70 親心と決定事項と自分でも分からない事
午後はキャンピングカー用の素材を作ったり運んだりする引っ越し関連の日と、先生から錬金術を教わる日を交互に。
先生、別れを惜しむとかではなくてもっと鬼気迫っていやがります。
俺の物覚えの悪さと、何系の錬金術師か分からない部分と、抜けない錬金術師の助手感のせいかな。
器用に作れてるって話だから、普通の錬金術師が普通に作れる物を普通に作れる様にってのと、先生の専門分野を少し。
最初はよく来る依頼の設計図を一通り作れるのか作れないのかチェック。
俺が不安に思ったのだけ実践したので、そのまま引っ越し荷物になったり、売り物にしたりした。
先生の分野系だと、お医者さんが手とか足とかダメになっちゃった人を担ぎこんでくる対応は大丈夫そうかな。
実体験と実践経験があるからね。
手に負えなかった場合を想定して、俺が作った事のない培養液と成長促進液も追加で何種類か。
そんな状況に遭遇しないといいんだけど。
死んでたらホルマリンっぽいヤツで、生きてたらあの胎児が浸かってる、ヨウスイだっけ?
種類が多すぎて翻訳用の名付けもままならない。番号だけ付けておく。
シュテファンさんにやったヤツとか遺伝子の組み換えとかは説明のみ。
緊急でそういうのはないだろうし、設計図は複製させてもらったけれど、複雑すぎて俺には調整ができなかった。
相談が来ちゃったら錬金術師組合から一番近くにいる錬金術師を検索して紹介する予定。
ひょっとしたらやりたくなるかもしれないからって、勉強用に本が五冊ほど増えました。
読む時間ができたら読みなさいだって。寝る前に読んだらよく寝られそうな文字数だな。
子どもが欲しくて相談にくる人は多いから、一般的な、両親から子どもを作る方法は教わっておいた。
医者の仕事じゃないの? と思うんだけど、この世界では錬金術師の仕事なのだから仕方がない。
さすがに本当にやるわけにもいかないので、細かく話を聞いただけだけど。
転送機とか使うから俺が恥ずかしさにのたうち回らずに済みそうで助かった。
複製体とか、魂だけを抜き出して別の体に入れるだとか、脳だけを移植するだとか。
ポカンと口を開けちゃう話もちょいちょい混じる。
その流れで各獣人さんの人体図も追加。
荷物も増えるし絶対に覚えられない。
もう、どんどんゴーグル対応だな。
作業中は外せって言うけど、それなら映像のタイムラグをなくす研究をした方がいいかも。
どっちが先かな? 卵が先か鶏が先かみたいな気持ち。
無生物関係は設計図があればなんとかなるところまで基本を叩きこまれる。
なんだか今までの教えが嘘みたいなスパルタっぷりだった。
あんまりだったのでなんでか聞いたら、ビアンカさんの移動に合わせたいみたい。
王女になる旧キベン領で一斉通知を出すのが一ヶ月後って話だったから、あんまり時間がないって。
俺としては間に合わなければ別行動でも良かったんだけど、これには先生だけじゃなくてイーダも同意。
だからイーダは現地視察を弾丸スケジュールで終わらせて、今は部屋でゴリゴリと地図を書いている。
先生も別の錬金術師さんにも夜な夜な電話をかけて、絶対できないと困る作品とかを聞き出してた。
俺が泣き言をいっちゃダメな雰囲気。
しかも話を聞きつけたイェンスさんからも、錬金術で作る薬の一覧表と、素材になるご本人様の体液を貰った。
毒なんだよね? イェンスさんの体液。
割れない瓶に入ってるけど取り扱いには注意だな。
ビアンカさんは少し手が空いたのか、立場的に顔は出せないけどと通話をちょいちょい。
どうでもいい話が多いかな。
あ、でも、旧キベン領に着いたら少し泊っていきなさいって。客室を用意してくれてるらしい。
庭先に車を停めさせてくれればそれで大丈夫なんだけどダメらしい。
王様のお家なんだからそりゃそうか。
到着した日と翌日は絶対になにもしないから一緒にのんびりしましょうだってさ。
マティルデさんとエルンストさんにはビアンカさん家に荷物を取りに行った時に話をした。
「こっちで雇った使用人が五人いますから、運転を交代制にして移動は二十四時間止まらずに行きましょう」
なるほど。俺も到着した日と翌日はのんびりしたくなりました。
イーダ以外は全員運転できるから九人? 車は俺が一台でビアンカさんが二台でしょ? きつくない?
「運転手は一人で大丈夫ですよ。居住車を先頭に、イブキの車を乗せて、その後ろに荷物用の車の前輪だけ乗せて移動します」
言ってる内容は謎だったけど、解決してるみたいなんで黙っておく。
「読まないといけない本がたくさんあるんで暇はつぶせそうですけど、体が鈍りそうです」
単純に一日三時間運転したら後は載ってるだけなんでしょう?
また棒でも一緒に振る? とエルンストさんを見れば、
「車を降りて走ったり、荷台の枠で懸垂なんかはできますね」
とか言ってる。
こいつなに言ってんだ? って思わずマティルデさんを見たけど、運動は重要ですよね、なんて頷いてた。
え? 俺がおかしいの?
「……車に置いて行かれない?」
「ああ、ビアンカさんは置いて行かれますね。でも大丈夫ですよ。抱き上げて走っても追いつけますから」
獣人恐るべし。
俺は睡眠時間を削ってでもルームランナーを作る決意をした。
出発の前日は旧全身タイツ部隊拠点に集まってみんなで食事。
立食形式の、パーティ―になるのかな、これ?
しれっと元全身タイツ部隊員でこれから王様になる二人まで混じっている。
立場的に護衛とか付けなくていいの? と思ってたらダイアンさんがそうっぽい。
マティルデさんもそうだけど、こう、さりげなく控えてる感じ。
エルンストさんは普通にモグモグなにか食べてるけど。
「そういや結局エルンストさんの大食い化ってシュテファンさんを移植したせいだったんすか?」
先生に聞いたらシュテファンさんを指さした。
うわぁ。物凄い食べてる。
「見ての通りシュテファンの種は蓄える性質で食事量は確かに多い。一時的に多少の影響があるのも確か。それにしても……」
なにか考え始めちゃった!
「それ本人に聞いた方が早くないっすか? ちょっと! エルンストさーん!」
すぐに来てくれたエルンストさんに、どうして急に大食いになったのか聞いてみる。
「どうでしょう? 早く元気にならなくてはと食べる様にはしていましたが、そう言えばですよね? 癖になってるんでしょうか……」
あれ? どっちだ?




