66 巻き込まれ型一般人
中学三年の時に初めて同じクラスになった津川君は少し変わった子だった。
クラス替えしょっぱな出席番号順で、俺が高橋だから、後ろの席で。
誰かに迷惑をかけるとかじゃない。ただ、休み時間とかの行動がちょっとって人。
一番びびったのは授業終わりにその日習った分の教科書数ページを食べちゃったヤツかな。
そのおかげかイジメとかはなかったんでよかった。
卒業式の日にすれ違ったんでそういや高校どこ行くの? なんて声をかけたら、知らない海外の高校を告げて、知らないでしょう、って笑って。
知らん知らん、なんて俺も笑って、頑張れよー、つって別れたんだけど。
後で調べたらなんだか物凄い頭のいい学校ってのだけは理解できて。
バカと天才は紙一重って言うか、天才は変わった人が多いって言うか、凡人とは違うって言うか。
なんか漠然とそんな風に感じたんだよな。
そんで。
まさか自分がそういう人たちに囲まれる日が来るなんて考えてもいなかったよ。
いや、ホントに。
先生とかビアンカさんとか、頭がいいなぁとは思ってはいたんだけれど。
それ以上。なんだと思う。
クレメンティア先生の説明によると。
設計図を体液で稼働させて動力部に吸着、一日経過後、虫が満載になって完成する仕様。
なんだとか。
ただ、カラボサイズを埋めるには一人分の血液でギリギリだったみたい。
クレメンティア先生より小柄な錬金術師さんが試したら紙が半分だけ赤く染まってそこで止まって。
ここで先生に火が付きました。
「イブキ! 途中から稼働できるか試してみてくれ!」
は? え? とか戸惑ってるうちに、一人残された元気な錬金術師さんに手を掴まれてビタン! っと設計図に手を置かれたんで、慌てて該当箇所を指でなぞって無事残り半分赤く染まって。
「お? まだ行けるのか? イブキ、体重は? 体の何割が体液か把握してるかい?」
と詰められ。
「妖精に助力を願って新しい設計図を手に入れるなんて新手法を見出したんだ! イブキが隠したがっている音の件はここに居る三人も、きっと妖精たちだって口外はしないよ! だから! ね? もう一台!」
これは遠回しに脅されてねぇか?
しかも、きっと、って! せめて言質取ってから言って?
興奮気味に残りの動力部に虫を満載にする様に言われ、それが終われば改変された設計図に手をつかされ。
仲良く貧血患者の仲間入りを果たしました。
うう。ふわふわして真っすぐ歩けない。
そうして生き残っているもう一人の錬金術師さん。
もちろん普通の人であるわけもなく。
「ここで私が参加したら終わりますよね! 手が空いてる錬金術師をかき集めてきます! あ、既存の製造・複製機のコたちとも円満に再契約って形にしたいです! 設計図お任せしますねぇ! 久々に血湧き肉躍るなぁ!」
などど物凄い勢いで実験場を出て行った。
コたちって虫の事だよね?
え? 既存の製造・複製機て中央国の全世帯にあるんだよね?
マジで?
『大丈夫かい?』
イーダに聞かれても俺はテンションも上がってないんで、ひたすらクラクラしている。
残った錬金術師二名は頭を腕で支えながらも言い争う様に設計図の改良に取り掛かっていた。
なんでそんなに元気なんだ?
そして。
「未使用の製造・複製機あったら全部持ってきてー!」
「複製した血液じゃダメな……あはははは! ダメだ!」
「ああ、ついにセバスチャンが倒れた(笑)」
「イェンスに頼んで急速造血剤みたいの作って貰ったらどうだ? 誰か医局行って拉致って来いよ」
「待って、待って、設計図がま……ゲホゲホゲホ」
部屋の端っこで小爆発とか起こしてるし混沌としてきたな。
そういう俺も何度か失敗して木屑まみれである。
貧血に効くらしい見た目も食感も泥みたいなかろうじて飲める味の飲み物を飲みつつ。
俺の技術レベルでここにいちゃダメな気がするなぁと、ちょっと気が遠くなってきた。
気合とテンションだけで回復したクレメンティア先生が指揮をとってるから、実験自体は進んでいる。
すげぇな、色々と。
別に今日完成させる必要はないと思うんだけど。
帰りたい。
これなら心配してた囲い込みが~みたいのも解決っぽいし、秘密のカリンバも秘密のまま行けそうだし。
こっそり帰っちゃおうかな? なんて思ってたらお迎えが来てしまった。
中間報告の時間になっても誰も報告に行ってないんだから当たり前なんだけど。
移動しようとして椅子から立ち上がってそのまましゃがみ込んじゃってるクレメンティア先生を抱きかかえて移動。
見た目よりも重かった。俺もふらふらなんで危ないかな?
「あ、運ぶ運ぶ。乗って乗って。そんかし秒で帰ってきて、秒で」
途中で台車に乗せてもらった。
しかもそのまま七人の王様の前まで運ばれるっていう、ね。
ビアンカさんがオロオロしてて申し訳ないんだけど、動くと木屑バラ撒いちゃいそうだし、もうこのままでいいや。
説明はクレメンティア先生が。
俺の力ではなくて、妖精さんのお力でって感じで力説してくれた。
それから、職業が錬金術師の全員に、製造・複製機のメンテナンス作業を行いたい、とか。今後やりたいと考えている事なんかも話してる。
本人も秒で実験場に戻りたいのか物凄い早口でちょっと面白い。
「イブキはマクシミリアン・ジュニアの家に住んでいるのだったな? ならばダフィットの国になるか……」
なんて、囲い込み確認みたいな話も出た。
「培養の勉強をしているんで今はそうですね。終わったら水の国に帰ろうと思ってます」
にっこり笑って滞在許可証を嵌めた左手で首から下げている身分証明を引っ張りだす。
騒がれたりはしなかったけど、空気が変わる感じはちょっと分かる。
「学びたいのならなおさら旧中央国のどこかに住んだらどうだい? クレメンティアも優秀な錬金術師だよ?」
引き止めろ的な圧をクレメンティア先生に向けてるけれど効果はなかった。
「堕ち人ですから我々と発想が異なるのは当たり前の事ですよ。私が教える程、彼に錬金術師としての才覚があるわけではない」
俺としてはその通りなんで驚く王様さんたちの節穴っぷりの方が驚きです。
クレメンティア先生も、俺の為にわざと偉そうに言ったみたいだけど、俺の膝の上にいるんですよ? 威厳とか大丈夫そ?
それじゃあ続きをやりたいからと早々に退室。
台車でゴトゴト運ばれながら、
「さっきはごめんね。イブキがなにか学びたいなら歓迎する」
と謝罪された時には言われた内容も忘れてたんで、なんだっけ? ってなった。




