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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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62 知りたくても分からない本当のトコロ


 うーん。圧倒的に痛覚が違うんじゃないか?

 俺ならガタガタ震えたり泣いたり呻いたりしてるはず。

 ドミニクは最初こそ痛そうにしていたけれど、後半は落ち着きを取り戻したみたい。

 粒粒が消えたところでカリンバをポケットに戻して、ドミニクの頬っぺたを両手で挟む。


「目、開けていいよ。ついでに口も開けて」


 毛むくじゃらなので、口を開けてもらわないと接合部が確認できない。

 指を突っ込んでぐるっと一周なぞって確認。綺麗につながってるかな?

 手前をなぞってるつもりなんだけど、ドミニクからしたら奥の方に感じるのか、軽くオエってなってる。

 気持ち涙目なのかな?

 白目がほぼ見えないからどこを見てんのかも分からないや。

 やっぱり造りが違うんだなぁ、と下のクチバシをグッと下げちゃってジタバタされた。

 すまん。

 噛まれず無事確認完了。


「うし。大丈夫」


 タオルで手を拭いて、そのままタオルをドミニクに投げ渡して、指で移動指示。

 休憩室じゃなくて俺の部屋かな。


「喋んなくてもいいけど、口は動かしてな。俺の手と同じだろ?」


 今だに一回り小さいままの右手を握って見せる。

 頬っぺたの、筋肉になるのかな? 一ヶ月もなかったんじゃ動かし難いと思う。

 ドミニクはカツカツとクチバシを鳴らしながらついてきた。

 会ったらぶん殴ろうと思ってたけど、なんか気が済んじゃったな。

 説明もしないでいきなり痛い事したし、我ながら態度も悪い。

 逆の立場で考えてみるとかなり怖いよなぁ。

 俺の部屋に入ってから、コップに水を入れてやって手渡した。

 いっきに飲み干すけどまだ無言。

 服も薄汚れているし、顔色ってか、毛艶? も悪い。

 取りあえず手を引いて風呂場へ押し込んで、着てた服は洗濯機に放り込む。

 家事室に来たついでに備蓄してあった乾燥食材をいくつか取った。

 引いた手がガリガリに細かったから、きっとまともに食べてないんじゃないかな。

 部屋に戻ったら椅子に縮こまって泣いている。

 ピロロロロ、と実に悲しそうだ。


「全裸で恥ずかしいからって泣くなよ。服、洗濯してきたから」


 取りあえずパジャマでも渡しときゃ良かったんだけど、まぁ男同士だ、気にすんな。


「恥ずかしいから泣いてんじゃねぇよ……」


 お。ようやく喋った。

 机の替わりに使ってるワゴンに追加の水と持って来た乾燥食材、洗濯が終わった服を置いて、ワゴンごとドミニクにぶつける。

 なんか言えよ。そう思う俺も無言。


「悪かったよ……」


 思いは伝わって、ドミニクがしょんぼりと項垂れて小さく呟いた。

 俺もなんか調子が狂ってる。

 はぁ、とデカめにため息を吐いて椅子に座った。


「気が済んだからもういい。気にはして欲しいけど」


「どういう意味?」


「忘れるなって話。ほら、服。着て」


 お互い忘れようぜってカラッと終わらせるのが正解かもしれない。

 でも、それはなんか嫌だった。

 ドミニクが服を着て、それから乾燥食材を口にしながら、ポツポツと話をする。

 深く考えずに行動してたとか、行先が無くて一人でふらふらしてたとか、そんな話だ。

 全身タイツ部隊にいたから潜伏できる場所とか、倉庫になってて人の出入りが少ない場所の知識があったんだって。

 ただ、探されているんじゃないかって恐怖はあって、備蓄食料とかはバレない様に必要最小限しか手を出せなかったみたい。

 情報収集も出来てたから、今日辺り警備も手薄だろうと国を出るつもりで。

 最後に俺の顔を見に来たらしい。

 こんな日はきっと家に引き籠っているだろうと予想して。


「しれっと家に帰っちゃえば?」


 状況も変わってるし、俺も許すし、殺されたりもしないと思う。

 なんならとっ捕まえましたとか一芝居うってもいいし。

 ドミニクは緩く首を振って、困った様に少し浮いた。


「魔法とか使えないんだろ? 水の確保だけでも大変だぜ? 水ポンプだって水石の寿命きたら終わりじゃん」


 また甘く考えてない?


「一回死んだつもりで、行きたいところに行こうと思って。鳥の本能?」


 それで死んじゃっても後悔はしないと思うと、ドミニクは笑った。

 渡り鳥みたいに? なら帰ってきたくなるんじゃないの?

 造りの違いも、考え方の違いも、俺には分からない事ばっかりで。


「人が戻ってくるからそろそろ行かないと」


 立ち上がったドミニクに、部屋にあった水ポンプと現金一掴み、それから食べきらなかった乾燥食材を持たせる。

 ちょっとだけ嫌がったけどすぐに受け取ってくれた。


「どっち行くんだ?」


「火の国は住めないって聞くし、木の国と水の国の間かな」


「遠いな」


 土と水の間の方がまだ近い。


「最後だし車を盗んでいくよ」


 しれっと犯行予告。


「お前……追われて連れ戻されろ」


 はは。そうなったら間抜けだけど、それもあるかもな、なんて笑って。

 最後にぎゅっと抱き着かれた。


「クチバシ、ありがとう」


 落ちてたのを拾ったのは俺じゃないけどね。

 作っておきたかったのは自己満足だったから、こっちこそ着けられて良かった。


「さようなら」


 タッとワイヤーアクションみたいに、やっぱりちょっと浮きながら、振り返りもせず、ドミニクは走り去った。

 別れの挨拶、もっと色んな種類の言葉を習っておけばよかった。

 またね、と日本語で呟いて寂しく……なってる場合じゃない。

 色々やりっぱなしなので慌てて家に戻る。

 水ポンプもあげちゃったんで作らないと。

 バタバタと家事室や風呂場を片付けて、工房で作業をしていたら、先生とイーダが帰って来た。

 想像して具合が悪くなっているのではと、心配して早く帰って来てくれたらしい。

 ああ、そう言えば。

 今頃鬱々としてたかもしれなかったのか。

 ドミニクの事は素直に話した。

 錬金素材や食材も使ったから報告も兼ねて。

 カリンバの件は失敗したらどうするつもりだったんだと叱られた。

 俺も冷静ではなかったんだな。


『着いたなら良かった、そのままだと長生きは出来ないから』


 と先生。

 クチバシを落とした場合はそういう傾向があるんだって。

 俺を心配して言わないでくれてたみたい。

 あの時に言われてたら受け止めきれたか謎なんで複雑な気持ちだ。


『今日会いに来たのも、イブキが吐いて倒れて熱でも出しているかもしれないと、思ったのかもしれないね』


 イーダまで。

 みんな優し過ぎない?

 一つとは言え年下男子に心配させてたんなら申し訳ない。


『どうする? 全身タイツ部隊に通報するかい?』


 聞かれて、その手があったか! なんて一瞬喜んだけど。

 元通りにならないから国を出る覚悟をしたんだと思って飲み込んだ。

 本当は連れ戻されたい、そういう気持ちがあるなら、無意識に痕跡を残したり、どこかで失敗したりすると思う。

 一ヶ月も隠れ続けたのだ。


「あー、今日は誰にも会わなかったんで」


 だから俺は、改めてバレバレの嘘を吐いた。

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