57 それぞれの行動
「聞いてないわよ!」
ビアンカさんが怒ったとも、驚いたとも、もしかして嬉しい? かもしれない複雑な顔で言っている。
「聞いてないな」
先生はクールにタンっと一度だけ足を鳴らして。
「言ってない」
しれっとイーダが俺に巻き付きながら返事をした。
先生の家の、最近では第二工房化している休憩室。
そして俺は当たり前に横になっているわけですが、ちょっと脳停止中。
テレビを見ているみたいにみんなを見ていた。
ええっと。
取りあえずイーダが冷たくて気持ちよいので巻き付かれてるのはいいとして。
「……寝てた?」
『失神だと思う』
「あー、なるほど?」
起き上がって自分を確認すれば折れた足は元通りだ。
なんだか分からない虫みたいな魔法の種たちどうもありがとう。
でもな。痛すぎたよ。
叫べないの。
ひゅって息を吸い込んでそれっきり。
傷口に塩を塗り込むとかあんな感じではなかろうか。
でも治って良かった。
危うくダイアンさん柄の足になるところだった。
あれはなんて言う柄なんだろう? 俺が書いた花の絵とかあんな感じになる。
絶対に違うのは分かるけど。
ぼんやりとそこまで考えて、みんなの目がこっちを向いているのに気が付いた。
「ええっと?」
俺はなんで注目を集めているの?
『イブキ、今がどういう状況か分かるかい?』
うーんと、監禁されてて、それでケガしたんだよね?
治すのにあの三人を何とかしなくちゃって思ってからは秒殺な勢いで。
「地面から木が生えてきて三人とも捕縛して、それで、粒粒が俺に全部降りかかってきて……」
痛み止めを飲んだとて効き始める前にってオチ。
「体の中で骨とかが正しい位置に戻るんだけど、こう、勝手に動くから気分も悪くて」
虫唾が走るを実体験。
そして猛烈に痛くて、そこから先の記憶が今に繋がっている。
頭は回っていないけれど話の理解は可能な状態だからと、最初に回想してくれたのは先生だ。
『私は帰宅が遅いとは感じていたが、なにかに夢中になっているのだろうと心配はしていなかった。果樹園の座標は把握していたし、固定メール改を持ち歩かせていたからね。イーダと息抜きを楽しんでから昼食をとって、二人で工房を片付けながら雑談をしていた。そこに連絡が入ったんだ。すぐにビアンカ嬢に連絡を入れたが連絡は付かなかった。それでイーダが全身タイツ部隊の拠点へ向かったんだ』
続いてイーダ。
『全身タイツ部隊の拠点は大騒ぎだったよ。王子からイブキの荷物が届いていたんだ』
ビアンカさんと二人で話をしたいって内容で俺の荷物が届いたんだって。
嗅覚が鋭めの獣人さんたちが俺の匂いとか先生ん家の匂いとかを確認してビアンカさんへ連絡。
荷物が届いただけだとぶっちゃけ生死不明なんで、全身タイツ部隊の皆さんはビアンカさんが向かうのを止めていたらしい。
『潜伏場所は探らせていたから情報収集をしているところだったのだけれど……』
イーダが拠点へ到着した段階で再度相手のメッセンジャーが現れた。俺を監禁している部屋に爆弾を仕掛けているから妙な気は起こさない様に。そう告げて自爆したんだとか。
相変わらず理解はできないけど、まぁなんだ、俺も慣れてきちゃってんのかな。そういう事するよね、王宮関係者。
拠点は壁とかの材質が違うんで無事だったんだけど、お隣さん家とかは吹き飛んだらしい。
同じ威力の爆弾を仕掛けているとしたら俺も危ないって話で。
『指定された場所とイブキから届いた座標は別の場所でした』
とマティルデさん。
俺が起きたのを見てコップを取りに行ってたみたい。手渡されたコップにイーダが水を入れてくれた。
『人間ぽい獣人と、グニョツヤっとした獣人だったかしら?』
くすくすと笑いながらビアンカさんが言う。
『第一王子の側近で間違いがなかったから、私への呼び出しは殺害か捕獲が目的と判断したの』
待ち合わせ場所に第一王子は来ないけれど、俺が殺される危険性はあった。
ビアンカさんはエルンストさんとマティルデさんと三人で待ち合わせ場所へ。
座標の場所へは爆弾処理ができて隠密行動が得意そうな隊員さんを派遣。
拠点に固定電話は置いていたし、イーダが固定メール改を持っていたので慌ててそれぞれを複製。
行く場所は分かっているのだから、先に座標を設定をして出発。
そうすれば到着までは一方通行連絡だけど、到着しちゃえば相互連絡が可能なのだ。
拠点の受け専用固定電話は繋げたままにして全員で情報を共有していたらしい。
機能的にややこしくなっちゃったけど、やっぱりあると便利でしょ?
などと錬金術師談義になだれ込みそうになったのを止めたのはエルンストさんだった。
『おかげでイブキの無事が確認できましたから、こちらの被害もこの程度で済みました』
ニコニコ笑ってずり上げたズボンの下、右足がまた無くなっている。
すでに応急処置も済んで、これから俺が培養して先生が組み立てた足を付けるんだって。
『こちらも爆弾が仕掛けられていたのよ。私の殺害が目的だったのね』
あのおっさんは爆弾魔なの?
ビアンカさんが無事で何よりだし、エルンストさんも元気そうなので、またしても俺のダメさが際立ってますけど。
『こっちはイブキが天井ごと吹き飛ばして空で爆発させたから安全だったよ』
誇らしげなイーダ。
原因は俺かも知れないけど、俺が吹き飛ばしたわけではない。
『ああ! それそれ!』
と、先生が魔法の話に脱線しそうになったのを、今度はマティルデさんが止める。
『第一王子とその側近二名の捕獲は無事完了して現在監禁しています。外界に交渉相手となる存在はこれで居なくなりましたが、行動予測のつかない反乱分子はまだ潜伏していると思われます。もうしばらくは気を付けてくださいね』
あ、捕まえたんだ。それなら良かった。
ホッとする俺に、またみんなから注目が集まっている。
なんだ? まだ頭が回り切っていないのかな?
たんに俺のスペックがそんなもんなんじゃ……?
直前のマティルデさんの言葉を頭の中で繰り返して、咀嚼する。
行動予測のつかない反乱分子はまだ潜伏している?
「……ドミニクってどうなったの?」
次会ったらぶん殴ろうって決意してから忘れてたけど。
みんなの微妙な空気にこくりと唾をのむ。
すりすりとイーダが頬をなでてきた。
あまりよくない状況だってのは何となく分かった。




