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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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58 自分でも分からない自分の事


 あのおっさんやビアンカさんが関わる事件だ。

 ドミニクが組織の中で許されないってのは想像がつく。

 加えて父親が組織内でも上層部。

 職場の果樹園は全身タイツ部隊へ運営費を寄付する関係。

 働いている人全員がそうではないだろうけれど、それを嫌悪するレベルなら辞めてるはずで。

 行き場はない。


『クチバシだけ落ちていたの』


 俺が居た部屋の上の階。

 殺しちゃったりとかしてないよね?

 とも思ったけど、それならわざわざクチバシだけ落ちていたなどと言わない。はず。

 天井ごとだったから当然壁なんかも壊れたし部屋からは脱出できたのだと思う。

 イーダたちが居たのはもう一つ上の階で、誰の視界にも入らなかったし、すれ違ったりもしなかった。

 ただ、先生の家を出る時に俺を乗せてたゴーカートはなかったらしい。

 いつからなかったのか、そもそも俺を連れ込む時にゴーカートで来たのかもわからない。


『果樹園に木材を取りに行く予定だったのでしょう? 聞き込みもしたのだけれど……』


 果樹園で働いている女の子が一人。

 ドミニクに買って貰ったらしいブランケットに包まって泣き崩れたらしい。

 彼女からも話を聞きたかったが錯乱してまともに話ができる状態ではなかったって。

 例のなかなかなびかない彼女だろうか?

 泣いてたんなら好きだったのかな?

 居なくなって泣くならたまには誘いにのってやれば良かったのに。

 クチバシは根元からもぎ取ったみたいで血や肉が付着してて、所々にヒビが入り、欠けている。

 少量だけど、血も、肉も、骨も、大部分のクチバシも残っていた。

 培養させてくださいって先生にお願いして、鮮度を保つための薬液の作り方も教わる。


『簡単だよ。ああ、取り急ぎ必要だね』


 薬液の材料を並べる先生の横で、ビアンカさんが設計図を書いてくれた。

 書き写しながら考える。

 俺に会いに来ないとは言い切れないし。

 なにせ俺もドミニクもバカで考えなしなのだ。

 俺だって同じ事をしたかもしれない。

 たまたま中央国に来て先にビアンカさんに保護されたってだけで。

 塔で王宮に連れていかれてそのまま保護されてたら王宮側だったんじゃないかな。

 住む場所も、学校も、身内も、ここには頼るべき場所なんてなかったんだし。

 選べる状況でも、最初に手に取った方を優先して。


『イブキの魔法の件も……』


 先生が言いかけたところにエルンストさんから待ったがかかる。


『先生、大変申し訳ありませんが、予定が詰まっておりまして。先に私の足の交換をお願いできませんか?』


 足の交換は時間がかかるので先生はしぶしぶ了承した。


『それなら私がイブキと魔法の話を……』


 嬉しそうに言いかけたビアンカさんを止めたのはマティルデさん。


『二度手間になりますからイブキの負担になりますよ?』


 そんなに大変じゃないけど?

 あ、ビアンカさんに我慢をさせる方向?


『それから、エルンストの術後にお話をする場合も、我々が時間を取れないかと思います』


 そうだよな。

 最後の鬼ごっこが終わった所なのだ。

 なんて言うの? 事後処理? なにかやらなくちゃいけない事が山積みなんだろう。

 でもでもだってと、ちょっともダメ? みたいな顔をするビアンカさんに、


『イブキにも休息が必要なんですよ?』


と最後のダメ押し。

 ゴゴゴゴゴォ、なんてオノマトペの似合いそうなマティルデさんに、ビアンカさんは残念そうに頷いた。

 そんなわけで、先生はエルンストさんの足の交換を。

 ビアンカさんはエルンストさんの処置が終わるまではここで作業をするらしい。

 固定電話でやり取りをして書類を書くってさ。


「できた」


 トプンとボウルの中で薬液が揺れる。

 表面のオレンジ色の膜が生物みたいにフルフル動いた。


『うん。成功だ。イブキはもう薬液関係では失敗しなくなったね』


 何度もずぶ濡れになったおかげかな?

 ビアンカさんが瓶に入れなおしてくれて、最後にクチバシを入れる。

 さて、それじゃあ我々も作業を始めますかね、と立ち上がる先生たちに向かって挙手。


「ええっと。ちょっと疲れたんで、俺はもう寝ちゃっていいですかね? あ、腹とかも減ってないんで大丈夫。そんかし明日の朝はたくさん食べますね」


 へらっと笑う俺にみんなが心配そうにするのはもう仕方がない。

 そんな顔をさせて申し訳ないけど無性に一人になりたかった。

 説明のつかない居ても立っても居られない感覚に、分からない様に息をつく。

 明日からは普通に過ごすから今夜だけは見逃してほしい。

 どうせイーダ越しにみんなに伝わっているんでしょ?


『おやすみなさい』


 そんな挨拶を背に受けて、震える手でドアを開けて自室に滑り込む。

 そのままドアに寄りかかるみたいにしゃがみ込んだ。

 意味が分からない。

 なんだって手が震えてるんだ?

 さっきまで全然平気だったのに。

 嬉しくも、怒っても、哀しんでも、楽しんでもなくて。

 なにがどうとかじゃなくて。

 多分、この世界に堕ちたとか、やたらとケガをしたとか、経験する必要はなかったとか。

 その時どきの感情みたいな物を全部足して、足した分で割って。

 吐き出すみたいにただ泣いた。

 押し殺していたはずの声が耐えきれずに吠えるみたいにでて、頭を掻きむしりそうになって止める。

 みっともな。

 それでも立ち上がれなくて、しゃがみ込んだままいつの間にか眠っていた。

 恐ろしい事に目が覚めた時にはちゃんとベッドに寝ていたんだけどね。

 誰ですか? 俺を着替えさせたの。

 誰ですか? 俺をベッドに運んだの。

 恥ずかしいんですが?

 あ、でもエルンストさん居たからエルンストさんかな?

 片足付け替えたてなのに?

 なんで平気なんだ? 超人過ぎる。

 着替えはマティルデさんだろうか?

 いや、ワンチャン運んだのもマティルデさんの可能性も。

 気まず。

 身支度を整えて部屋を出る前に鏡を見た。

 いつにもまして不細工な顔をしていたので、ニカっと笑ってみる。

 ただの高校生ならダダをコネて学校を休んだり、行ったふりしてサボったりもできるけど。

 日常は時どき残酷で無慈悲である。

 仕方ない。今の俺はこの世界で錬金術師なのだ。

 やる事は山積みだし。

 頑張ろう。


「おはようございます!」


 元気に休憩所を覗いたら大量のサンドイッチと果物が置いてあって、先生が椅子の下で丸まって寝てた。

 誰もいない事にちょっとほっとして、先生を持ち上げてソファに移動しておく。

 う。

 これ、先生も起きた時に恥ずかしいのかな? 

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