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08 到着のち捕獲


 取りあえずトイレを使ったよね。

 試さなきゃってのもあるし。もう。ね。

 十七時間でしょ?


『傾斜は三段階に分かれて徐々に速度を上げる。到着前も同様に三段階に分かれて徐々に速度を落とす。心配ない』


 イーダの説明を聞きつつ椅子に座ってシートベルトを締める。

 だって一時停止とかなしで、今も動きっぱなしなわけでしょ?

 外が見えていないのも怖い要因。

 今は塔の周りを少しずつ速度を上げながら回っているとか言うし。

 それから中央に向けて最短距離を落下する軌道に入るけど、途中にも塔があって、そこで傾斜を調整してるって話だ。

 俺にも一応慣性の法則とかそういう知識はあるけれども。

 この世界で適応されるかもわからないし。

 怖いは怖いのだ。

 しかも落下する軌道に入った時は結構揺れた。

 しばらくして、


「カーンカーンカーン」


って鐘の音がして、


『もう個室の外にも出ていい』


とイーダが言う。

 感覚的には飛行機の方が近いのかな?

 恐る恐るシートベルトを外し、集中して揺れを感じようとしてみたけれど、特になにも感じなかった。

 技術が凄いのか、常識が違うのか分からないんだけど、怖すぎて全然落ち着かない。

 イーダが可哀そうにと、共有スペースに誘ってくれた。

 上の階が全て共有スペースらしく、今度は箱ではなくてキックスケーターの足場が大きいやつに乗って移動する。

 エレベーターっちゃエレベーター?

 雑な住環境だったから無意識に文化レベルが低いと思ってた。

 むしろこっちの世界の方が文化レベルは上なのかも。

 所々に窓もあって表が見えるみたいなんだけど、動きが速すぎて酔いそうだ。

 遠目に確認するだけして近づかない様に中央付近にあったファミレスっぽいエリアへ。

 何かが提供されるとかじゃなくて、椅子とテーブルがあるだけなんだけれど。

 人間的文化を感じる。

 イーダに地学の教科書を読み聞かせつつこの世界の話も合わせて聞いて行く。

 水の国は秋から冬の気候、火の国は完全に夏。

 土の国と木の国は風向きによって変わるみたいだけど、中央は常春なのかな。

 住みやすそうだな、とぼんやり思う。

 山も木もあるけど海は無くて、雨は降るから川とか池、沼なんかはあるみたい。

 湖みたいな大きな物はなさそう。湧き水もないんだって。

 ひょっとして塩が高級だったり?

 岩塩とか、ちょっと意味不明な方法で塩は作れるけどやっぱりお高いって。

 水の国には海にいそうな生物が結構いたのになぁ。

 ちょうどここにも。

 なんだったっけ。

 人魚のモデルっぽい生物が隣席からこちらを見て首を傾げてて、目が合ってる気がする。


『なんの話をしているのって聞いているよ?』


 イーダが通訳してくれたので、思い切って同じテーブルに誘ってみた。

 普通に二足歩行で席を移動してきた……ジュゴン! ジュゴンだ!

 人魚のモデルなんて詐欺と思ったけど、顔は可愛いんだよな、ジュゴン。

 を。

 虹色にした感じの生物はイーダから塩の話を聞いてタシタシとテーブルを叩いだ。


『塩? 漁で取るやつかい?』


「え? 海もないのに?」


 驚いたんだけど話が噛み合わず。

 どうやら塔から投網みたいのを投げて隕石を取って、それを資源にしてるみたい。

 俺に都合よく変換されて漁って言葉になったんだな、多分。

 そんなに簡単に取れるなら隕石落ちてきて死ぬんじゃないの?

 素朴な疑問への回答は、


『当たり所が悪ければ死ぬね。でも頻繁に落ちる地域には住んでいる者が少ないから心配ない』 


だって。

 宝くじじゃないんだから。

 隕石からは他に何が取れるのか聞いたら鉱物資源? もあるみたい。

 窓を指差しながら、あれもそうって言うんだけど、話を聞く限り炭化ケイ素ダイヤではなかろうか。

 それこそ地学の雑談で聞いた気がする。

 ところ変わればってのはこういう事なんだろうか。

 俺のいた世界だと装飾品になるし、高級品だと教えると笑われた。

 価値的にガラスと同等?

 炭素だって鉛筆とダイヤじゃ全然違うけど同じなんだし。

 なんか混乱してきた。

 話を変えよう。


「俺のいた世界だとあなたは水中に住んでいる生物に似ているよ」


 ジュゴンは答えた。


『風呂にも入りたくないから信じられないよ!』


 いや、風呂には入って?


 その後も乗客と少しだけ話をしたり、個室に戻って仮眠したり、購入した食事をして過ごした。

 再び鐘の音で到着間近を知る。

 しばらくしてからちょっとだけ浮遊感を感じて、その内バタバタと乗客が動き出す気配がし始めた。

 気温が徐々に上がってて、汗ばむほどでもないけど上着はいらないかも。

 熱光石が背中に当たらない様にブレザーのポケットに入れて、ブレザーごとカバンに詰める。

 中央に到着だ。

 乗り込んだ時と同じ様に動いているロープウエーから降り、出来上がっている行列を追う。

 下り線だからエレベーターは使わずにすぐ出口みたい。

 ロープウエーは塔の周りをまわりながら上がって行くんだって。

 どういう仕組みなんだろう?

 落ちるのと違って動力がいるよな?

 入国審査も兼ねているからか列の進みはゆっくり。

 言葉が分からないからイーダと離れるわけにはいかないんだけど、一人ずつ話してるな。

 大丈夫か? これ。


『雲族のテレパシー能力は周知されている。私が入国審査員に声をかけるから安心していい』


 イーダが言った。

 ちょっとだけ安心して、じっくり観察。

 俺の列の審査員はクマと人間を足して二で割った様な感じ。

 他の列は犬っぽいのもいるけど、みんな大きくてそろいの服、制服? を着ていた。

 ダブルのスーツみたいな上着と腕章が共通で、それ以外は自由なのかな。

 腕章には上下に一本ずつの線と、真ん中にどら焼きのシルエット。

 あ。ロープウェイか。

 こういう簡単なイラストなら俺にも分かりやすくて助かる。

 下半身はバラバラで、ハーフパンツだったりニッカポッカだったり、スカートだったり。

 そういや性別ってどうなってんだろ?

 ここに来るまで気にしてこなかったけど、雲に性別ってあるんだろうか?


『ない』


 思わず見上げたイーダの返事は簡潔だった。

 で、そうこうするうちに俺の番になって、審査員の前に出るタイミングで、


『通訳が必要です』


って言ってくれたんだけど。

 審査員が怒ったみたいに大声をだして、警告音みたいなブザーが鳴った。

 バタバタと駆けつけてくる別の審査員。

 袋詰めされるイーダ。


『イブキ、通訳が来るまでま……』


 テレパシーっていうか、頭のてっぺんで繋がってたのが切れた。

 そういう感覚があった。

 袋の中からイーダが何か言って、審査員が怒鳴っているけれど俺には分からない。

 えっ? どうすりゃいいの?

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