50 錬金術師と呼ばれた日
『早く寝る様に言ったはずだが?』
タンタン、と足を鳴らす先生に全力謝罪中の俺とイーダです、おはようございます。
寝不足で仕事をする危険性なんかをコンコンとお説教されていますが完徹の俺の脳みそに染みる訳もなく。
『聞いているのか?』
「っは! ごめんなさい! ちょっと寝てました!」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
それはそれは深いため息を頂戴した。
『マックス、イブキを怒らないでやってくれ。私がイブキに話をねだったものだから……』
『イーダ、君は睡眠を必要としていないかもしれないが……』
イーダにお説教が移ったところで、朝食の準備をして午前中のお手伝い準備。
と思ってたら。
「ドミニクが迎えに来るから果樹園で受粉機を確認してきなさい」
寝るのは我慢して夜に寝なさいって注釈付き。
すっかり目も覚めてるのに。
さてはまだ怒ってるな?
迎えに来てくれるドミニクを呼びに行ったイーダはそのまま出かけちゃうらしい。
来たばっかの時なら一度戻って顔を確認してくれてたのに。俺も成長したんだな。
いや……ちょっと寂しいんですけど……?
修理用品一式を持って、外出装備を装着し終えた頃にドミニクが迎えに来てくれた。
先生がドミニクにまで寝そうになってたら起こせとか頼んでる。どんだけよ?
ゴーカートみたいな前後に二人乗りの車に乗って果樹園へ。
この世界の果樹園は主に地下にあるらしい。
地上に生えてるヤツは野良だから早い者勝ち。だけど味の方は当たり外れが激しいんだって。
街外れで一度身分証確認があったけど、全身タイツ部隊の息が掛かってるらしくて普通に通れた。
あんまり日常会話に出てこない単語は相変わらずポンコツな俺なので、何となくの理解。
ゆっくり、らせんを描くみたいに降下して、天井が高めのフロア、もしくは二階まで吹き抜けのエリアに出る。
天井に熱光石が埋め込まれてて、なんなら地上より明るかった。
無秩序に車が停まっている。これは先に来た人が出られないのでは? と思ったんだけど、
「持てるよ?」
とドミニクがひょいっと車を持ち上げるので自転車感覚なのかな。
荷運び用の車は別に駐車場があるみたいだから、そっちには秩序があるんだろう。多分。
そこからは徒歩で資材置き場へ。
果樹園の横を通るから何となく眺めると、果樹の高さが制限されているのか、非常に取りやすそうな位置に実がなっていた。
二メートル越えとかの背が高い人も割と普通なので、ちょっとした脚立で事足りるんだろうな。
あ、ジャンプして取ってる! 滞空時間が長ぇ!?
「珍しい?」
俺が、おお、とか、わぁ、とか言ってるんでドミニクが聞いてきた。
「うん。初めて見た」
「仕事終わったら収穫する?」
「する!」
資材置き場は休憩室も兼ねてて、小さいけど製造・複製機も置いてある。
何人か作業してたり休憩してたりするんだけど、ドミニクが挨拶をするたびに驚いた顔をされた。
「錬金術師のイブキ。受粉機のメンテナンスに来たんだよ」
「こんにちは、イブキです。よろしくお願いします」
驚かしてるのも申し訳ないので俺もその都度挨拶をする。
みんなそれを聞いてほっとした顔をしてから、慌てて走っていく。
「……逃げた?」
「ついでだからなにか見てもらおうとしてるんじゃないかな」
「ええ! 錬金術師とか言うから! 俺、見られないと思うけど?」
もしくは見ても分かんないと思うんだけど。
「無理なら無理でいいだろ? あ、その机使って」
すでに受粉機が置かれた机が本日の作業場所。
まず準備するのは固定電話。
一時的に設置する分にはできる様になったのだ。
先生の家から移動した距離を固定メールに連絡をすればオッケー。
動作確認でまずは俺から先生に連絡を入れる。
「お疲れ様です、イブキです。現場着きました。座標を固定メールに送ったので、そちらからも動作確認お願いします」
『マクシミリアンだ。了解した』
ちょっとしてから連絡が無事入ったので動作確認完了。
これで困った時には相談ができるのでちょっと安心。
受粉機はほぼ生物だ。動きが悪くなるのは、吸い込んだ量と吐き出す量と運動量のバランスが悪い時。
身も蓋もない言い方をすれば、腹いっぱいだから動きたくないとかね。それだと近場で作業を済ませすぎが原因。あとは吸い込みか吐き出しが詰まってるとかかな。
カニみたいな受粉機が不動の内にまずは足を確認。
木を登るから木を傷つけない様にささくれとかあったら綺麗に均す。
次に花粉を貯める管と放出する管を掃除。これは爪楊枝みたいな棒を抜き差しするだけだ。
それから燃料タンクの中身を注射器型の転送機で一度吸い出してから、水を飲ませて、もう一度転送機で吸い出す。
この辺りで正常稼働に戻ってジタバタし始めるのでなかなか可愛い。
先に吸いだした燃料を軽く濾して、少しだけ戻せば勝手に持ち場に戻る。
でも体の大きさ的に資材置き場から果樹園まではそこそこ遠いので、そこら辺で休憩していた人に託しました。
達者で暮らせ。
まぁなんだ。別にここまでの作業なら錬金術師じゃなくてもできる。
「お、動かない」
この場合は原因は究明せずに錬金術式を上書き一択。
製造・複製機をお借りして一度バラして、設計図の上に置いて錬金素材を再度割り振る。
素材は使い廻し。エコだね。
風石を使うんで失敗すると物凄い細かい切り傷がめっちゃ手にできて、猛烈に痒いんだけど。
俺は痒いってのがほんの少し痛いのと同じである事を学んだよ。
ハンドクリームみたいなの塗ってその日の作業は取り止めにされたっけ。
これはビアンカさんも先生も。
翌日には何事もなかったみたいに治るんだけど、無理して再度失敗すると本当にケガになって数日ダメにするから慎重に。
もう失敗しなくなったけど。
仕上げにトトントトントンと机を叩いたら完成だ。
カサカサと走り出そうとする受粉機をひっくり返して少しだけ燃料を入れてやる。
「ほら、やっぱり来たぞ?」
ドミニクに肩を突かれて顔を上げるとさっき挨拶して走り去っていった人が手を振っている。
「この素材作れるか?」
素材の錬金は基礎中の基礎なので俺でも作れる。
鉄素材の要望が多くて、粉にした素材をいくつか作った。
設計図があるからそこからの加工は製造・複製機でやるんだって。
最後の素材を錬金中、錬成術式が書かれた設計図の上で小さな竜巻を起こす俺に休憩中の人々が口々に言う。
「やっぱり錬金術師は意味が分からないな」
「なんか凄いのだけは分かる」
俺はいまだに意味が分かってないんですけどね。
ドミニクがピピピピっと機嫌が良さそうに喉を鳴らした。
「自信なさそうな割にしっかり錬金術師してんじゃん」
俺はちょっとだけ困って、それから少しだけ笑った。
それなりに頑張っては来たので、その言葉はちょっとしたご褒美みたいだったのだ。




