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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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88 物理的な距離


 中央国にあるフォーティスト国に隕石が落ちたって一報に、最初に思ったのは、どこ? だった。

 回答はすぐ。

 隣で一緒に聞いていたイーダから。


「マックスの住む国だ。落ちたのはどの辺りだ? 被害は?」


 え?


『それが……中央寄りにある住宅街なんです。被害人数はまだ出ていませんが……』


 先生の家の辺りだ。

 無意識に腹の辺りの服を握る俺の手をポンポンと叩きながら、イーダが早口で質問を続ける。

 気が付いたら錬金術組合の職員さんとの通話は終わっていて、イーダが先生の家に何度も電話をかけながら説明してくれた。

 フォーティスト国の現在。

 人口は一万人を少し超えるぐらい。

 国の広さは長い方を横断するのに八日?

 短い方は道なき道を行くみたいな感じでもっとかかるみたい。

 単位で言われても分からないからそんな説明だった。

 自給自足が可能な状態で、土の国側であれば隕石落下地帯もある。

 住人は隕石がいつ落ちて来ても不思議ではないと覚悟して住んでいるそうで、現場の混乱は少ないらしい。

 ああ、そうだった。

 旧王族を嫌悪する人が多く住んでるって、そんな風に聞いた覚えがある。

 見捨てられていたかもしれない土地、逃げ込むのに最適な土地、その土地の王様になったのは全身タイツ部隊の人で。

 いまさら理解が深まったところで意味はない。

 中央寄りの住宅街に半数以上の人が密集して住んでいて、先生の家はその中でも土の国寄り。

 元の世界で人気になったアニメの、モデルになった実在する街が確か隕石のクレーター跡地だった。

 世界最大ではなかったはず。

 それでも歩いて一周一時間。

 なら国のほとんどは無事?

 でも落ちた先は住宅街で。

 分からない。

 分からないのが苦しい。

 先生の電話は何度かけても繋がらない。

 電話が壊れてる?

 本人は避難できてる?

 イーダに質問しても仕方がない内容を口にだしそうになっては飲み込んだ。

 イーダが次に電話をかけたのはビアンカさんのところ。

 出た使用人に名前を告げると、しばらくしてビアンカさん本人が出た。


『イーダ先生? お電話ありがとうございます。マクシミリアン・ジュニアの事は今、エルンストに確認に行かせました』


 開口一番がそれだった。

 ビアンカさんは続けて言う。


『即死者はおよそ百。マクシミリアンの家の辺りであれば即死はないと考えています。ただ、重軽傷を負っている可能性は高いです。現在救助活動中で、重症者は麻酔で眠らせて保存液に漬けています。幸い素材は落ちて来ていますから足りないのは人手。イーダ先生には要救助者の捜索、イブキには錬金術師として参加して頂けると嬉しく思います』


 そりゃ行くよ! 俺で役に立つなら!

 こくりと頷いた俺を確認してイーダが返事をする。


「参加します。イブキは錬金術師組合から七国連合の拠点に集合と聞いています。私がどちらへ向かえばよいか分かりますか?」


『ご協力に感謝を。イーダ先生は……直接現場に向かった方が早いのですよね? でしたらイブキと一度塔まで移動してください。そちらで行先をお伝えします。塔までの移動手段……迎えを手配しますね。二時間後には到着予定です』


 手配をしながらなのだろう、話がとても早かった。


『イブキも聞いているのよね? 必要最小限の自分の錬金術道具と、携帯食と水ポンプは忘れないで。ああ、携帯電話も! イーダ先生、宜しくお願いします!』


 最後はバタバタと、電話は切れた。

 二時間後って……。

 二人で慌てて準備を始める。

 イーダにはしばらく留守にする旨を、こっちの人に分かる文字で何通りか書いてもらって、車に貼ってもらう。

 その間に携帯電話の準備。

 イーダと俺で二台持つとなると固定電話も二台用意しないといけない。

 慌てて材料を製造・複製機に放り込んだ。

 必要最小限の錬金術道具は作業エプロンにセットして中に着ていっちゃおう。

 携帯食と水ポンプ、それからまるっと一回分の着替えをカバンに詰め込んだ。

 出来上がった電話をイーダの倉庫の奥に設置する。

 これで座標が被らないはず。

 通話確認。

 よし、問題なし。

 ビアンカさんにもう一度電話をかけて、出た使用人の人にイーダの携帯の座標ですと伝言して電話を切る。

 また車に戻って全部の装備を身に着けて、と。

 中央に合わせて生地の薄い上下に作業エプロン、移動中はまだ寒いので薄手の毛布をポンチョの下に留めて羽織った。

 首輪にスマホコッチ版、ヘルメットにゴーグル、稼働に必要な燃料の補填も問題なし。

 あ、一応お金もちょっとは持っとかないと。

 イーダも作業が終わって車の中で準備をしている。


「放置するとダメになる物の確認は大丈夫?」


 してませんでした!

 食材は保存庫へ、毎日培養液の入れ替えが必要な作業中の物を諦めて分離機に放り込んだらもう時間である。

 いつか利用したセイウチがキュウっと車の前で鳴いたので慌てて車を出た。

 鍵を閉めて、最終確認。

 イーダにももう携帯電話を渡したし、大丈夫かな。


「よろしくお願いします」


 とセイウチの背に乗って、恐ろしい速度で塔のある街まで移動。

 あれこれ考える余裕のない移動なので気が付いたら到着してた。

 前回はあまりの事に気にならなかっただけだな、きっと。超怖かった。

 イーダがセイウチにウーヴェへの伝言をお願いしている。

 お礼を言って見送ってから塔に入った。

 受付で錬金術師組合員証と身分証明を見せる。

 話は通っていたみたいで、イーダには地図が渡されて、俺には一般便とは違う便が用意してあると言う。


「場所どこだった?」


「……全身タイツ部隊の拠点の一つだね。あの車の倉庫にしていた場所。避難所になっているらしい。ああ、シュテファンが無事の様だ」


 その言葉に、何人かの全身タイツ部隊の人の顔が思い浮かぶ。

 そっか。あそこに住んでるの、先生だけじゃないんだった。

 するっとイーダが巻き付いて、


『無理なくできる事をやるだけだよ。移動中は体を休めて、万全にね』


だって。

 繋がっているから声には出さずに俺も返事をする。

 イーダこそ無理しないでね。うっかり空に帰らない様に気を付けて。なにかあれば連絡を取り合おう?

 今度はするっとほどけて、


「ああ。お互いがんばろう、それじゃあね」


と言って空に消えて行った。

 俺は職員さんに案内されてエレベーターに乗り込む。

 ビアンカさんが、現在は高速便と呼ばれている旧王族のチャーター機みたいのを手配してくれたらしい。

 倍速まではいかないけど十時間程度で到着するみたい。

 高速移動してばっかりだな。

 高速便は完全な丸型で二重。

 落下しながら外側がグルグル回って更に加速するんだとか。

 勿論内側は回らないし、元はチャーター機だけあって普通に住める設備一式って話だけど。

 どら焼き型と違って少し揺れを感じるかも、だって。

 恐怖と酔いと色々な心配事で頭がどうにかなりそう。

 自分に麻酔薬を打ち込んで寝て過ごそうと心に決めて乗り込んだ。




***


お読みいただきありがとうございます。

次回は12/18更新予定です。

またお付き合いいただけましたら嬉しいです ^^

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