71 移動の一日
街を抜けて森や林なんかの、とにかく人のいない道を選んでひた走る。
折り返しの七日目。
寝て起きて運転して、そろそろ交代の時間。
「お疲れ様です。交代します」
車を停めて交代するんだと思ってたんだけど、ハンドルは二つあった。
中央に運転席が二つ並んでて、運転手切替ボタンを押して運転を交代する。
左右のどちらかから抜け出して後ろの居住スペースへ。
俺の家と一緒で二階建てバスみたいな造り。
一階はほぼ居間。後ろに家事室とシャワールームみたいなヤツ。
二階はズラッと個室が並んでるだけで、本当に大人数で移動するだけの車だ。
違う点はバルコニーみたいな廊下があって外に出られるところ。
そのまま荷台が伸びてて、俺の車も収まっている。
慣れない長時間運転なので、自分の車には戻らずに、そのまま車の後ろに回った。
ちょっとしたスペースが開いててそこだけ開放的な空間。
だから誰かしらいる。
「お疲れ様でーす」
声をかけつつ伸びをして体を伸ばす。
最後尾に視線を向ければ、前輪だけ乗せた車がもう一台。
覗き込むと後輪だけぐるぐる回しながら運ばれているのでなんだか面白い。
さすがにこの車に用事がある時は停止させないといけなくて、一度だけ食料の補充に止まった。
「もう二回位は止めますかね?」
車の中は快適だけれど、ずーっと微振動してるからか、地面に降りた時にちょっと変な感じがしたのだ。止まってもう一度あの感覚を確認したい。
「問題なければ一回だと思う。ちょっと走ってくる」
答えてくれた人はそう言い終わると同時に、タンっと柵を飛び越えて車と並走して走り始めてしまった。
安全を考えて、車から降りる時は誰かに一声かけるルールで、誰かが出てくるのを待っていたのだろう。
俺もちょこっと運動。
うろ覚えの準備体操的なヤツと腕立てとかの筋トレ。
やってる内に誰かしら来るので、走ってるよー、と走ってる人を教えておく。
それから自分の車でシャワーを浴びて、昼飯を食べる。
朝はパンとハムだったから、米にしようかな。
イーダとは食生活が全然違うので、一人でこなせる様に頑張ってる。
気が付いたら炭水化物と肉しか食ってなかったりするんで、気を付けないと。
決めちゃうと楽って言うけど、飽きないかな?
スープの設計図と材料を放り込んで、設計図が上手く書けないご飯は鍋で炊く。
二階でビアンカさんが錬金術中なので声をかける。
「ビアンカさん、飯食います? 塩むすびとスープだけど」
久しぶりにのんびり錬金術ができると入り浸ってるんだよね。
俺も教えてもらえるんで全然問題ないんだけど、執務は滞ってるらしくて、エルンストさん辺りがオロオロしてた。
「あら、お疲れさま。もうそんな時間? お願いしていいかしら? 片付けたら降りるわ」
ゆっくり時間をかけて食事をしながら、作業していた内容を話す。
俺が作ったどうしょもないルームランナーの改良中なのだ。
速度調整とか出来ないし止まらない、手すりに上体を乗せて足を浮かせて飛び降りないと終われないデンジャラスな仕上がりで。
別にそれでも使えてたんだけど、獣人さんたちが面白がって最高速度に挑戦するから二日目にして壊れたんだよな。
食後は二人で改良の続き。
ビアンカさんの運転時間にマティルデさんが呼びに来たので、そこで作業は止める。
そういえば、俺はなんの疑問もなかったんだけど、ビアンカさんが運転要員なの、みんな驚いてた。
それを見てから、そう言われてみればって思ったよね。一国の女王様だった!
逆にマティルデさんは運転要員からは外れてる。
みんなの家事を一手に引き受けてて、それはそれで大変そう。
俺は読書に切り替えて一階に移動。
難しい本から挑戦してて、分からない部分はチェックしてビアンカさんに教えてもらってる。
眠くなったり煮詰まったりしたらまた外の空気を吸いに出る。
そのままゲームに誘われる日もあれば、おやつを貰ったり、重り替わりに持ち上げられたりもした。
夕方にはふらふら飛び回ってこの先の地形なんかを確認していたイーダが戻ってくる。
イーダと並んで読書や翻訳用の辞書を見直していると、エルンストさんが呼びに来た。
夕食は先頭車両の居間でみんなで食べるのだ。
「この先で隕石が落ちていた。拾うなら……明日の昼近くには通りかかる」
なんてイーダの報告に。
「サイズどのぐらいでした?」
「エルンストが二人で手をつないで円を作る程度」
「良いサイズね! それなら欲しいわ。その時間手が空いてるのは?」
「私は空いてますよ」
「あ、私も! ちょっと走りたい!」
みたいな感じで結構和気あいあいな報告タイムも兼ねている。
食後はまた車の後ろに回って、少しだけ空を見上げるのも日課だ。
相変わらずの青と山吹。
今日は青が大きくて、ずっと夕方みたいな一日だった。
街から離れているから街灯もなくて、初めてこの世界に来た時みたいな薄暗さ。
床に埋め込んだ熱光石がぼんやり光って、カリンバを弾きたい気分になるんだけど我慢、我慢。
水の国のイーダの家周辺には人がいないから、好きな時に弾けばいい、とイーダが言ってたし。
『イブキ?』
「んー?」
『手が震えてないか?』
「手?」
言われて両手を見たら、ちょっとプルプルしてた。
「腕立てしすぎたかな? 運転したり本読んだりでなんか手を使う事多いよね。風呂入って揉むかな」
言われてみたらなんか腕が痛い気がしてきた。
ちなみに風呂、シャワーだけでなくちゃんと浴槽を付けました。
あんまり浸からないかなって思ったんだけど。
『私も今日は疲れたから嬉しいよ』
浴槽の湿気が丁度良いらしく、イーダが乱入してくるんだよね。
しかも浸からないと浸からないのか聞いてくる。
「いや、俺、一人でのんびり入りたいんだけど……」
別に俺が入る前でも、出た後でも、お湯が入ってれば湿気は籠ってるんだし。
『私は邪魔かい?』
そう言われちゃうと困るんだよな。
「邪魔ではないけど」
恥ずか死にますけど。
『湯気と一体化してるから慣れてくれ』
そうは言うけど、薄く広がったイーダの体に触れた部分だけひんやりするから、すぐに分かるのだ。
いたたまれない気持ちで風呂に入り、再び訪れたビアンカさんに錬金部屋を明け渡してから布団にもぐる。
「ビアンカさん、寝てください!」
誰かがビアンカさんを迎えに来る声は子守歌替わり。




