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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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85 生存する世界


 目が覚めたのは車の中。

 毛布で包まれてベッドの上。

 なんで毎度包むのか。暑い。

 あ、でも、装備も外してくれているし、靴も脱がしてくれている。

 寝やすい恰好になっているからエルンストさんが世話を焼いてくれたのかな。

 頭、すっきり。

 体、痛いところなし。

 心、平静。

 凪。

 夢、にしては生々しく、さっきまで話していた余韻があった。

 夢、じゃないと良い。

 今回の最後は笑って別れた。

 その前は確か。

 父はおやすみーって、二人して不細工な顔して。

 あきれ顔の母に、行ってきまーす、と爆焦り顔で。

 いや、マジで、夢じゃないといいよね。

 最後の顔がそれって、お互い悲惨な感じする。

 しかし、頬っぺたの一つもつねればよかったな。

 そんな事を考えながら起き上がって枕元に置いてる時計を見る。

 二十三時。

 わぁ。結構経ってた。


「イーダ?」


 車の中に居れば繋ぎっぱだよね?

 そのまま部屋を出れば階段下から見上げるみたいにイーダが居た。


「おはよう?」


「大丈夫?」


 お、珍しく音声?

 だと、エルンストさんが電話中?

 ん? 電話中?


「え? 電話中? ヤバイヤバイ! またビアンカさんに心配されちゃう!」


 慌てて階段を下りてソファの方を見れば案の上ビアンカさんと通話中だった。


「自分で階段を下りてきましたから問題ありません。どうかそのまま領地に居てください。マティルデが泣きます」


 あ、起きた時の声掛けでイーダが先に伝えてくれてたっぽいね。

 エルンストさんがなだめてるけど、ビアンカさん来ようとしてんの?

 なにやってんだ、女王様。

 聞こえる様に大きめに声をかける。


「あー、全然元気っす! でも寝起き過ぎるんでちょーっと顔洗って飲み物取ってきますね! あ、なんだったら掛け直しますよ!」


 報告が済んでいるならエルンストさんも話す事がなくて大変だよね。

 電話だと顔色とか声色とか分かんないからビアンカさんも色々勘ぐって疲れるだろうし。

 やっぱりビデオ通話いるかな。

 疲れてるのごまかしたりできて都合が良い場合もあるんだけど。

 顔を洗って、何となく甘い物を飲みたかったので果物をジュースにして戻る。

 電話はまだ続いていた。

 イーダが今なにしてるみたいのを伝えて、どうやら本当に問題がなさそうだとみんなで安心したところみたい。

 実況中継されてた?


『イブキはどうしてそう呑気なの?』


 ビアンカさん怒ってるなー。

 顔を想像して思わず顔が緩む。


「呑気ったって、俺からしたら寝てて起きただけなんで」


 まぁ、自力で車まで戻って来た記憶がないから倒れたのは明白。

 それがエルンストさんとかイーダだったりしたら俺も呑気ではいられない。


「心配かけてすみません。……二人も、ありがとう」


 エルンストさんが俺の頬っぺたを狙っていたので慌てて言葉を追加するも遅かった。

 びよんと摘ままれる。


「いひゃい」


『エルンスト、もっとやっちゃって』


 なんで何されてるか分かったの、ビアンカさん?

 それからあの後起きた事を聞いた。

 ぐしゃっと俺が倒れたんだけど、なかなか粒々が収まらなかったんだって。

 ウーヴェ含む三人は限界ぎりぎりまで近づいて声をかけたけど俺は起きず。

 粒々が収まったのは二時間後。

 最長記録!

 慌てて近寄れば俺の体は冷え切っていて、声をかけても揺すっても起きない。

 それは普段でもそうですよ? 蹴っても起きないでしょ?

 呼吸は確認できたから毛布で包んで、熱光石で温めながら車に戻り、ベッドの上へ。

 エルンストさんがビアンカさんに連絡を取って、お医者さんに症状を伝えて指示を貰って。

 あ、この時ビアンカさんは電話には出れなかったみたい。

 で、改めて装備とか外して、体温とか心音とかも確認して、できる事はないってなって。


「微動だにしないのでしばらく見ていたんだが、夕方になって長丁場になるかもしれないと思ってね」


 食事を摂ったりしてたんだって。

 なんだか悪い事をしたなぁ!

 心配したんだから、と口々に言われて、そりゃそうだよねぇと笑いながら改めて思う。

 もうこの世界の子になったんだなぁ。


「イブキ?」


 寝て起きただけの俺の変化に、いつもながら最初に気が付くのはイーダで。

 俺は曖昧に頷いて口を開く。


「夢、なのかな。わかんないや。ただ、夢の中が現実になった? そんな感じで。少しだけ元の世界を見たんだよね」


 夢にありがちの、場面が切り替わっても違和感を感じなかった事は一番初めに伝えた。

 一番最初の場面でカバンの行方。

 二番目で無事に両親の手元に手紙が届いて読まれた。

 三番目に最後に見た両親と対面。

 最後の場面は現在の両親と思われる姿に切替った。

 あっちの常識も説明しなくちゃならないから脱線しまくったけど。

 疑問と相槌だけで感想は挟まず、最後まで聞いてくれた。

 話終わりは少しの沈黙。

 最初に言葉を発したのはビアンカさん。


『……イブキが想像もしていなかった状況だったのね?』


「うん。そう言われてみればって話もあったけど、向こうで七年も経ってるとは思わなかったですね」


 指紋がないとか、監視カメラの話とか、そう言われてみれば、だった。

 でも時間の流れは同じだと思ってた、ってか、考えてもみなかったんだよね。

 まさかそこが違うとは。


「それならやはり夢を媒介に繋がったと考えていいと思う」


 とイーダの意見。

 イーダはそれができるからそう思うんじゃないの?

 俺があれが現実だったと言い切れないのはそういう能力を持ってないからかもだけど。


『いずれにしても時間の流れが異なるなら戻るのはますます難しそうね』


 電話の音声は一律で感情なんて分からないはずなのに、何となく喜んでいる気がする。


「喜んでません?」


 ビアンカさん含め三人から、


『それはそうよ』「それはそうだね」「それはそうですよ」


と返事が飛んできて、声に出して笑った。

 涙が出るまで笑って。


「仮に来年戻れたとしても、十八の体で三十歳ですよ? ちょっと無理ですよねぇ、社会復帰」


 ちょっと苦笑いになりながら。


「向こうだと失踪して七年経つと死亡が認められるらしくて。それならちゃんと死んだ事にしてねって、お願いしたんです。戻れても、戻れないからって。だから、これからもよろしくお願いしますね」


 頭を下げたら少しだけ視界が滲んで鼻の奥がツンとした。

 大丈夫。きっと受け入れてもらえるはず。

 疑った事なんてなかったのにいまさらドキドキした。


『もちろんよ』「よろしくね」「こちらこそ」


 今度は同時だけど言う事がバラバラだったので、顔を上げてまた笑った。

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