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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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79 相反する事柄


 運転中に言葉を気にすると危ないからイーダに繋いでもらう。

 で、ウーヴェの道案内。


『一番黒い木を右に曲がったら一番背の高い木を目指してイーダの家用に運んだ一番小さな木を四十三本分進め』


 そういう問題じゃなかった。

 一応の方角は分かったので走らせながらイーダに上から確認してもらう。イーダ大忙し。

 熱光石を二十年に一回くらい取りに行くとかで場所は把握してるみたい。

 だったらイーダが案内して? と思うんだけれど、道が変わりやすくていつも空から行くから分からないって。

 どういう事? と疑問に思っていたら理由はすぐに判明。


「うぉっ!」


 避けたはずの木がわっさわっさと近づいてきたので慌ててブレーキを握る。

 砂みたいな雪がザっと音を立てて飛び散って、ゴーカートも滑りまくって半回転。

 幸いひっくり返る事はなかったが心臓はバックバクだ。

 木は悪びれもせずに枝を上下させてしずしずと移動していった。


「……妖精さん?」


『そうだ。さっきから何人かすれ違っているだろう?』


 普通の木に混じっているらしい。

 俺に区別がつかない事をウーヴェに驚かれた。

 木が欲しいからって安易に伐採しちゃダメな地域なんだな。危なすぎる。

 移動されちゃうと確かに違和感を感じる程度には風景が変わった。

 地面も掘り返されちゃって、獣道みたいのが方向を変えてしまっている。


「なる、ほど?」


 小さめのヘリコプターとか、一人乗りドローンみたいなの作れないかな?

 そうしたらイーダと空中散歩とかできそう。

 ドミニクとか少し浮いてたから、重力とか? そういうのが俺の知識と違うと思うんだ。

 勉強してみようかな。

 森を抜け、林っぽくなって、だんだん木が減って、ここから先は歩いた方がいいと言われてゴーカートを停める。

 ああ、そうだ、あの日は逆に、雪原から木を目指して歩いて、林になって、森になったんだった。

 変わらずかさかさと葉音っぽい音が聞こえるけれど、今なら区別がつく。

 この音は風の属性を持つ錬金素材で耳にする音だ。

 角度によって虹色に光る綺麗な乳白色の板みたいなヤツ。


「う……」


 雪原で乳白色の板を発見するとかムリゲー過ぎんだろ。


『どうした?』


 ウーヴェに聞かれたけれど、なんて答えたらいいのかが分からない。

 あ、そうか、繋げて貰ってるんだった。

 素材を思い浮かべながら返事をする。


「音は聞こえてるのに見つけにくいなって」


 絶望してました。


『我々がいるから見つけるのは大丈夫だよ。その素材も持って帰るかい?』


 あっさりとイーダ。


『素材にはなにかが群がっている事が多い。すぐに分かる』


 ウーヴェも同意。

 なんか普通に場所が分かるらしい。

 花にミツバチが飛んでるとか、水面に鳥が群がってるとか、そんな話?


「一通り何が拾えるのか確認しときたいかも」


 お願いしたらトットトットとウーヴェが歩き出す。

 中央で見た素材って加工品だったんだな。

 全部が困る程度に巨大なサイズ。しかも地面に埋まっていた。

 すぐに必要な素材以外は少しだけ採取して、必要な素材はウーヴェに手伝ってもらって掘り出す。

 掘り出せるのはまだ最近落ちて来た隕石だけれど、こっちで隕石を欲しがる人はいないから、もっとあるって。

 中央だと争奪戦で死に物狂いでしたよ?

 むせ返る様な血の匂いが充満した作業部屋を思い出してちょっと気が遠くなる。

 しかも掘り出したはいいけど、運べるサイズじゃない。

 放置しておいても誰も取らないって言うし、運べそうな分だけ割って袋に詰めた。


『イブキはどの辺りに堕ちて来たんだい?』


 ふとイーダに聞かれたけれど、俺に分かるはずもない。

 落とし物とかもしなかったから、証拠になる物もないだろうし。


「多分、車を置いた辺りまで一時間は歩いたと思う」


 キョロキョロとまばらに生える木を見てみるけれど、やっぱりなにも分からないかな。


『聞いてみるか……』


 不意にイーダが薄くなって見えなくなる。

 何かに何かを聞きに行ったのだろう。

 ウーヴェは休憩したい気分になったのか、あぐらをかいて斜めに傾いている。

 俺も休憩するかな。

 歩き方もそうだけど、ウーヴェの真似をすると大体疲れる。なので真似はしない。

 ポンチョを脱いでそれを敷物にして腰を下ろした。

 そういや昼飯も食い損ねてたな。

 朝、余分に作ったヤツを持ってきてたのでモソモソと食べる。

 ラップとかないから布で包んだせいかただでさえ固めのパンはもさもさだ。

 しばらくしてイーダが戻ってきた。


『あの辺りらしい。イブキからなにか音がしたのを覚えている様だ』


 示された方向に顔を向けつつ、覚えているんだと妙に感心する。

 なんか別物って感じで、俺の考えとかに当てはめたらダメだと思ってたから。


「考えてみたら歌いながら歩いてたから道とかなんとかなったのかな?」


『それはあるだろうね』


 あるんだ。


「じゃあせっかくだし、落ちたところまで行ってカリンバ弾いてから帰ろうかな。あの時のお礼方々」


 どうせウーヴェは聞いたって大丈夫でしょう? 中央の人じゃないんだし。


『ああ』


 イーダに許可も貰えたし、のんびり歩いて堕ちた場所まで歩く。

 それから座り込んでカリンバを構えた。

 ウーヴェはイーダの指示で少し離れて座っている。

 うーん。どうすっかな。

 気の利いた曲とか知ってても弾けない。

 だから曲にお礼の意味とかはなくて、知ってて弾ける曲を適当に弾いた。

 感謝の言葉は日本語で。


「あん時はありがとう。おかげで死なずに済みました」


 弾いてる曲につられて歌っぽくなるからちょっと恥ずかしいけど、通じてないんだしまぁいいか。

 あっという間に色とりどりの粒々に囲まれる。

 中央よりもずっと綺麗な眺めだった。

 白い地面に街灯がないからこその薄暗い夜みたいな空。

 反射しているのか、本当に光っているのかは分からないけれど、キラキラ輝いている。

 ああ、星の曲は弾けるな。簡略版しか知らないけど。

 バイト先で、音階のある楽器なんかを見つけると誰かしらかが弾いてた。

 みんな元気かな?

 俺は元気なんだけど、なんか元気じゃないらしくて。

 よくわかんねぇや。


「っつ……」


 引っかかって爪が割れ、痛みで演奏を止めてしまった。

 粒々がふわっと俺目掛けて集まってくる。

 綺麗に終われなくてゴメン、っていう気持ちで迎えれば、ポポポポポッと俺に当たって消えていった。

 かすかな音の集まりの中、はっきりと聞こえた言葉があった。


『同じ日なら上げられるよ』


 え?

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