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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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49 手遊び


 ダイアンさんとエルンストさんの血肉の培養は順調。

 そろそろ造形もと少しだけ取り出して指の、人間で言うところの第一関節くらい? を作った。

 みんなの心配に逆に心配になってる中、作業を始めたら全然問題なし。

 骨が延長して爪兼指って感じだったからあんまり生々しくもなかったし。

 製造・複製機でざっくり形を作って、調整しながら組み立ててって感じだから、多分フィギュアでも作ってる感覚。作った事ないけど。

 先生が開発したちょっとパーティーグッズっぽい顕微鏡眼鏡が、コンタクトレンズの超でっかいやつで。

 むしろそれの装着が一番怖かった。

 血を巡らせたりとかしたらダメな気もするけど、後入れって言ってたから輸血? になるのかな。

 いずれにしても必要最小限の材料と工程の部位で手順を確認って話。これはあくまで授業。

 先生が説明付きでやって見せてくれたのをノートにとり、机上でもう一度手順の説明を受けて、実践。

 仕上がりと、俺の挙動なんかにチェックが入り、もう一度実践。

 指先なら何本も作れるけど、微妙に形が違うので同じ物ではない。だから慎重に。

 明日は関節部分を教えようと、今日の授業が終了したところで、何となく骨格標本を作ろうと思い立った。

 エルンストさんの手の骨図面と石屑を製造・複製機に放り込む。


「あ……」


 手の骨が各種バラバラ事件。半泣きで図面を見ながらパズルタイム。

 先生はいい勉強になっただろう? とか言って笑った。

 一度並べた石骨の裏側に番号を付けて、図面を見ないで並べたりもしてみる。

 あ、間違えてた。うわぁ、これ、本番でやっちゃったら笑えないヤツだ。

 眺めたり、撫でさすったり、重さを量ったりすれば何とか区別はついたけど、これだと時間を食いすぎる。急がば回れで、指一本づつ作った方が最終的に早いのかな?

 結構夢中になってて、先生に飯を食えと叱られて中断。二人で食事休憩。


「先生はなんで飯食い忘れないんです?」


 ちゃんとしてんなって思ったので聞いたら、


「食事の時間に時計が鳴っ……聞こえてないのか?」


だって。

 犬笛? なんか俺には聞こえない周波数でちゃんと時計が鳴ってるらしい。

 で、その話を夜に電話をくれたビアンカさんにも。


「私はマティルデかエルンストに声をかけて貰うから」


 そういう管理も使用人のお仕事なんですね。

 お姫様め。

 俺は庶民なので知恵と工夫。

 いや、知恵はなかったわ。

 全然分かんない。


「先生、時計の音って俺に聞こえる様にできませんか?」


「できる」


 あっさり言って何種類か音を出してくれた。

 俺が聞き取れてかつ気が付きそうで、先生も許容範囲内の音に無事設定。

 設計図を書き写させてもらったので後で確認しよう。

 ビアンカさんの家に戻った時に必要そうだし。

 こっち、あんまり音でどうのって商品が少ないよな。目覚ましも枕だし。

 テレビもラジオもネットもない。あれ? 歌とかも聞いた事ないかも。

 なんて思いながら、石骨を片付けつつその音に耳を傾ける。

 作り的に密度とかが均一なんだろうな。

 長さできっちり音が違う感じ。

 廃材入れを覗いて、ちょっと考える。


「先生、これ、使ってもいいですか?」


 金属片と木片を拾い上げて聞くと、どうぞ、と短い返事。

 なにか別の事でも考えている最中なんだろう。

 木でスマホサイズの小さな箱を作って、上面の真ん中よりちょい下に穴をあける。

 金属の細い棒……だと丸いよな? 平たいなら板? 薄いし細いから板って変だよな。なんて言うんだろう?

 まぁいいや。あ、棒も三本いるんだった。何で止めたらいいんだ? もう紐でいいか。

 パキパキと金属板を適当な長さに切ったら、二本の棒を下敷きにして、外側から内側に向かって長くなる様に並べる。

 棒と棒の間は軽く曲げて、と。

 棒と棒の真ん中、軽く曲げた板を上から棒で押さえる。

 金属棒は紐でクルクルと巻いて箱に固定。

 ど真ん中の板がドだとして、左隣がレ、右隣りがミ。

 絶対音感とかはないから相対音感で何となく。

 板はぎっちぎちに詰めて十一本入った。


「そろそろ工房は締めますよ?」


 先生に言われて時計を見たら二十一時。

 うーん。もう少しだけ。

 つっても工房でやる必要もない。


「先生、外の空気吸いたいんで、玄関先にいてもいいですか?」


「構わないが……あまり夜更かしをしてはいけないよ?」


「はぁい」


 作ったばかりの箱と時計の設計図を持って俺は玄関、先生は自室へ。

 イーダはまだ戻ってないみたい。

 玄関先に毛布を敷いて、壁に寄りかかりながら作業の続き。

 金属板を引っ張ったり押し込んだりしながら微調整。

 定番はチャイムかな? キンコンカンコン。


「ファーラーソードー、ファーソーラーファー」


 やっぱドが違うのかな? 変な感じはするけど、間違ってはなさそう?

 順番に金属板を弾く。連続で鳴らす分には違和感はない。

 ピアノでいうところの白鍵だけの簡単な楽器。

 丸い、少しこもった金属音。

 せっかくだからなにか、と思ったけど、別に音楽自体は得意でもないから出てこない。

 ポンポンと適当に弾きながら見上げた今夜の空は青い惑星が大きい日。

 月の、なんだっけ? タイトルが分かんないけど。

 確か白鍵だけで弾けるクラッシックとかって言ってたっけ。

 ゆっくりたどたどしく弾く。

 ちょっと間違えたりとか、やっぱり黒鍵なんじゃないの? と思いながら上下の音を同時に弾いてみたりして、何となく耳障り良く。

 小さな音でポツポツ弾くから曲っぽくは聞こえないかもしれないけど。

 確かこんな曲だったと、手は止めずに繰り返し、繰り返し。

 相変わらず小さくて力が弱めの右手には相性が良いかもしれない。


『イブキ?』


 困惑気味の小さな呟きに顔を上げる。

 多分イーダがいるんだけど、それだけじゃなかった。


「え?」


 無数の雨粒みたいな小さな何かが俺を囲う様に浮かんでいる。

 色とりどりのそれらは、顔を上げたから中断しちゃった曲の、最後の一音の余韻と同時、俺に向かってゆらゆらと集まってくる。


「わ、わ、」


 蚊柱に顔突っ込んじゃった気持ちになって慌てて両手で顔を庇う。

 それらは、ポッポッポッポッ、と手に当たったけど、それだけだった。

 痛くもかゆくもないのに、肌に触れた感覚だけがあって。

 チラチラと晴れた日の窓際のホコリみたいに霧散する。

 あれ? 光ってる?

 それも一瞬の事。

 コンッと、手にしていた楽器が落ちた時には、いつも通りの玄関先だった。


「え? なん?」


 いつも助けてくれるイーダはその場で見ているだけで、なにも言ってくれないし、近づいても来ない。


「え?」


 拾い上げた楽器を指し示す様に体を伸ばし、イーダがようやく聞いてくる。


『それはなに?』


 カリンバ。どうせ通じないと思うけど。まぁ、楽器?

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