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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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53 地味に痛い


 目が覚めた時の訳の分からなさを説明するのは難しい。

 ここはどこで、眠る前は何をしていたのか、あるいはまだ寝てるのか。

 全部を放り投げて二度寝に入りたい、と、思えるのはそれが快適な場合で。


「イタタタタ……」


 石床の上に横を向いて寝ていたので、肩がめちゃくちゃ痛かった。

 痛いから夢じゃないな!

 体勢を変えようとして、手が自由に動かせない事に気が付いた。

 はっきりと状況や感情を把握する前にぞっとする。

 動かせる限り手を動かして確認してみれば何かで拘束されていた。

 手を閉じたり開いたり、手首を回す動作とか、我慢できる範囲で力づくとか、色々試す。

 アニメや映画の様に縄抜けができる訳もなければ、ポタポタ血が流れるまでの無茶とかもできない。

 いや、多分擦れてはいる。赤くなる程度はしてる。はず。頑張ったと思います。

 痛すぎて無理ゲーだろ、こんなの。

 ゴロンと転がってうつぶせから起き上がろうとするもなかなか難しい。

 ご丁寧に足首まで縛ってあるのだ。

 お。痛いのを我慢して仰向けに転がり直して腹筋の要領でいけました。

 もがいてたのバカみたい。

 ただ長座の体勢から立ちあがるのが厳しい。

 結局もう一度うつぶせに転がって、頭を床に擦り付けつつなんとか土下座の体勢。

 そこからゆっくり膝立ちで壁まで移動した。

 膝まで縛ってなくて良かったよ、マジで。

 ヘルメットを装着しているので痛いとかはないけど、ゴーグルが跳ね上げ状態なので大丈夫かな?

 商品と違って耐久実験とかしてないから、どこまで負荷をかけても大丈夫かとか把握できてない。

 壊れないといいんだけれど。

 こっからどうすればいいんだ? 分からん。

 痺れたら嫌なので、足を前に持って来ようとしてまた悪戦苦闘。

 やっぱり顔面を使うしかないんだな、これ。

 なんとか体育座りの体勢になった頃にはあらゆる意味で疲れ切ってた。

 大丈夫か、俺?

 部屋はひたすら石である。

 床も壁も石。

 ゴツゴツしてるんじゃなくて磨かれてツルっとした感じ。

 特に出入口もなくて四角い箱みたいな部屋で、なにも置いていない。

 目視確認ができないってだけで、どこかから出入りは可能なんだろうけど。

 天井に熱光石がはめ込まれていて明るさだけは確保されていた。

 ああ。先に環境確認をしてしまったけれど、自分の確認もしなくちゃな。

 手足は拘束されているけれど、動かすには問題なさそうだ。

 ケガなし。視界良好。聴覚問題なし。

 腹は減ってないからまだ昼前かな?

 ヘルメットと首輪は付きっぱなし。

 外し方が分からなかったのかな? 初見だとややこしいと思う。

 背負っていた作業用カバンは見当たらない。

 けれど本日の俺は作業中だったのでそのまま上にポンチョを羽織って出たのだ。

 冬場の、寝坊したからコート下はパジャマです、な状態。

 なんとなくゴロゴロしているので、作業道具がそのまま作業エプロンに入ってるはず。

 ポケットもゴロゴロしてるからトイレもあるな?

 ただ、手でボタン押せないからひたすら床を転がってポケットの中のトイレをぐりぐりする羽目になりそう。

 その前に何とかなるといいなぁ。

 環境と状態の次は状況か。

 俺の感覚としては、ドミニクと出かけて、ゴーカートで寝落ちして、今。

 寝ている間に何者かに取っ捕まったのだろうな。

 そういやビアンカさんに外出は控える様に言われてたんだよね。

 怒られそうだけど、先生もイーダも特に止めなかったから、帰ったら一緒に怒られてもらおうっと。

 ドミニクは無事なんだろうか?

 運転してたんだから俺と違って起きてただろう? だと、抵抗して暴行を受けるとか、なってなきゃいんだけど。

 俺は俺でなんで起きなかったんだろ?

 蹴っても起きないってのは朝の、ベッドで寝てる時の話で。

 授業中とかはちゃんと起きられてた。

 思ったより疲れていたのだろうか?

 それならなにかアクションがあるまでは眠っていようか?

 壁に横向きで寄りかかって少しだけ目を閉じる。

 そんなタイミングで、


「ガコンッ」


と、寄りかかっていた壁がズズズっと部屋から見て外側へ移動しはじめた。


「わわっ」


 手足を拘束されている俺は、ぐらりと転びそうになるのを何とか回避する。

 危なっ! さっきまで寄りかかってなかったのに!

 壁から距離を取るべく立ち上がろうとして失敗。

 そのまま体勢を崩して転がってしまったので、惰性で反対側の壁目掛けて転がって移動。

 肩と一瞬下敷きになった腕が痛い!

 起き上がって、船漕ぎ運動みたいに少し移動して、動いた壁に体を向ける。

 外側からしか開かない仕組みなのか、壁の厚み分外側に押し出されて、今は横にスライド中。

 かなり人間に近い容姿の獣人と、人間のおっさんと、タコっぽい質感に見えるぬめっとした人。

 最後に扉を開けたドミニクが顔を覗かせた。

 無事で良かったけど最悪だ。

 困惑とか疑問とかは全然湧いてこなくて、ただただ怒りだけ沸き上がった。


「ドミニク!」


 ドミニクはひらひらと手を振って言うのだ。


「よ! なんでいきなり怒ってんの?」


 悪びれもしていないのだから余計に腹がたつ。


「寝てる間に縛って運んどいてキレんなって? ふざけんな?」


 ドミニクがなにか答える前に、人間のおっさんが一歩前に出て口を開いた。


「それは私が頼んだのだ。手荒な真似をしてすまなかった」


 ビアンカさんと同じ金髪に青目だけれど、あまり顔は似ていない。


「デーヴィト・ジュリアス・ゼントン・フォン・アレだ」


 名前かな? 一つも覚えられなかった。


「さっき言ってた逃亡中の第一王子だよ」


 ドミニクが注釈を付けてくるが、俺は第一王子から目を離さない。

 あの時はイーダだった。

 今度はドミニクを殺そうとするかもしれない。

 ドミニクにはまだ怒りはあるけれど、それはちょっと置いておく。

 このおっさんは全く表情筋が動かず、目も据わっているのだ。

 たとえば電車とかで前に立たれたら、なんか怖いから席を移動しちゃう程度にはヤバそうな雰囲気。

 逃亡中だからそんな顔になっちゃってるのかもしれないけれど、関わったら駄目なヤツ。

 すうっと息を吸い込んでから返答する。


「イブキです。私になにか御用でしょうか?」


 少しだけ目を開いて、感心した様に第一王子は頷いた。


「綺麗な中央語も話せるのだな」


「……ありがとうございます」


 こちらに来て半年はとうに過ぎ、もう少しで八ヶ月目に入る。

 店で使う言い回しや、簡単な日常会話は翻訳機がなくとも問題ない。

 けど。

 ちょっと分かってなさそうって思ってもらった方が好都合かな?


「……通訳機を起動したいです。手を解いてくれませんか? 言われた内容を、思い違い? 勘違い? 困ります」


 どうだろ? 解く? 起動方法教えろって言ってくる?

 でも話し分かってないとか不安でしょ?

 クソ真面目な顔して考え込んでないで、とっとと解いて欲しいんだけど?

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