52 仕事が山積み
ここのところ隕石を一粒残らず最小値の素材にするという仕事を一日中やっていて、ちょっとお疲れ気味の俺だったりする。
元素記号表みたいな物で、想像していたよりも種類が多い。
それぞれの量は少な目だけど、目に見えない素材もあるので、そういうのの捕獲? 確保? とか、神経が疲れる作業が多い。
窓ガラスなんかに使われているダイヤだかアクリルっぽい瓶が一番安全らしく、それぞれ瓶詰に。
俺の目にはラベルだけ付けた空の瓶が何本かある状態。
どこまで入っているのか容量限界も分からないから時どき先生に確認して、後何回入れたら次の瓶、みたいな指示を貰う。
先生は先生で例の腕とか足とかを急ピッチで作ってた。
休憩がてら培養液の面倒見たり、時間を決めて作業を教わりつつ、勉強なのかお手伝いなのか微妙なラインで俺も参加する。
睡眠時間と飯を食うのは必須派の先生なので規則正しい生活ではあるけれど。
錬金術一色、加えて、楽しい成分が極端に少ないので、時どきボケーっとした時間を作ってる。
邪魔されたけどな。
やって来たばかりのドミニクが俺の口に果物をねじ込んできたのだ。
「モガッ……!!!」
地味にアゴが痛いし果汁で口周りがベショッとして気持ちが悪い。
味は旨いんだけどね。
トマトっぽい形状のなにかでスイカ味。
食感はたくあん。
我ながらポリポリと小気味よい音がしてる。
「よ! 大口開けてぼーっとしてるなぁってな」
ドミニクは笑っているけど、笑い事じゃねぇわ。
懸命に咀嚼して口を拭いてとりあえず一文句。
「普通に声をかけろよ。疲れてんの」
「ごめんごめん」
「……そっちもぼちぼち佳境なんだろ?」
そうは言ってもお客さんなので立ち上がってお茶の準備。
全身タイツ部隊所属のドミニクはうん、と頷いて教えてくれる。
「そそ。聞いた? この辺りはもう王族管理から外れてるけど、実感は薄いよな」
ほぼ制圧は完了して、街単位で代表者っぽい人を立ててもらって、これからを話し合うんだって。
この辺りは元々王族関係者の出入りもなかったから確かに変わりは感じない。
ちなみにそんな王族の関係者、政治に関わっていた人なんかはまとめて軟禁状態。
だから外出は控えて欲しいとビアンカさんから言われている。
人間を見て脱走したんじゃないかとか思われかねないからって。
「先生が急ピッチで手足作ってるし、まだ危ない感じ?」
「だな。王様は捕まえたけど、第一王子が逃亡中なんだ。人望がある人だから匿われていても不思議じゃないってさ」
「へぇ」
淹れたてのお茶は熱いので氷を入れたカップにダバダバと注いでドミニクに渡してやる。
冷たすぎるのもあまり得意じゃないので常温にしてみました。
「飲みやすい」
カップにくちばしを突っ込んでごくごくと飲んでいる。
先生にも声をかけたが反応がないのでいいかな。
自分の分は熱いまま。ハーブティーなんだけど、ズズっとすする日本茶スタイルが俺流です。
「聞いた話だと、取りあえず一度国を解体して、小さい国を何個か作るって言ってたな」
それは俺も聞いた。ビアンカさんは追放された領地で建国するって話だった。
困り眉毛になってたから、国に来るか聞きたかったんだろうな、とは思ったけど、俺からはなにも言わなかった。
誘われたら分かりましたって答えちゃう気もするので、時間が作れて良かったかな。
国民への通達は固定電話を利用してスピーカーで流す予定なんで、素材錬金が終わったらそっちの錬金作業に取り掛かる予定。
登録してないからビアンカさんと先生と俺しか作り方を知らないのだ。
遠方にいる知り合いの錬金術師に頼むため、現物と設計図を配達してもらってって作業が入る。
しかもそれらの商品には、芽吹きの指針、って名前が入るらしい。
あの時ビアンカさんが並べていた髪飾りのマーク付き。
すでに旗とかで使われてて恐ろしい。
まぁ、変革期の間一時的に使用するだけって話だったけど、残りそうだよな。
ええ? ってなったんだけど、反対する理由が曖昧で却下を食らいそのまま押し切られたって感じ。
あ、説明書も付けないといけないのか。運ぶのに箱とかもいるし、木材足りるかな?
メモメモ。
「木材? 剪定したヤツでいいなら回せるけど」
日本語でメモを書くと俺にしか読めないので中央語で書く様にしている。
ドミニクが覗き込んでそんな提案をしてくれたので、在庫を確認。
やっぱり微妙に足りなくなりそうな感じなので先生にも聞く。
つっても声が届かないので、区切りの良さそうなところまで待ったけど。
「ああ、足りないかもしれないね。ブロックにして五、六個貰って来るかい? 気分転換に」
俺の心配をしてくれてるんだと思うんだけど、先生もお疲れだな、これ。
「じゃあ、俺も気分転換に出かけるんで、先生もその間に気分転換しててくださいよ」
なにが先生の気分転換になるのかが分からないのでそんな風に言えば、気持ちは通じたようだった。
「ああ、そうだね。そうさせてもらおうかな」
気になったので何をするのか聞いたらイーダを呼び戻してゲームをするらしい。
ボードゲームかな?
先生と二人で区切りのところまで作業を手早く終わらせ、一度道具を片付けつつゲームの内容を聞いてみる。
おはじきとビリヤードとボーリングを足して三で割った様なのとか、将棋の駒なんかでやる山くずしとか、いくつかあるみたい。軽く聞いただけだとルールがよく分からないな。
ドミニクも知ってるみたいで、そこらにある物で遊べるのが基本ぽい。
今度教えてよ、って言ったら、暇があればね、と返される。
そうだね。あんまり暇がないよね。
出かける装備を整えて、駐車場でイーダとすれ違った。
『でかけるのか?』
「うん、果樹園に木材を貰いに行く大義名分を持った気分転換に」
それはイイね、とイーダが言うので、そっちも先生と楽しんでね、と笑って別れた。
帰りは荷物があるから荷台のついた車を借りて送ってくれるみたい。
なのでドミニクのゴーカートに乗って出発。
「あ、おやつ食べる? 乾燥果物だけど」
前の席からポイっとドミニクが投げ寄こしたのは干しアンズみたいなやつ。
「ありがと。これって酸っぱい?」
「どうだろ? 酸っぱいか甘いか、当たり外れがあるかも」
へぇ、と袋に入ってたのをひとつ摘まんで口に放り込む。
「どっちが当たり?」
「甘いのじゃね?」
一瞬炭酸水みたいなパチッとした刺激があって、酸っぱくはないな。なんだか複雑な甘さ。
「なんだろ、これ? 難しい味がする」
「味音痴」
「うるせぇよ」
ケラケラと笑いあったのは覚えている。
そのまま俺はスコンと眠りに落ちた。




