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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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63 技術の独占と虫監禁すし詰め事件


『二人吹き飛んで重症だったのよ。道具特化の錬金術師ばかりだったから大変だったわ……』


 芽吹きの指針仮拠点からビアンカさんの愚痴電話。

 はい。芽吹きの指針って名称に関しては考えない。考えないったら考えない。

 スピーカーにして休憩室で三人、お菓子を食べながら聞いていた。


「吹き飛んだ……」


 物騒な話ではあるけれど、別にまたクーデターが起きたとかではない。

 今は旧王族が管理、独占していた物を振り分け作業中らしく、土地とかはざっくり地図上では分け終わったっところ。

 日本だと歩いて国が変わるとかないからよく分からない。塀とか入国審査用の建物とか作るのかな?

 大きな国ではないし、今のところ国同士も仲良く足並み揃えてって雰囲気だけど、先は分からないから、なんて話の続きで。

 難しいのは知識の部分。

 その中に製造・複製機の制作があったんだそうな。

 家事室に置いてるサイズのヤツは、旧王族が戸籍登録時に一世帯に一台配布したヤツなんだって。

 それ以外の、例えば塔とか、ホテルとか、商売関係で必要な場合は金銭とか労働を対価に購入可能。

 何人かの錬金術師が一般的な物より大きいサイズを所持していて、使用料金を徴収したりとかもしてたんだって。

 で、だ。

 一般的なサイズは旧王族から貰えるヤツ。

 小さいサイズは大きいサイズから複製したヤツ。

 じゃあ大きいサイズは? って話で。

 旧王族には更に大きいサイズのヤツがあって、それで複製していたんだって。

 設計図はみんなも見られるし知っているけれど、複製は出来ても一から作る事は出来ない代物。

 作れる人は少なくともビアンカさんが生まれた時にはいなかった。

 先生やイーダも王族のマル秘情報だったから知らないって。

 いつから作れなかったのかは分からないけれど、まぁろくでもない事があったんでしょうね、と。

 それこそ物騒なんでそれ以上の説明は不要です、はい。

 で、旧王族の特大サイズを今後どの国が持つのか、って話だ。

 独占すれば後々争いごとの種になりそうだもんね。

 だから作れる様になればよいのでは? って話になり。

 本日、腕の立つ道具系錬金術師を集めていざ解体となったらしい。

 が、吹き飛びました、と。


「大丈夫だったんですか?」


『ええ。大変だっただけで大丈夫よ。即死していたらと思うと頭が痛いところだけれど』


 全然大丈夫そうじゃない!


「それでは制作方法も解明されなかったのかい?」


 先生は怪我人は気にならないらしい。

 考えただけで血の気が引くので俺も気にならなくなりたいです。


『それなんですけれど……エルンストが言うには魔力の揺らぎがあったと言うんですね?』


 あ、嫌な予感。


「え? ひょっとして……」


 イーダは電話なので発話中。

 ちなみに俺同様に嫌な予感がしたらしい。


『イブキの魔法の時にイーダ先生がおっしゃいましたでしょう?』


 一呼吸おいてビアンカさんは続けた。


『小人族の方に見てもらったら、動力部に隙間なく例の虫が詰まっておりました』


「うわぁ~……」


 本日何度目かのうわぁ~である。


「は? 待て! いくら何でも魔法使いは気が付くはずだ!」


 びっくりして先生が飛び上がった。

 揺らぎだとか、うるさいだとか、なにか感じる物があるらしい。

 確かにそんな状態の物があれば気が付きそうだけど。

 続いたビアンカさんの説明はこんな感じ。

 製造・複製機自体がそもそも遮音とか熱遮断とかの、なんでもかんでも遮断する素材で出来ている。

 料理から裁縫から工芸までをその庫内で行うのだから当然と言えば当然。

 で、その動力部も諸々を遮断する素材で出来てた。

 製造・複製機の扉を閉めると、一部が魔法だけを遮断しない素材に入れ替わる仕組みになっているんだって。

 みなさん、掃除機とかと一緒で、制作する時に入れる材料を少量、餌として吸収してると思っていた。

 だから、その機構自体に疑問は湧かず。

 さぁ動力部だ! なんてウキウキしながら強引にぶっ壊したら、吹き飛んだ、と。

 怖すぎる。

 万全を期しての二台目解体時。

 魔法の揺らぎってのは感じてたから、妖精さんである小人族の人を呼んできて見ててもらって判明。

 二割の虫は出たくて出たくて仕方がなかったらしく、開いた途端に弾け飛んだらしい。

 ちなみに二割は何をしても動力箱から出て来ず。

 残りの六割は製造・複製機の中をウロウロしていたって。

 ウロウロ?


『虫の研究もしたいのですけれど、見える方からの協力は難しくて……』


 語尾を濁したのはイーダに協力しませんか? って事かな?

 先生がイーダを見ているけれど、イーダは首を振るみたいにちょっと揺れた。


「そうだろうね。私だってイブキやマックスの研究をしたいとは思わない」


 イーダにとっては虫は俺や先生と同じらしい。

 そう言われちゃうと、確かに研究は無理かもな。

 こっちから教えたり、聞いたりするのはいいけど、一方的に解剖される様な関係は嫌だと思う。


「それで、解体した製造・複合機は元に戻せましたか?」


 タンタンと先生が足を鳴らし始める。

 イーダがなだめるみたいにびょんと伸びたので、先生はちょっと怒っているのかも。

 なんで?


『戻せませんでした』


 ああ。

 無駄に壊しちゃったから?


『魔力の揺らぎを集めて箱に入れるなんてできませんよね?』


「できませんね」


 間髪入れずに先生がタンっと大きく足を打ち付けて答えた。

 違った。俺か。

 うん、多分できると思う。

 でも口に出したらダメな空気。

 先生は全然こっちを見ないし、ビアンカさんは黙ったままで、微妙に無音の時間が続く。

 これは、ちょっと、俺には、耐えがたい。


「ええっと、むがっ」


 喋り出そうとする俺の口にイーダが入り込んで来る。

 駄目なのは分かるけど、困ってるんでしょ?

 ビアンカさんにはお世話になったし、この先もずっと俺が作るとか、国に拘束されるとかじゃないなら手伝いたいんだけど?

 イーダには伝わっているはずだから抗議の意味も込めてカプカプと甘噛んでみたらするっと出て行った。


「少し時間が欲しい」


 イーダの言葉に先生が再び足を鳴らす。

 舌打ちみたいでちょっと怖い。心配してくれてるのにごめんね? 先生。イーダも。


『ええ。私もイブキの安全が第一です』


 ビアンカさんの緊張した声に、あ、ビアンカさんも悩み中だったのか、なんて思う。

 それで。


『明日、マティルデをそちらへ行かせますね』


 そういう事になった。

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