68 十七歳になってました
話を聞きなさいと怒られながら実験場に移動。
勿論話は聞いていない。
一応、念の為、その後問題ないかとか、内緒話とかあったらと思って、昨日の内にビアンカさんに立ち寄り許可を頼んである。
本日の実験場は騒がしくもなく、数人の錬金術師がグループを作って、何かを作っているみたい。
誰かが案内してくれてるとかでもないんで、クレメンティア先生を見つけて近づけば数枚の設計図をお試し中だった。
あれ? ビアンカさんもいる。
エルンストさんとマティルデさんが一緒じゃないのは珍しい。
「こんにちはー」
作業の切れ間を見計らって声をかけつつ近づくと、先生がひょいっと俺の腕から降りて走って行った。
「クレア!」
「マックス!」
抱き合うというか、体当たりだな。先生たちは久しぶりの挨拶を交わしている。
知り合いだったんだ。
絵面的には和む。可愛い。犬が子猫の面倒みてるみたいな感じでちょっとハラハラするけど。
「イブキ、お疲れ様」
ビアンカさんの目には和む光景ではなかったらしく、邪魔そうに避けて俺に近づいてきた。
「一人なんて珍しいですね」
「この部屋、一般人出入り禁止なのよ」
と、胸元に着けた錬金術師組合のバッジをトントンと指で叩く。
「あ、貰ったんですね」
「無邪気さを装って権力でもぎとったわ」
うふふ、と笑うビアンカさん。悪い顔してるなぁ。
「今日は息抜きですか?」
「ええ。夕方から会議があるからそれまでだけれど」
七国連合の仕事って、王様たちの口出しは最小限。最終的な承認だけする形になったんだって。
だから基本的にみんなの仕事が終わってから王様たちで話し合いをして、書類を作って、翌日に決定事項を配布。そんな昼夜逆転生活を送っているらしい。
一応、国にはもう部下がいて、電話で国政もこなしてるって言うから、いつ寝てるんだろうって心配になる。
「今はのんびりしているわよ。一ヶ月後に国民に一斉通知を入れてからが大忙しね。建国祭もやりたいし」
忙しいのはぼんやり分かるけど、具体的にどう忙しいのかが俺には分からないんで、
「大変なんすねぇ。体調に気をつけないと」
とか言っておく。
「イブキ? 分かっていないだろう?」
先生から突っ込みが入って、ついでに俺のバカを喧伝しはじめた。酷い。
「ああ。一から説明すれば理解しますけれど、説明を省くとそのまま受け入れる傾向はありますね」
なんてビアンカさんまで同意してるし。
「疑問に思って解決してこそ身になると思っていただけに、疑問にも思わないとは思わず……」
分数の割り算みたいな話だな。
俺はひっくり返せと言われて疑問も持たずにひっくり返して解けるタイプ。
なんでひっくり返すの? から分数の割り算ができないタイプもいたけど。
きっと錬金術師は、どうしてひっくり返すの? あ、こういう事? なるほど! 自分でこの法則を思いつきたかった! ってタイプだと思う。
ふと、クレメンティア先生がこちらを見上げているのに気が付いて、なんですか? と首を傾げた。
「子ども扱いをされているなぁと思って。そんなに子どもでもないよね?」
そう言われちゃうと言葉に困るんだけど。
こっちだと俺の年齢って社会人だし。
「俺の世界だとまだ子どもなんでそのせいですかね。十六歳なん……いや、十七になってるかも?」
「え? 誕生日いつ?」
驚いてビアンカさんが聞いてくれたのだけれど、監禁されたり寝込んでたりで日数が曖昧な時期もあるし。
年末からカウントしたら誕生日は超えているはずなんだけど……。
そもそもこっちの日付と誤差があるのかないのかも分からない。今日っていつなんだろう?
「向こうの日付で七月七日なんですけど、こっちだとどうなんだろ……?」
「七月十四日よ! いやだ、超えてるじゃない! ごめんなさい、マクシミリアンさん!」
こっち一年は三百六十五日だけどうるう年がない。調整年が存在するらしいけど、詳細聞いてないや。
ズレとかで超えてない可能性もあるんだけど、ビアンカさんはこちらの日付で認識したっぽい。
なぜか先生に謝っている。
「気にしないでください。残念ながらイブキにとっては誰が保護者なのかも曖昧でしょう」
んん?
誕生日ってなにか伝えるの? 言われるんじゃなくて?
聞いたら中央国だと、今日で一つ年を重ねました、育ててくれてありがとう、って周囲に感謝をする日らしい。
女子だとお菓子なんかを配るとか。は? ハロウィンとかヴァレンタインじゃなくて?
ビアンカさんみたいに立場のある人なんかだと、パーティ―を自分で開いてもてなすんだって。
御貴族様だからじゃないの?
「家族や恋人、職場の人なんかと食事程度が多いかしら」
クレメンティア先生の意見。
お誕生日会?
今まで呼ばれた事も聞いた事もないけど?
先生を見たら、
「私も誕生日は伝えません」
で、ビアンカさんを見たら、
「イブキが来てから私の誕生日が来ていないもの」
だって。
「エルンストさんとかマティルデさんは?」
「使用人の誕生日を全て祝っていたらきりがないでしょう? 本人がなにか言って来ない限りはなにもしないわよ。お誕生日休暇なら喜んで許可を出すわ」
びっくりして日本の誕生日の話はしてみたんだけれど。
「親が朝お誕生日おめでとうと言うのは分かる。お菓子とか持たせて送り出すし」
「友人が誕生日だと気が付いておめでとうと言われるのも分かるが……何かを貰ったり奢られたりするのはなぜだ?」
「さぁ?」
「ほらぁ! イブキ! そういうところよ!」
話が戻っちゃったよ。
めでたいからでいいじゃん。そこを深堀して理由考えるか?
誰か誕生日おめでとうって言ってくれない? なんか悲しくなってきちゃった。
そんな風に話は脱線しまくったけれど、製造・複製機は問題もなく、内緒は内緒のまま。
しばらくは先生の住居付近の製造・複製機のメンテナンスをしながら、イーダの仕事が落ち着くのを待つ予定。
イーダは地形学者として国の境界の件で引っ張りダコなんだって。
少し前にも国を平等に七個に分けると不平等だとか言ってたなぁ。
量より質みたいな話?
今は地形による国境線のなんたらかんたら……崖とかあったらそこを国境線にすれば塀がいらない、とかをやっているんだって。
まぁなんだ。俺の数百倍は頭を使う仕事なんだろう。
「私が国に帰る時に一緒に出られるといいわね」
ビアンカさんは俺の水の国への帰国には肯定的。
さては他の王様が面倒だから一度離れてほしいんだな?
ビアンカさんの国へは陸路で十五日だって。
水の国と隣接しているから、塔で水の国まで行って戻ると早いんだけど、要するに引っ越しなんで荷物の問題があるとか。
そういや俺も翻訳用の辞書とか、錬金術用の書類を考えると陸路じゃないとダメかもしれない。
今度相談させてくださいとお願いしておいた。




