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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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77 自分に都合の良い様に繋がる事もある


 拝啓、父さん。

 元気してる?

 先日、検査で売る程血を抜かれる、を実感した息子です。


「一週間?」


「はい」


 偶然か必然か。

 俺は自分の血をここまでなら抜いても大丈夫ってラインを知っていた。

 そして、失った血液を戻す薬も、安静にしていなければならない期間も知っている。

 イカレた錬金術師さんがそれを聞いて躊躇するはずもなく、限界ギリギリまで抜かれた次第です。

 はい。

 それから。


「こっちは廃棄?」


 俺のバラバラパーツは実験用に残すのはそりゃそうなんだけど。

 生後二ヶ月位の俺の丸ごとは、視覚と聴覚を奪われて口に管を入れられて培養液に漬かって生きている。


「廃棄ったって、生きてるんですよね? 育てたら育った環境が違う俺ができるんですよね?」


 それこそ捨て猫に遭遇したみたいな気持ちになって、固まってしまった。

 出生はどうであれ、命は命なんじゃねぇの?


「いらないなら貰うわよ? いつか言ったでしょう? イブキの種を頂戴って」


「……それって、俺とビアンカさんの子どもを作るって意味だと思ってました」


「後からでも問題ないわ。少しづつ遺伝子をいじればいいだけだもの。今からなら間に合うし、ちゃんと自分の息子として大切に育てるわよ?」


「……そこの錬金術師が?」


「……そうね」


 二人で錬金術師を見たら嬉しそうに笑っていた。


「自分の子どもみたいな物です。イブキ用の研究はこの子のためにもなりますから」


 ああ、そうか。

 こっちに来て一年経たないのに謎の不調に見舞われているのだ。

 ビアンカさんの遺伝子を混ぜたとしても、長生きできるとは限らない。


「ええ。王子の健康のために研究をするなら、問題なく国から研究費も出せるわ」


 あ……。そっか。そういう事も考えなくちゃいけないのか。


「よ、養育費! 俺の権利関係から必要な分取ってください! なんか、生きて行けるだけの権利ありませんでしたっけ!?」


 ビアンカさんはびっくりしてからクスクスと笑った。


「イブキが持っている錬金術以外の、トングなんかの権利ね。名義をこの子にしましょうか。良いんじゃない? 形だけかもしれないけれど、父親として、ね?」


 勢いで言っただけで父親の自覚はないけどね。

 今はまだ顔もよく分からないし、そのうち似てきたら……ってビアンカさんの遺伝子が入るんだった。

 海外セレブみたいな姿形になるんだろうか。それはそれでちょっと羨ま怖い。

 その流れで名前も考えた。

 ビアンカさんは伊の聖職者って意味を気に入ってたらしくて伊は確定。

 芽吹きの次だから咲くで伊咲。

 読みはイサキ。一瞬イサクと思ったけど、古風なんだか不穏なんだかって感じがして止めました。

 イサキ・タカハシ・フォン・キベン、日本語だとキベン国の高橋伊咲、になるのかな?

 王子様だってさ。

 まだ培養液の中だけれど、視覚と聴覚を解放したから毎日話しかけたり絵を見せたりするんだって。

 身の回りに赤ちゃんがいなかったからよく分からないけれど、この世界基準では元気らしい。

 できる限り丁寧に漢字でイサキの名前を書く。

 日本語を覚えさせるかも聞かれたけれど、それは断った。

 俺もぼちぼちこっちの言葉で生きて行かないとダメだと思うし。

 寂しくない訳ではないけど、イーダと話す時も使えるし、たまに妖精さんに聞かせる程度でいいかな。

 ビアンカさんには別の思惑とかがありそうで、物みたいに都合よく使うのは止めてくださいね、と言っておいた。

 滞在中は水の国での生活に向けて買い出しとか、錬金術師さんの質問に答えたりとか、細々と。

 何回か、ビアンカさんの視察に付き合って昼飯やおやつを街で取ったりもした。

 人に近い形状の住人が多い。おかえりなさいとビアンカさんに抱き着く人もいた。

 護衛のエルンストさんが何度かヒヤヒヤしてたっぽいけど、ビアンカさんはモテモテだったな。

 先生とも電話で話をして、まぁ怒られたよ。

 それで、恒星なら火の国に近づけば改善されないかって。

 でも息を吸うだけで肺が痛むレベルの暑さらしくて、住むにはちょっと厳しそう。

 説明会の時にいた軟体動物っぽい火の国の人に連絡を取って、恒星からの光を調べてみるって言ってくれた。

 二日後には連絡が来たんだけど、もう、全然、何を言っているのか分からなくて、こっちの錬金術師さんにバトンタッチ。

 なんでも火の国でランプの燃料にしている素材が役に立つかもしれないって話だった。

 長時間ランプの光に当たっていると火傷の症状が出る人がいるんだって。

 なんか暑そうだな。

 その間に一応、錬金術師さんとお医者さんによる研究で、症状を緩和する薬はできてた。

 ほとんど寝ずの研究だったみたいで申し訳なさがたつけど、一先ずの安心。

 素材の問題とか、長期保存ができる状態にはなってないとか、問題はあるらしいけど、俺にはこれで十分な気がする。


『副作用があるかもしれないし、長期的に見て悪化させてしまう場合もある』


 なんてイーダに言われて、黙った。

 言葉にはしないけれど、正直ちょっと諦めているんだよね。なにせ別の世界の人間なのだ。これが解決してもまた新しい問題が発生するんだろう。

 苦しかったり、痛かったりで死ぬのは勘弁だけど、誰かの迷惑になるのは避けたいな。

 そんな気持ちとは裏腹に、塔を経由して火の国の素材が届いて、錬金術師さんはまた不眠不休の日々へ。

 もう時間がないから無理もないんだけど。

 手伝おうと思ってもやってる内容が高度過ぎてダメでした。

 片付けとか資料をまとめたりとか食事に誘ったりして滞在限界の日の朝の事。

 ランタンの形をしたそれが完成した。

 やっぱり熱くて暑かったそれは、旧中央国で使うには不快だけれど、水の国の奥で使うなら暖房にもなる便利な光源。

 俺一人分は離れて使えと言うので、天井設置かな?

 使わない時用に遮熱・遮光の外側もついてた。まさかの紐引っ張る式。

 外側が開けばちょうど傘みたいになって明るさもばっちりだ。

 燃料自体は十年程度持つそうで、念の為にと設計図と素材の入手方法も簡単に教わる。

 経過観察は必要だし、これからも研究は続けるから、情報交換をしていきましょうと、最後の挨拶。

 電話の口実ができるとビアンカさんはにっこり笑顔。

 俺としては別れって感じがして寂しいのだけれど、電話のおかげで全然寂しくないとみんなが言う。

 今まではそれこそ二度と会えないとか普通だったからってさ。

 うう。俺だけか。次はテレビ電話でも作ろうかな。

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