60 鼻歌を歌うタイプだったらもう少し早く気付いたと思います
やっぱり俺にもビアンカさんにも魔力の揺らぎは見えなかった。
手のひらの中心から石とか火とかが急に出てくる感じだし、粒も見えない。
「詠唱って口も動かないの?」
口がパクパクしてない。
『動かす程大きな音でもないですねぇ』
試しながらエルンストさん。
口の中でモソモソと舌は動かしているらしい。
「イーダには聞こえる?」
『マックスは水だから聞こえるけれど、エルンストもマティルデも水ではないから、何を喋っているのかは分からない』
とにかく目に見えない何かの力を借りて、魔力を貰うって感じなのかな?
自家発電じゃないんだね。
疲れるとか言ってたから体力的に削れるんだと思ってた。
どっちかてーと、制御面の、精神的疲労が主みたい。
で、その理屈でいくと、俺の演奏終わりにわぁって粒が俺の中に入るわけで。
じゃあ俺にも魔法が使えるんじゃないのかって言うとそれはできなかった。
これはイーダと先に実験済みである。
「喉乾いたとか、ちょっと暑いとか、風呂入りたいとか思ってると叶えてくれます」
入り込んだ分全部ではないと思うんだけどね。
『便利……なのか?』
先生が愕然って感じで呟いてる。相変わらずお顔立ちが笑顔だから台詞と表情がちぐはぐでちょっと面白い。
「どうなんでしょう。おかげで生きてるかもなんで何とも言えませんけど」
そうなのだ。
堕ちて来た日。
俺はスマホで音楽を聴いていた。
もしも音楽に反応して何らかの手助けをされていたとしたら?
着地した時には音楽は止まってたから、そうだとは言い切れないんだけど。
ウーヴェと出会うまでの道すがらも歌を歌いながら移動していた。
物凄い辺境の地を歩いて、無事に出会える確率はどれだけ?
って話で。
「別にカリンバでなくても使えるっぽいんですけど、さすがに歌ってると考え事ができないんですよね」
歌いながら歩くとか、歌いながら風呂に入るとかはできるんだけどなぁ。考え事はちょっと。
こちらもすでにイーダと実験済みだったんだけど、じゃあ歌ってみてとか言うからまたさっきの配置に戻る。
猛烈に恥ずかしい。カラオケでも点数八十点台が最高得点な俺です。
すぐ終わらせるわけにもいかないから長めの、橋を作る歌とか?
十二番まであるので、じーっと一点を見つめながら虚無な感じで六番まで歌って、
「……ア~レ~ディ~」
最後を不自然に伸ばして周囲を伺えば無事に粒粒が浮かんでいた。
でもカリンバの時よりも少なくて、あるかな? って分かってて見ないと気が付かないレベル。
何個浮かんでるか数える気になる程度。
次の歌詞なんだっけ? とか、うわ、音外した! とかなってるからだと思う。
案の定気がそれちゃったみたいで、スコンと俺にぶつかって消えた。
「あー、やっぱり考え事しちゃうとダメですね」
苦笑いの俺に、ビアンカさんがふむふむと頷いた。
『大体分かったわ。私が挑戦してもいいかしら?』
それではと選手交代。
ついでにカリンバも渡して、軽く弾いて見せて、弾いてもらう。
綺麗に弾けたので、いつぞや教えたグッとサイン。親指立てるやつね。
それからビアンカさんが居た位置まで移動する。
イーダはそのままビアンカさんの隣についた。
「▽☆◆×♂%&$$~」
歌の方から試してくれたっぽいんだけど、久々に何を言っているのか分からない。
なにかの動物の鳴きまねなのかな? エルンストさんが小さく拍手をしているから似てるんだと思うけど。
違うから! 遠吠えとか鳴き声とかじゃないから!
え? 俺の歌の下手さがいけないの?
ニ、三回繰り返してから次の鳴きまねに移行し、三種類試したところでキョロキョロとするも、粒粒は浮かばなかった。
続いてカリンバを取り出して、適当に弾くも変化なし。
うーん。音楽の説明から入るべきなのか?
でも、リズムっぽいんだよなぁ。
「喋るみたいに弾けます? 音じゃなくて、錬金術の時みたいにトントトン、みたいな。えーっと、粒粒出てきて、なら、トントントトトン、とかそんな感じで」
ビアンカさんに分かりやすい様にトで右手を振ってンで左手を振ってみる。
なんか太鼓叩いてるみたな動作だけど伝わった様だ。
適当に右手と左手を切り替えながら弾き始める。
白鍵しかないからそれなりに音楽として成り立ってる気がするので行けるのでは?
と思った時。
「あ!」
とマティルデさんから小さな呟きが漏れた。
俺にはなにも見えないんだけれど、先生にはなにか見えているみたいで、タンタンと軽く足を鳴らしている。
残念ならがエルンストさんからは見えないみたい。
「ああー……」
残念そうにイーダが揺れた。
なんかイーダの生声を久々に聴いたな。
ビアンカさんは眉間にシワを寄せて、ポンポンポーンと、最後に弾いて演奏を終えた。
で、なにが見えてたの?
とワクワクしながらまずイーダを見る。
『どうしようかな? って、こちらを見ていたんだけれど……』
止めちゃったのね?
ちなみにこの状態でイーダには虫が見えている状態っぽい。
虫に様子を窺がわれているビアンカさん?
匂いとかかな? 汗っかきで二酸化炭素を出す量が多くてO型だと寄ってきやすいんだっけ? それ蚊だっけ? 蚊だけ?
『一瞬魔力の揺らぎを感じました』
これはマティルデさん。
先生も深く頷いて同意。
『牽制する際にああいう出し方をしないか?』
牽制? ちょっと状況が分かりません。
エルンストさんだけ蚊帳の外で、えー、もう一回、もう一回お願いします、とか言っている。
それならあなたがやってみなさいよと、ビアンカさんと交代。
また見えないと可愛そうなので、ついでに俺とも位置を交代。
なんか見える確率低そうだし。
「初めます!」
エルンストさんは嬉しそうに遠吠えを上げてからカリンバを弾いた。
見た目熊で顔シベリアンハスキーなのに物凄い狼味を感じる遠吠え。
カリンバはビアンカさんよりもリズミカル。
音数が多いしテンポが速い。
先生の耳がピクピク揺れたのでマティルデさんを見れば、口を手で覆っていた。
来た?
そう思った時には、俺の時よりも圧倒的に数は少ないけれど、歌った時よりは多い、そんな粒粒が浮かんでいた。
気が付いたエルンストさんが、
「え? あ? バンッ?」
なんて言うので、粒粒たちが困ったのかゆらゆらと誰もいないところまで集まって、誕生日のクラッカーぐらいの爆発を起こした。
ええっと?
***
作中の橋を作る歌ですが ”ロンドン橋おちた” の英語版を歌っています。
この曲、検索すると10番まで、と出てくるのですが、マザーグース版では12番では?
となりまして、念の為こちらに記載してみました。
気になった方はぜひ検索してみてくださいませ。
ちょっぴりダークな歌なので、童謡? って動揺します。




