72 到着
ビアンカさんの国の名前はそのままキベンって名前にするんだって。
水の国側は壁で国境線が引かれてるけど、隣国への国境線はフェンスとなんか簡単な受付みたいなヤツ。
木造りの四角い建物の玄関前、屋根付き廊下がある感じで整備されている。
両国の入国管理の職員さんが何人か出てきて車から降りる様に指示された。
車は職員さんがざっと確認してからフェンスの一部を開けて国内へ。
こっちはその屋根付き廊下に並んで、身分証明の提示。
簡単な確認だけだったけど、相変わらずのシャチに抱き着かれる確認方法。
まぁ女王様ご一行だもんな。簡単なのは助かる。
それでも確認するんだからちゃんとしてるんじゃないだろうか。しらんけど。
「昔から領の周りに感知器を置いていたから、侵入者がいればすぐに分かるのよ」
一足先に国内に入り、他の人たちを待っている。
暇つぶしか、ビアンカさんがフェンスに設置された感知器を指差しながら作れるか聞いてきた。
仕組みは習ったけど、机の上で小さい範囲の物を作っただけだな。国単位で作れるかは謎。
小分けにして錬金するんだろうけど、ちょっと想像がつかなかった。
何人かの錬金術師で合同作成になるから楽しいわよ、なんて言うけど、足を引っ張る自信しかない。
どうでもいいんだけど、ふくらはぎがフルフルする。
久々に車から降りたせいか、なんだか足の裏も変な感じ。
ビアンカさんも、分かる! なんて屈伸運動をしてたんだけど、マティルデさんが出てきたので車に戻ってお着替えだってさ。
その間にこれからの説明。
「護衛の小型車を最前に、王族車、住居車、その後ろにイブキの車、貨物車、この順番で移動します」
パレードみたいになるらしくて、運転席の俺の顔も分かっちゃいそうなのでヘルメットとゴーグル着用。
元領主は嫌われていたって聞いたんで、一目で人間と分かるのはダメかなって。
ビアンカさんは好かれてるとかで、気にしなくて大丈夫って言うけど、気になるし、気にします。
王族車ってどんなのかと思ってたら人力車を豪華にした風。
あ、これ、ホントにまんまパレードになるな。
ビアンカさんは、海外のなんとかカーペットでインタビューを受ける女優さんみたいな格好で戻って来た。
体の形が思いっきりわかる服でエロいです。
太ももまで入った切れ込みに目が吸い込まれそうだ!
慌てて視線を落としたら足元が思いっきり作業員ぽい編み上げブーツだったんでなんかほっとした。
フルメイクなのか顔もいつもと違う。近寄りがたいと思っていたら近づいてきた。
「私は王宮の門前で一度車を降りて演説をするから、イブキはそのまま居住車を追って駐車場へ行ってちょうだい。時間がかかりそうだし、車の中で待つ? 車で待たないなら用意してある部屋へ通す様に手配をするけれど」
王様のお家で知らない使用人に世話を焼かれるとか?
くつろげそうにないので嫌です!
「車で待ってます」
「そう? エルンストの手が空いたら迎えに行かせるわ。それじゃあ、また夜にでも」
まだ昼前なのにもう夜の話?
『ビアンカさんの手が空くのが夜なんだろう。エルンストが迎えに来るのはもっと早いよ』
あ。そうだよな。
もう、女王様なんだった。
一緒に移動してきた新しい使用人に囲まれながら歩くビアンカさんは知らない人みたいに見える。
通過する街々で歓声と、ビアンカさんの名前を呼ぶ声が聞こえた。
敬称がなんか違うんだよな。
プリンセスとか、陛下? 殿下?
正解が分からないから後で聞いてみなくちゃ。
いっそ”様”で統一しちゃってもいいかな。
俺が不敬な感じにならないといいんだけど。
歓声、俺には聞き取れないけど、イーダが簡単に通訳してくれた。
『歓声がすごいね。おかえりなさい、待ってた、こっちを向いて? ビアンカさんも時折名前を呼んでいるよ。……今度寄る? なにかの店かな? ……ああ、ウチにも食べに来てと別の人が叫んでいるから、食べ物屋さんかもしれない』
生まれ育った街。
大切な師匠が殺された街。
追放された街。
女王になる街。
俺の知らない色々があったんだろう。
目的地に近づく頃には昼を回り、今まで居た地域ではあまり見なかった、鑑賞するだけの花まで舞っていた。
「領主って、ビアンカさんの……保護者? どうなったの?」
ふと気になって聞いてみる。
『領主は殺されたと聞いたよ。育ての親が領主代行をしていたみたいだね。領主とビアンカさんの間で中立の立場を崩さなかったそうだから、領民からも好かれているそうだ』
領民にもビアンカさんの事情は広まっていたらしい。
今の俺より若い頃の話だろう? なら同情票が多かったのかな。俺も可哀そうって思っちゃうし。
王様のお家は城って感じで、ぐるっと塀で囲まれてるのかな?
開け放たれた正門には警備兵みたいなのが並んでお出迎え。
領民、今日これから、国民になる人々も車と一緒に移動して来ている。
護衛の車と王族車は正門を入ってすぐに停まり、俺たちはその横を通過。
わっと人が動いたから、正門の真ん中に舞台でも設置するのかな。
「イーダは演説見たいんじゃない? 行って来ていいよ?」
歴史的瞬間とか好きでしょ?
『それだと合流がエルンストと一緒になるから一人にさせるだろう?』
相変わらずイーダは過保護だなぁ。
「昼飯食ってちょっと寝たいし、読む本もあるし、全然平気」
移動の終わりが見えて安心したせいかぼうっとしてきた。
『それならお言葉に甘えて行ってくる』
「うん。いってらっしゃい」
するっと俺の首に巻き付いてからイーダは出て行った。
正門の先、公園みたいな通りを抜け、城の入り口を横目にぐるりと回り込む。
城の後に回り切る手前て緩い坂道の下りに入った。
城の地下部分だろう、駐車場スペースに到着。
一度停まって、誘導してくれる人から場所を指示されて無事に駐車。
もう一度車を降りて、一緒に旅をした顔見知りの運転手二人とお疲れ様でしたと抱き合った。
すぐにわらわらと従業員? が出てきて荷降ろしとか始まったので、大人しく車内に戻る。
一人になったとたんにガクッと来た。
昼飯と思ってたんだけど、面倒だし腹も減ってない。
一食抜いても死なないけど、先生はよく怒ってたな。
でも面倒。
二階に上がる気にもならなかったのでそのまま一階の椅子に転がったらいつの間にか眠っていた。




