65 当事者に確認するのが一番早い
謁見? になるの?
家具がめちゃくちゃ豪華な会議室みたいなところで、俺は頭を下げない様に挨拶をする。
こっちの正式な挨拶は頭を下げず、がっつり目を合わせるからムズムズするな。
ヘルメットと首輪は外しているけれど、眼鏡とイヤフォンは装着。
喋るのはいいけど聞き間違えると大変だからね。
目の前には七人の新しい王様……候補? 予定者?
争いの種になるからと、立ち位置や座る位置なんかは地図の通りに、とか決まってるらしい。
関係は良好でも、そういう意味ではピリピリしてんのかな。神経質になってる感じ。
ビアンカさんは俺から見て一番左に立っていて、小さく手を振っていた。
後列にエルンストさんと、あ、ダイアンさんもいるな。付き人ポジション?
「この世界では迷い人や堕ち人と呼ばれているそうですが、錬金術師のイブキ・タカハシです。今日はよろしくお願いします」
事前に決めた言葉は緊張して忘れると困るから、眼鏡に映し出して読んだだけだけど。
中央語の発音も問題なく伝わったみたいでホッとする。
そのまますぐに実験場に案内された。
王様たちとはまた後程。
同行者は道具特化の錬金術師三名と、妖精さん四名。
ビアンカさんは王様枠なので残念ながら参加できない。
悔しがってたな。
錬金術師さんは五名だったはずと思ったら、先日吹き飛んだ二名がまだ本調子ではないらしい。
全然大丈夫じゃなかった!
よくありますよねー、などと説明してくれた錬金術師さんは笑っているけど。
ちなみに妖精さんは俺のリクエスト。
イーダと、小人族の人と、ぎりぎり人型の岩と、二メートル程の木、だった。
それぞれ、水、火、土、木に関する魔法、ってか虫? が見えて話ができるんだって。
「イブキさんて、トングの?」
あー、来たばっかの時にそういや作ったな。
錬金術は一ミリも関係ないけど。
今回俺が錬金術師って自己紹介にしたのもこれが理由だったりする。
通信部門に名前も入ってるし、ホットプレートとか色々作っちゃてるからね。
通信部門の統括をしているクレメンティア先生も参加してるし。
「あれ便利だよねぇ!」
などと和やかに談笑しつつ、実験の準備。
場面的に正装かなって思ったんで今日は久しぶりに制服、の複製品。本体は袖が燃えてゴミった。
上着は脱いで腕まくり。
作業用エプロンをして、防音・防火・防水のシートを敷く。
事前に動力部が空っぽ状態の製造・複製機は作って貰った。
旧王宮にあったヤツと同じサイズで六台。
中央国は七つの小国に分かれるらしいので、元々あったヤツと合わせて各国一台になる様に、ね。
実験とは銘打っているけれど、最終的に六台は必要でしょ?
作れますよってのを匂わせたからあっさり作ってもらえた。
本体は電車のコンテナみたいなサイズだったので、実験場には一台だけ運び込まれている。
でかくてビビったよ。普通に中で暮らせそう。
動力部の箱を、扉を閉めると入れ替わる部分を全開の状態でシートの上に並べていく。
こっちの箱もそれなりに大きい。カラーボックスぐらい?
本体のデカさに比べたら小さいけど、これ満載に虫を詰めるの?
想像してちょっとぞわっときた。地獄絵図じゃね?
「まず一箱。箱に虫を詰めるんで、そうしたらこの質問事項を聞いてもらっていいですか?」
事前に用意しておいた質問表を妖精さんたちに配る。
製造・複製機がどんな物で、一度入ったら出られないとか、そんな扱いをされても大丈夫かとか。
俺の疑問と心配も詰め込みました。
読んだ妖精さんたちにも気持ちは伝わったらしく、
『イブキを微笑ましく思っているよ』
とイーダから教えてもらって安心する。
あ、小人族の人が両手を上げて手のひらをクルクルと回している! それウーヴェもやってた!
どういう意味か聞いたら、良くできました、だって。
なにした時にやってたっけな?
緊張も取れたんで、
「事故予防に着ますね」
とポンチョを羽織り、眼鏡を外す。
錬金術師さんには俺の後ろにいてもらった。
足を開いた三角座り。足と足の間に箱を配置して、箱底に押し付けるみたいにカリンバを構える。
これで後ろからは見えない。
「はじめます」
トントンと足を鳴らしながら、音が極力出ない様に弾く。
虫への願い事は日本語にして普通に話す。
気を付けるのはリズムに乗らない事。抑揚なく。たんたんと。
「製造・複製機用の動力になって貰いたいんだけれど、箱に入っても大丈夫って人はいる? 細かい説明はちゃんと話せる人を用意したから、話を聞いて、嫌なら参加しなくても大丈夫。条件があったらそれも言って?こっちでも考えるし、調整する」
俺には箱の中身が見えないので、何度も繰り返して同じ内容を伝えた。
区切りのタイミングでイーダが声をかけてくれたんで言葉を止める。
勢いあまって粒粒になってるのはすいっと俺の正面に来て消えてくれた。
箱の中にはもう虫がいっぱいで、箱の周りにも集まっているらしい。
四人の妖精さんたちは同時進行で聞き取りをしてたみたい。
静まり返った実験場に、小さな、小さな、今なにか音がした? って感じの何かを感じる。
イーダもそうなんだけど、妖精さんたちは顔色が分からない。
唯一人間に近い見た目の小人族は毛むくじゃらで目は真ん丸なまま。顔色は変わるみたいだけど今は変化なし。
岩と木は言わずもがな。
しばらくして今度は四人で話始めたんだけれど、これが何を喋っているのか分からない。
中央語ではないみたいだし、聞いた感じだと四人とも別々の言語だった。
しばらくして話がまとまったのか、代表して口を開いたのは木の妖精さん。
「動力部の設計図を進呈。対価は術者の体液」
ずばばばばーっと枝が下に下がってきて、その枝には紙がぶら下がっている。
俺が見ても分からないので、振り返ってクレメンティア先生を見れば、心得たとばかりに紙を手にとった。
他の二人も近づいてきて紙を見ているので、今の内にささっとカリンバを作業ポケットに放り込む。
『製造・複製機の動力になるのは構わないけれど、自由に出入りはしたいそうだ。出たら出た分だけ新しく入るから出力は変わらない。一番最初だけ制作者の体液を対価にするけれど、以降は制作材料から対価を貰うと言っている』
イーダの補足説明に、錬金術師さんたちが感心した様に頷いている。
体液? 虫って……蚊なの? ダニなの?
「痛くも痒くもなくて死なない程度ならいい、のか?」
俺の呟きに答える様にクレメンティア先生が持っていた紙が真っ赤に染まった。
「うわっ」
紙を持っていたクレメンティア先生が俺の前にある箱に紙を押し付ける様に倒れ込む。
すぐに紙が吸い込まれて消えた。
倒れ込んだクレメンティア先生が頭を押さえて困惑している。
ナマケモノみたいな顔した全身毛で覆われてるタイプの人なんで顔色分かんないんだけど。
みるみる白くなる鼻に、別の錬金術師さんが声を上げた。
「酷い貧血だ!」
あれ? 俺のせい?




