った。
エルンストさんからの、先生の生存を知らせる電話。
そう。
生存、だ。
『保存液に漬けて中央国の七国連合拠点へ運び込んだらしい』
こっちでは手足がダメになった程度なら騒がない。
内臓とか、脳とか、そのままにしておいたら死んでしまう部分に損傷があったんだと思う。
保存液に漬けている間に代替品を作って乗せ換えるのだ。
だからこれは良い報告。
自分にそう言い聞かせる。
それに俺にはカリンバもあるのだ。
さっきまで紙にできそうな事を書き連ねていたから思い付きは早い。
「分かりました。イーダにも連絡を入れて貰えますか? イーダはもうそっちに着くと思うので。俺は連合の拠点に行きます」
エルンストさんにイーダの電話座標を伝えて通話を切る。
それからクレメンティア先生に電話をかけた。
通信部門統括である。
こんな状況なら最新型の携帯電話を持ち歩いているだろう。
予想通りすぐに出てくれた。
『はい、クレメンティア! ……分離機は第七会議室よ!』
何かの作業をしながらなのだろう、音声が早い。
つられて俺も早口になりながら名前を告げる。
『イブキ? イブキ……ああ! イブキね! マックスの事? さっき運び込まれたけれど、優秀な錬金術師がたくさんいるから安心しなさい!』
その手の問い合わせが多いのだろう、いきなり励まされてしまった。
そうではなく! こっちの用件を伝えないと!
「忙しいところにごめんなさい。要請を受けたので今向かっているところなんです。多分あと四時間程度で到着すると思います。それでお願いがあって! 防音の部屋を一部屋用意して貰えませんか? できれば関係者以外絶対立入禁止で!」
内緒の音楽を知っている人だからこれだけで通じるかな?
念の為の防音希望。
音もだけど、単純に治す時に叫んじゃうとかもあると思うんだよね。痛くて。
『防音室? ……ああ、そうか……』
動き回っていたクレメンティア先生が、動きを止めたのがなんとなく分かる。
『イブキ、君を利用しても構わないの? ここにはマックスもビアンカ女王もいないのだけれど?』
つまり、保護者不在で大丈夫? って聞かれたんだよね?
そう聞かれちゃうと、どうしよっかなって怯むんですが……。
先生だけパパっと治すとか、それだけのために部屋を用意させるとか、確かにダメだよね。
うん。分かる。分かるけど。
情けないけど正直に言った。
「利用されるのは嫌です。俺がこれから先、好き勝手に生きていけなくなるのも困ります」
だけど。
「利用って、早く復帰させた方が都合がいい人とか、みんなの大事な人とか、優先的に助けたい人がいるって話ですよね? それ、俺がやっちゃった方が早いならやります。だから内緒で手伝ってくれませんか?」
実際にはそんなに長くはないと思うんだけど、沈黙がとても長く感じて、ごくっと喉が鳴った。
『……かかる時間と必要な物は?』
了承してくれたっぽい?
「状態によって違うとしか。足の骨が粉々になった時は五分ぐらいでした。気絶しても覚醒しちゃうレベルで痛かったです。なにかを用意したりとかは今までにした事がないです」
研究、してたつもりだったんだけど、役に立つ返事はできない。
『……推測で動くしかないのね? 分かったわ。……ある程度使わないと辻褄が合わない素材を用意して、同室に準備……あの時参加していたのは誰だったかしら……』
クレメンティア先生が何やら色々と考え始めてくれたので、
「なにかあれば連絡をください!」
と言って電話を切った。
聞いてなさそうだけど、まあいいよね?
それからイーダにも電話をしてお互いに報告。
先生の件は怒られるかと思ったけど大丈夫だった。
『忘れているみたいだから言っておくが、イブキは人のケガや血に弱い。倒れたり吐いたりするのだから気を付けないといけないよ?』
先生の無事にばかり気を取られていたけれど、確かにそれはそうだった。
大丈夫かな、俺。
やっぱり現場はそれどころではないみたいで、見たらショックを受けるから来るなとまで言われた。
「イーダは大丈夫なの?」
『大丈夫ではないけれど、何度か経験しているから、その分だけ他の人よりも動けるよ。頑張りどころだね』
うん。そうかも。俺も当事者じゃない分だけ動ける気がする。
お互いに気を付けて頑張ろうと言いあって電話を切った。
時間があるうちに食事を摂り、カリンバの長時間演奏対策に爪に硬化剤を塗っておく。
種族別に体の構造も確認して、使いそうな設計図も確認。
ゴーグルにすぐに表示させるための準備もする。
ちゃんと改良に改良を重ねたから、ゴーグルはかけたまま作業が可能だ。
気ばかりが焦っていて時間が長く感じていたみたい。
悲惨な状況に想像が追いつき、見たくないという気持ちが生まれたせいか、あっという間に到着した。
こうなると前半寝なければ良かったなどと後悔してしまうのだから始末に負えない。
高速便を降りた所で、錬金術師のセバスチャンが待っていた。
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次回は12/21更新予定です。
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