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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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76 他力本願? いいえ。専門家に丸投げです。


 結局エルンストさんに連れられて、錬金術師さんとビアンカさんとイーダが話し合っているところにお邪魔した。

 途中参加が申し訳なかったんで、ざっくりとだけ説明してもらったんだけれど、全然分からなかった。

 これは普通に話してもダメだろうって早々にイーダが間に入ってくれる。

 でもね。生命誕生系の知識なんて保健体育で習ったくらいで、元々それ程知らないのだ。

 分かったのなんて羊水と培養液がごっちゃになってた事くらい。

 最初は羊水に入れて育てて、出産のタイミングで培養液に移動するんだって。

 あ、勿論人工のね。

 人間て産まれてから歩いたりするけど、動物は生まれてすぐに立ったり歩いたりする。

 だからそこまで羊水に入れて育ててみようとして失敗したのが始まりらしい。

 ビアンカさんたちはそれで行けるのになぜ? って。

 進化だか退化だかしたのか、そもそも似ているだけで実は人間ではないのか?

 構造は同じらしいけど、運用は異なる、みたいな?

 小指の先くらいは理解が進んだと思いたい。

 培養液の種類の多さは身をもって体験してるし。

 成長促進とか、細胞分裂のためのエサの分量とか、知識として入れはしたけど、俺が手を出せない難しい部分なのだ。

 それから、箱に収まっている俺の予備は、生後二ヶ月位の俺の丸ごとと、各種部位を再現したバラバラパーツで二人分だってさ。

 バラバラパーツってのは実験用って意味で、成長とか必要ないんで脳はないと説明される。

 それだけで一瞬ホッとする俺がいたけど騙されないからな。

 脳みそは確実に一つあるじゃん!

 十年後によく似た自分にお父さんって呼ばれるやつだろ?

 先生に揶揄われたから知ってるんだぞ。

 まあ、そんな実験用の体を疑似的に生存している風に動かしては失敗しているらしい。

 なんか、体がぐにゃぐにゃになるだとか、空気を吸って咳き込んで骨折するだとかで、栄養状態も気にはしてたみたい。

 カルシュウム不足?

 骨粗しょう症とかって病名を見聞きしたけど、どんなだったっけな。

 ちなみに舌噛みそうになって上手く発音できない。なぜか、骨そ少々、って発音すると言える。

 うん。どうでもいいな。

 で。

 例えば栄養素を倍量投入して、内臓が壊れたり、顔色が変わったり、浮腫みだしたりして調整が上手くいかないって話だった。

 そこで俺は、関係ないかもしれないけれど、と。

 さっき思い付いた事を言葉にする。

 元の世界とこの世界との決定的な違いだ。


「こっちって太陽がないんですよね」


 うん。なんか人体に影響があったと思うんだ。

 思い出せないけど。

 それから思い出せる限り思い出してみるけれど、皆を混乱させるばかりだった。

 もう何回目かな。

 尻上がりのハテナマーク付きで返事をして、最後に分からない、と付ける。

 そんな俺に皆さんちょっとイライラしてるし、気持ちは分かるけど適当な嘘も吐けない。

 俺の命にかかわる話だし、ね。


『つまり、タイヨーという恒星から栄養を得るのね?』


「得るんじゃなくて、なんだろ? なるんじゃなかったかな? 多分。わかりません……」


『ええっと、それなら変化かしら? 水をかけたら発熱する素材みたいに』


 元の世界にもあったなそんな素材。

 串を刺すと温まる弁当とか。酸化カルシウムだっけ。なんかもっと親しみやすい言い方があったはずなんだけど、なんだったか。

 逆に尿素に水かけると冷えるんだよね。

 ……なんでこういう時に思い出さなくていい事を思い出すんだろう。


『光合成? いや、しかし葉緑体は検出されていない……』


 悩まし気な錬金術師さん。

 手元にはなんか俺をデータ化したっぽい資料を持っている。

 そういや植物は育つんだよな。

 あれは太陽光じゃなくても育つんだっけ? 明るければオッケーだったかな?

 人間も明るければいいの? 体内時計のリセットに朝窓辺に五分みたいな話あったよな?

 潜水艦で働いてる人とかってどうしてるんだっけ? 映画だかドラマになかったかな?

 思い出せずに自分で自分にもイライラしてくる。


「あ、でも浴び過ぎてもダメなんすよ。軽い火傷になったりするんで」


 イライラついでに注意事項みたいに思い浮かんだ事を口に出しちゃう俺。

 浴びないとダメって言ったり、浴びたらダメって言ったり、逆の立場だったらキレてると思う。

 自分で自分の発言の酷さに気が付いてよっぽど絶望的な目になったのか、ビアンカさんがそっと隣に座ってきた。

 慰めてくれるのかと思いきや、


『イブキ? ちゃんと考えて! 思い出して!』


思いっきり頬っぺたを摘ままれました。

 痛い。


『あー……自分に関係がないと思う事象について調べたり覚えたりがおろそかになるのはよくありますから。それよりも……』


 と助け船を出してくれた錬金術師さんに乗っかって、この話はちょっと保留。

 先に錬金術師さんの希望というかお願いを聞く。

 なんでも今現在の俺の血液と、例のレントゲンみたいなヤツで体の状態を確認したいらしい。

 元にした血液は、名前なんだったっけ? 塔の医者が持って帰ったやつ。

 ハンバーガー屋っぽい、あとチョコの……だとマックかロッテ。


『ロッテよ、ロッテ』


 ビアンカさんが隣で頭を抱えているけど、俺の記憶力なんてその程度ですよ?

 嫌な思い出過ぎて半分忘却してるのもあるけど。

 先生の愛称がマックスだからちょっと聞き覚えがあるなーってその二択になっちゃったんですよ。

 話を戻して、検査と言えば血液検査とレントゲンだって父親も言ってた。

 俺はむしろ喜んで了承。


「最近手が震え出したんでなんか違いが分かると俺も助かります」


 って言ったらガバリとビアンカさんが顔を上げてまた頬っぺたを摘まんできた。


「いしゃいれす」


『不調があるなら相談しなさい!』


 あ、やべ。マジ怒りだこれ。


「しゅみません、さっきじかふしらので」


 するっとイーダまで巻き付いてきて、


『何度か手が震えていると伝えたと思うのだけれど?』


だって。

 俺の味方はしてくれないの?

 置いてけぼりにされて茫然とする錬金術師さんを前に、がみがみ怒られてたら笑えてきた。


「あはは」


『笑い事じゃない!』


 ってもう一回怒られたけど、うん、やっぱり大丈夫な気がしてきた。


「笑い事にしてください。全力で」


 悪戯するみたいな気持ちでニッカリ笑う俺のおでこに、ビアンカさんは口をつけた。

 ちょうど擦りむいて保護してる布のところ。


『もちろんよ。一週間以内に何とかするわ』


 神妙に呟いて少し離れた。

 それからくいっと親指を立ててグッドサインして、そのまま後方へ倒す。


『そこの錬金術師が』


 良い笑顔だった。

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