83 できる事、やるべき事
予想外だったのは帰れるなら帰った方が良いと言われた事。
『私も追放されたのよ? 戻らない覚悟だったし、諦めもしたわね。けれど、戻れた事を嬉しく思っているの。イブキは、戻る手段があった私とは覚悟が違うかもしれないけれど』
そんな風に付け加えて。
『隕石漁の関係で高所作業の研究所は存在しているの』
落下事故の対策にネットみたいな物はある。だけど高所過ぎてネットを外れるからロープみたいので範囲外に出ない様に更なる対策をした。それでも塔にぶつかるとか、ロープが切れるとかして事故は無くならないんだって。
必然的にドミニクみたいにちょっと浮けたり飛べたりする種族の人が隕石漁師になるみたい。
ただその種族だと腕力は文字通り人並みで、隕石の重さに対抗するには人出が必要で……って話は続いた。
結論。一人で飛べる、または落ち始めたら浮く、そんな道具の研究・開発中。
パラシュートとか、ハンググライダー的なのを思い出して脱線したけど、今日は瞬殺だったな。
失敗済みだった。
考える事って一緒なんだろうか。
『即死しない程度には進んでいるから、こちらで条件を確定させて実験をしてもらいましょう』
だって。
勿論分からない事は多いしリスクは高い。
あくまでも帰れそうならって話だから期待はしないで、とも言われた。
それから、
『ご家族に手紙を送るのはどうかしら? 紙なら落下して来ても危険はないでしょう?』
と第二案。
落下して来ても危険? ああ。人の上に落ちたりしたら大惨事か。それは考えてなかったな。
なんでも地面から距離を設定して外装を砂化する箱が存在するらしい。
これも塔絡みで、最上階から一階への連絡手段に使ってるんだって。
紆余曲折あっての結果なんだからそれが最善だったんだろうけど。
他に方法がありそうだとか思っちゃう。
今は電話に切替っていると聞いてちょっと誇らしい気持ちにはなった。
でも、普通に手紙が落ちて来てもゴミとして廃棄される可能性は高いかなぁ。
ピンポイントで自宅へ落とすにしても集合住宅だ。
共有部分のポスト付近に落ちてれば親切な人が投函してくれるかもしれないけど、室内なので難しいと思う。
いっそ警察署とか? 落とし物扱いで届けてくれるだろうか?
ああ、そうだ。切手もないんだった。
あれこれ悩む俺に、
「いずれにしても結果はわからない。イブキが安心できる、最善と思う場所に落とせれば、それでいいと思うよ?」
と言ってくれたのはイーダだ。
そう。仮に送れたとしても結果は分からない。
ただの自己満足だ。
俺が精神的に安定するための材料の一つになればいいって話なのだ。
問題は座標。
俺が堕ちた場所を起点に、ある程度の設定が必要だ。
自宅の緯度と経度はスマホに保存されているから、それさえ確認できれば何となくで割り出せそうではある。
俺じゃなくてイーダなら。
なんと、地学の教科書で緯度と経度を完璧に把握していたのだ。
距離計算とか自宅からの東西南北は俺が分かってる。
問題はスマホか。
手回し発電の要領で一瞬だけ復活させる程度ならいけるか?
『あら。電気なら以前スマホの解析を依頼した錬金術師が研究しているわよ?』
マジですか?
相変わらずの専門家へ丸投げの姿勢を崩さないビアンカさん。
上に立つ人って感じだな!
ある程度の知識があるからこそなんだろうけど。
それから俺の体調の話なんかもした。
エルンストさんからも軽く聞いてて、ビアンカさんには精神病っぽい話が多少は通じた。
『悪い方にばかり考えてしまう様な状態かしら?』
そうそう! それです!
やっぱりこっちでは病気って認識はなかった。
魔法で治ったって伝えたんで、それならなにかの病気なのでしょう、だって。
栄養なのか毒なのか、ウイルスなのか菌なのか、またはなにかの病気に関連しての不調なのか、その辺は分かんないけど。
こっちは継続して研究を続けてもらって、進行を遅らせつつ、症状が出たら自分で対応する予定。
少なくとも俺は半年以上問題なかったんで、一年に一度キベン国に顔を出してイサキの対応もして欲しいって話になった。
小さい内は寝ている間に済ませちゃえばいいわよって。
カリンバはやっぱり取扱注意なのかな。
そうそう。ジューサーはビアンカさんでも探さないと分からないレベルの骨とう品だった。
電話の向こうで使用人の人に、城で働く高齢の錬金術師から貰ってきてって指示を出してる。
そんで電話を切る頃には固定メールに設計図が届いた。
『夜遅い時は固定メールに送れば良かったのね……』
ビアンカさんまで謎の反省。
いいえ。今回の件は全面的に俺が悪いです。
「色々反省したし、元気になったんでなんとかしますよ」
と再度謝罪。
そしたら追加で少しだけのお叱りタイム。
ごもっともです。はい。
規則正しい生活を、の後にちょっとタメがあって、心掛けなさい、になったのは今がド深夜の二時だから?
時と場合だよね。
足がもげたりとかしたら仕方がないもん。
『いずれにしても一ヶ月しかないわ。エルンスト、一ヶ月そちらでイブキを手伝ってちょうだい』
え?
「ご命令とあれば。ですが……イーダ様とイブキは共に入浴する関係に発展しておりまして。ご自宅も倉庫に改装されて、現在車で同居していらっしゃいます」
ちょ、なにその報告? 必要?
『…………お邪魔かしら?』
沈黙長めでしたけれども! 全然邪魔とか、そういうのは! ないですよ?
「お気になさらず」
イーダも! なに神妙な声だしちゃってんの?
『……新しい家族の誕生は喜ばしい事だわ。イーダ先生、おめでとうございます』
「っふぁ? なんで祝われた!?」
電話の最後はそんな感じでぎゃあぎゃあと。
騒いだのは俺だけだけどな。
それから一ヶ月は目まぐるしく、バタバタと過ぎた。
前半はビアンカさんが手配した人たちと連絡を取り合ったり、届いた設計図を制作してみたり。
初見の設計図なんてお手本を見せて貰えないからかかなりの時間を使ったな。
折り返しの後半戦。
俺は、二日ほど時間をかけて考えて、結局帰るのは諦めた。
毎日手紙を書いては破ってを繰り返し、最後まで気持ちは揺れたけど。
朝は決まった時間に起きて、イーダの倉庫の隣に作った畑の手入れをする。
午前中にやらなくてはならない事を済ませ、午後は研究の時間。
夜は誰かと話をしてから眠る。
そんな生活を送り始めている。
誤差があるかもしれないからと、最終的な日程を確認して。
いよいよ明日。
俺がこの世界に来て一年が経つ日。




