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05 身分証明を発行


 そこからは中央に行くにはどうすればいいのかって話になった。

 身分証明が必要だそうで、これは今いる水の惑星の上……面倒だから水の国。

 で、一番栄えている街で、うそ偽りがなければ誰でも発行できるらしい。

 ただ、ぼーっとしてると喰われるから気を付けろ、だって。


「喰われる、とは?」


 ウーヴェがなにを聞かれたのか分からない顔をしてイーダを見た。


『油断していると喰われるだろう?』


 イーダは俺を見て聞いてくる。

 聞きたいのは俺なんだが。

 詳しく聞けば熊っぽいのとか虎っぽいのとかが種族としているみたい。

 腹が減ったっり、機嫌が悪かったりすると襲い掛かってくるらしい。

 駆除したり隔離したりしないのか聞いたら呆れた顔をされた。


『イブキは一生隔離されても構わないのか?』


 いや、一生隔離は確かに嫌だけど。

 野生動物が街に放たれてるの?

 聞いてみたらちゃんとした種族で、コミュニケーションも取れるっぽい。


『イブキだってトイレに行きたがっただろう? 同じではないのか?』


 トイレと襲い掛かるのは別な気もしたけれど、二人にとっては同じみたい。

 欲求って意味でなら同じっちゃ同じなのかな?


「ちょっと理解するのは難しいかも。でも油断してると喰われるのは分かった」


 話も進まないしそんな風に答えたら、


『その内慣れるし、中央に行けばそういう危険はない』


と返された。

 差別的で閉鎖的だからだろうか。

 二人には悪いけど、俺にはその方がありがたそう。

 まあ、そんなこんなで、俺用に首を守るための首輪とか武器をウーヴェが木で作り始めて、俺はその間に仮眠。

 起きた時には木製の、猛犬注意のイラストみたいなゴツイ首輪と、ただの棒が二本。

木組って言うんだっけ? 二組の半円をスライドさせて脱着できる首輪は思ったよりも軽い。

 即死しない程度かも。ちょっと心配。

 顎があたって痛いので、ネクタイをグルグルと巻いてみた。

 ハンカチとかタオルとか持ち歩いてりゃよかったんだけどね。

 ただの棒は一本をバッグに括り付けて、一本は杖代わりに持ち歩く。

 水の国の街までは二人で送るとわざわざ言うから、ウーヴェはよっぽど中央に行きたくないんだろうな。

 イーダは中央まで一緒に行ってくれるって。道案内と通訳は任せてとなんとも心強い。

 村の出入口に簡単な門? 柵? があるのだけれど、その片側に刺さっている杭みたいなやつをウーヴェが引き抜いて空に向けた。


「ドッッパーン」


 破裂音を立てて空に赤い線が引かれていく。

 相変わらず謎単語だったので聞いてみたら交通手段があって、それの呼び出し音だって。

 そういえば移動には困らないんだっけ。

 しばらくしてセイウチっぽい動物が二匹、水飛沫を上げながら地面から這い出してきた。

 意味がわからない。

 雪みたいな白い地面は水の粒だけど砂?

 説明を聞いてもよく分からないし、深く考えるのはやめておこう。

 その内、追々。

 それからセイウチの背中に乗せてもらって、本当に泳ぐみたいに進んで山を下る。

 不思議と揺れないし、濡れもしない。でも話をする余裕はなくて、気が付いたら到着。

 金銭のやりとりはないみたいで、セイウチはゴロンゴロンと横に二回転してから地面に沈んで行った。


『平気?』


 イーダが聞いてきたのでうなずく。

 お前のところではセイウチの交通機関は何て言うのか聞かれたので、個人タクシーと答えた。

 俺がセイウチとか思ってるからセイウチに変換されちゃったね。

 イーダは基本的にずっと俺の形だったけれど、ここで雲に戻った。

 元の状態で街に入るのが望ましいみたい。

 一番栄えている街だけあって外壁があって、門番もいる。

 あ、油断していると喰われるやつだ。

 門番はパンツを履いた白熊みたいな生物。

 自分の腕を枕に横になってこちらを見ている。

 ウーヴェが何か話したら、起き上がって座椅子でくつろぐおっさんみたいな体勢になって膝を叩いた。

 通って良し?

 二人を追う様に街に入れば、なんだろう、柵のない動物園みたいな感じ?

 ちゃんと道とか家っぽい建物はあるけど、種族特性が分かる感じ。

 岩で出来たカマクラみたいな建物が多くて、次点で木作りの四角い建物かな。

 ペンギンぽいのや、トナカイっぽいの、初見なモフモフ二足歩行のなにか、空を飛ぶ七色の鳥、住人も様々。

 全体的にうるさい。

 足音だったり、体毛の擦れる音だったり、喋る音とは違う鳴き声とか、そういう生活音なんだろうな。

 キョロキョロしながら歩いていたら、凶暴そうな毛むくじゃらのピンク色の牛に背中を押されて驚いた。

 ウーヴェも前歯を叩いているしで凄く焦ったのだけれど、


『ちゃんと道を歩けって。道を逸れると地面に穴が開いている場合もある。個人タクシーの二人も住処は地中だし、出入口が分かりにくいんだ』


とイーダが通訳してくれた。

 親切な牛だったらしい。お礼を伝えてもらったら、思いっきり跳ね上げられてちょっと飛んだ。

 落下して尻を強打。めちゃくちゃ痛い。

 牛は牛で俺の軽さと弱さに衝撃を隠せないとか言っている。

 お礼とかお詫びとかを何往復かしてたら、行き先が分かったんで運んでくれるって。

 またぶん投げられて今度は背中に着地。

 思ったよりフカフカだけれど、漫画みたいにツノや毛を掴むのはダメみたいで、うつ伏せでしがみつくしかない。

 で、俺の感覺だと役所みたいな所まで連れて行ってくれて、気を付けろとお小言を頂いて別れた。

 ありがとう。牛。

 理解が追い付いていないので、諾々としたがってる感じ。なすがままとも言う。

 それで役所の中で、俺の頭より一つ分背の高いシャチみたいな生物に抱き着かれながら質疑応答。

 名前とか生年月日とか出身地とか。

 出身地は長々と。

 ラニアケア超銀河団、乙女座座超銀河団、おとめ座銀河団、局部銀河群、天の川銀河、オリオン腕、太陽系、第三惑星、と続けて住所。

 イーダが通訳しようとして途中で諦めて、職員と俺を繋げたくらいには長い。

 シャチみたいな生物は嘘をつかれると脳天から水が噴き出すんだって。

 噴き出さなかったので俺は無事に正直者認定。

 五センチ角の木枠にべっこう飴みたいな色の石が埋め込まれた身分証明をゲットした。

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