59 ふわっとしてました
全身タイツ部隊のあまり使われていない拠点をお借りして俺のカリンバコンサート。
ウソです。ただの実験です。
テニスコート程度の広さの倉庫は時どき車を停めるだけなのでなにも置いてない。
ど真ん中に敷物、ってもレジャーシート的なのじゃなくて、ラグだっけ? 小さい絨毯みたいなヤツを敷いてあぐらをかいてカリンバを持つ。
少し離れて左右に先生とビアンカさん。
正面にマティルデさんで後ろにエルンストさん。
すぐ隣にイーダ。
倉庫の外には全身タイツ部隊の人たちが護衛? 警備? してくれている。
話はしたんだけど、感覚的な部分てどうしても伝わらなくて、本日の実験に至る。
「じゃあ、始めますね」
演奏はヘタだし、音楽としても成り立たないので恥ずかしいんだけど、そもそも相手は音楽を知らない。
気楽にいこう。
手癖になっているチャイムの音を鳴らしながら次をどうするか考える。
白鍵だけの、ドからドまでの曲って無さそうで結構ある。
ちゃんと習ってないから原理とかは分からないけど。
たしか、元々ある曲を白鍵だけで演奏できる様に開始音をずらしたりするんだって。
リコーダーとかオカリナあたりの楽譜はそういう曲が多い。
なんか黒鍵部分って出そうと思えば出せたはずなんだけど、ちょっと忘れた。
小学校の先生はリコーダーに熱心だった気がするんだけど。
アルトとソプラノで微妙に指遣いが違うんだっけ?
もう吹けないだろうな。
『早いな……』
言われて適当に弾きながら顔を上げるとすでに粒粒が俺を取り囲んでいる。
みんなから感嘆の声みたいの上がってるんだけど、俺が弾いてるのが、どんぐりとかかたつむりの曲なんで温度差を感じる。
ある程度集まったところで実験開始だ。
火と水、風と土が定番の魔法で、後は複合。
考え事をしながら曲を弾くのは無理なので、伴奏っぽい音並びをひたすら手癖だけで鳴らし続けながら。
えーと、石の箱の中に火、上にもう一個石の箱を乗せて中に水。
ボコボコと俺の前に考えた通りの物が出来上がっていく。
お湯が沸いたら火を消して風で冷ます。
打ち合わせ通りのここまでを確認して演奏を止めればいつも通り全部の粒粒が俺に集まってきてぶつかって消えた。
「イブ……!」
ビアンカさんが驚いたのか心配したのか俺の名前を呼びかけて口を押えている。
粒粒が迫ってくる感じにビクッとして俺が目を瞑ったりしちゃうからかな。
でも大丈夫です。
他の四人は無言なので、やっぱり見え方が違うっぽい。
そんで多分、俺とビアンカさんは同じ状況を見てる。
はぁ、とため息を吐いて、最初に発言したのは先生だった。
『魔力の揺らぎが本人からは出ていない!』
あ、思ったより興奮してる。
そうなんだよって魔法が使える三人は言うけれど、俺とビアンカさんには分からない。
『私とイブキには分からないわよね? 視覚的には、イブキの時は、急に粒が出現して、その粒が移動して石に変わったり、火に変わった様に見えているわ。エルンストやマティルデが魔法を使う時は……』
人工魔法使いの三人の周りには粒粒とかは浮かばない。
手から水とか火とかが直接飛んでいく感じ。
イーダはそもそも元から魔法が使える妖精さんで、人型じゃないからあんまり参考にならない。
あえて言語化するなら、雲がにゅんって伸びて水が湧くみたいに出る。
攻撃時はビュンって水が鞭みたいに動く。
『イブキの場合は私たちにも同じ様に見えているかと思います。ただ、発動前に魔力の揺らぎが……イブキから離れた場所に見えるんです』
首を傾げながらマティルデさん。
『我々の場合はまず魔力が体のまわりに浮かぶ。これが詠唱時。発動時に一瞬手のひらに粒自体はできる。但し、粒が移動して形成されるのではなく、掌で形成されて押し出される。言語化するのならばこの辺り』
先生がタシタシと足を鳴らしながら付け加えた。
人工的魔法使いからはそんな風に見えているらしい。
え? 詠唱?
『時計と一緒ではないか? 人間の耳には聞こえないかもしれない』
普通にファンタジーに出てくる魔法と同じだったらしい。
『それぞれの属性のなにかが空を飛んでいるだろう? ちょっと手伝ってくれないか? と彼らの言語で話しかけて力を貸してもらうんだ』
イーダには一応全ての属性のなにかは見えているんだけれど、話が通じるのは水の力を持つなにか。
切羽詰まってると水のなにかが他の属性のなにかに声をかけてくれもする。
そういう時は、火事場のバカ力? で他属性も使えるんだって。
『私たちはもう少し形式ばってますよ?』
エルンストさんが困り顔。
人工魔法使いサイドは一方的に話しかけるだけなので逆にきちんとした詠唱みたい。
火よ水よ風よ土よお力をお貸しください、って感じ。
なんか遺伝子がぐちゃぐちゃすぎてどこに言葉が通じてるのか分かんないんだって。
思ったよか雑なんだな。
で、なんだかわからない何かが力を送り込んでくれるのが魔力の揺らぎなんだって。
イーダにはわぁって寄ってくる様に見えてて、他の三人は体感でぽわっと体を取り巻く空気が変わるのが分かる。
『……直接体に粒を入れている?』
先生がちょっと嫌そうに言った。
うん、深く考えると嫌な事ってあるよね?
で、その力をイメージに合わせて放出する、と。
『やってみましょうか?』
とマティルデさん。
え? 再現できるの? イーダは水魔法しか使えないっぽいのに。
『マティルデもエルンストも一応全て使えるのよ。得手不得手はあるけれど』
ビアンカさんが簡単に説明してくれた。
人工物だから、なんてネガティブな感じで言うけれど、俺からしたらハイスペック超人でしかない。
まぁ、王族がらみでは散々無理をしたんだろうけど。
「なんでもできて若返り付きで長生きって考えたらちょっと羨ましいかも?」
そんな俺の発言に、先生は誇らしげに、ビアンカさんは嬉しそうに、マティルデさんとエルンストさんは苦笑いを浮かべてる。
作る人、保有者、当事者の感想が出たな?
それで、マティルデさんが石の箱担当、エルンストさんが火と水と風担当で再現開始。
「あ!」
「また!?」
魔法使用中はイーダのテレパシーは切ってるんだけど、見たら分かる。
エルンストさんが戦闘向きすぎてマティルデさんが作った石の箱を壊しちゃうのだ。
マティルデさんが石の箱を作れずに石ころが転がるだけになったんで終了。
無理に石魔法が使える遺伝子を取り込んでいる状態だから、何度も繰り返せるのは修練の賜物だ、と先生は感心してる。
ちなみにエルンストさんは石の箱が作れない。半円の石に申し訳程度のくぼみができる程度だった。
なるほど、得手不得手。




