73 変わったのは見た目だけ
迎えに来たエルンストさんに起こされて、着替えだけを持って移動。
案内された部屋はテレビで見た海外のホテルみたいだった。
でっかいベッドにボスンと横になったらまた寝てて、今度はマティルデさんに起こされる。
夕食だけど、これを着てくださいと渡されたのは、やたらとゴテゴテと装飾があるスーツ。
もう着方すら謎。なにこのタスキみたいの? リレーでもすんの?
最終的にマティルデさんに見てもらって、最後に胸元へ錬金術師組合員証を付けた。
「種族によって食べる物も違いますから、マナーは気にしなくても問題ありません」
ああ、もうみんなで海の家みたいな適当な恰好で食事は取れないんだな、なんて、少し寂しく思う。
想像した長テーブルドーン、ではなくて、円卓がいくつかあるスタイルだったのでまだマシかな?
食事を配る兼ね合いか、食べる物が近しい人で固めるみたいで、俺はビアンカさんと同じテーブル。
その代わりマティルデさんもエルンストさんも、一緒に移動してきた人たちも、使用人だから席には着かない。
例外だと思うけど、イーダは俺の背後霊みたいに後ろにいてくれた。
領主代理をしてた人はほぼ人間の見た目だったけれど、挨拶の時に笑った口元と、手が人間とは違うな。
食事の前に乾杯とかもあって、挨拶はビアンカさんが短く済ませた。
これからよろしくみたいなのを小難しく話したみたい。
俺の翻訳機だと、取りあえず顔合わせを兼ねたみんなでご飯よ。これからも仲良く過ごしましょうね! だったけど。
どこから直したらいいのか分からないし、意味は通じるからこのままでも大丈夫だろうか……。
さすがにヘルメットは失礼だろうと諦めたんだけど、イヤフォンだけでもって、装着してきて正解だったな。
領主代理の人も難しい単語で話しかけてくるし、聞き慣れないからちょっと考えちゃうんだよね。
元気? とかが、お体に不調などございませんか? って感じで。
もっと気軽にお願いします。
会話は国内で生産されている物とか、移住者の話なんかだったので、俺はほぼ聞き役。聞いても意味わからんけど。
気を使って錬金術関係の話を振ってもらった時は少し話せた。
素材の話だったんで、隕石の購入の権利? に移行してまた聞き役に。
食事はなんだっけ、コース? 謎の塊が出て、スープが出て、焼いた肉が出て、謎の塊再び。
食欲が湧く見た目じゃなかったんで、あんまり何も考えずに食べてたら途中で腹いっぱいになったんで、イーダに助けてコール。
食い切れないのってどうすりゃいいの?
『ナイフとフォークを皿の上に並べておけば下げてくれるよ』
食べないくせにマナーは知ってるんだな。
『見て覚えた』
なるほど、と思ってビアンカさんを見たらにっこり微笑まれた。
相変わらず知らない人みたい。
「明日は一日お休みにするから、預かっていた素材を返すわね。城の錬金術部屋も見せたいわ」
預かってもらってる素材なんてないんだけど?
『他の人に聞かせているんだと思うよ?』
疑問にはイーダが答えてくれた。
俺、顔に出てなかった?
『大丈夫。さっきから挙動不審だから』
マジで?
そりゃ落ち着かない場ではあるんだけど。
あ、返事しなくちゃ。
「タノシミニシテイマス」
カタコトになったな。
ビアンカさんはもう一度にっこり笑う。
それから食べかけの謎の塊をさりげなく皿の端に寄せながら、ナイフとフォークを並べて置いた。
あ、真横なんだ! 俺、斜め置きだけどこれでも大丈夫?
ビアンカさんが軽く働いている人に目配せもして、おかげで俺の皿も下げてってくれました。
ほっ。
安心したのに、ジュースの入ったグラスを持ったらプルプル震えてる。
恥ずかしすぎるんで、慌てて戻す。
『イブキ、大丈夫?』
ダメ、ダメ、早く部屋に帰りたい。
『次はデザートだから』
後少し? 頑張ります!
デザートは普通に果物だったけど、俺たちのテーブルはナイフとフォークで食べる席。
うう。隣の手掴み席が羨ましい。
堅苦しい服装で、堅苦しい食事は、楽しくも美味しくもなかった。
俺はげっそりしながら部屋に戻り、また即寝。
移動中よりも疲れたかも。
翌朝はまたエルンストさんに起こされた。
「来た日を思い出すな」
あー、寝てて全然起きなかったんでしたっけ?
半分寝ぼけながら準備。
昨日の夕飯は特別だったみたいで、基本的に食事は部屋で食べるんだって。
朝食を持ってきてくれてた。
「エルンストさんたちはどこでいつ食ってるの?」
「従業員用の食堂で交代で食べています。……落ち着かないなら滞在中は一緒に食べましょうか?」
優しい提案にぜひと返して、ついでにすぐに寝ちゃったんで腹が減ってない場合どうすれば? と問う。
「そのまま気にせず残してください」
だって。
俺のお世話係、エルンストさんかマティルデさんだから残ったら食べてくれるって。
申し訳ないなって思ったんだけど、エルンストさんが嬉しそうに食べてくれたので、綺麗に残す分には問題ないかな?
滞在はニ、三日。なにかあって長引いても一週間の予定。
それ以上になると他国の目がちょっと気になるとか。
俺も用事がないしその辺が限界だと思う。
しばらくしてイーダも部屋へ来たので、一度車に戻って先生に電話をした。
無事の到着報告と、そっちはどうですか? って。
俺がいないと高いところの物を取るのに不便だってさ。
俺が役に立つところなんてそんなもんですよね。
だからではないけれど、旧全身タイツ部隊の人を一人紹介して貰ったんだって。
弟子ではないけれど、通いのお手伝いさん? が近いのかな?
笑っちゃうくらい錬金術の適性がなくて、毎日大惨事らしい。
『急に人が減って寂しく思っていたからちょうどいい』
最後にぽろっと本音かな?
電話を切る時はお決まりの、飯を食えちゃんと寝ろ。
飯は出てくるしむしろ寝過ぎてる俺がいますよ?
それからそろそろ時間だからとエルンストさんに案内されて、城内の錬金術部屋へ。
錬金術師専用エリアっぽい。
城で働いている錬金術師さんの名前がかかった部屋がいくつかと、合同研究部屋、実験場に素材室?
ビアンカさん用の部屋の前にはちゃんと護衛の人がいて、エルンストさんが許可をとって入室。
呼び鈴とかドアノッカーとかないの? と思ったら短い廊下があってその先があった。
今度は扉をノックして一声。
「エルンストです。イブキを連れてきました」
「どうぞー」
軽いビアンカさんの返答。
ガチャリと扉を開けると、半裸のビアンカさんが床に敷物を敷いて寝転がっていた。
なにやってんだ、女王様?




