47 巻き込まずに巻き込む手法
「似合うかしら?」
ビアンカさんが嬉しそうに髪飾りをつけている。
久しぶりのビアンカさん工房。
照れくさいし、先生と話してた火種箱の設計図を見てる間に見てもらおうと思って渡したんだけど。
ちらっと見たら左右に付けて、顔をこちらに向け、右見せて、左見せて、みたいな?
仕草も含めて可愛らしいけど、似合ってるかとかは俺にはちょっと難しい。
それにしても。
「分かんないですけど。金髪だから山吹のヤツよりは青のが映えますね」
羽根がたまたま同じ大きさだったし、俺がしょっちゅう空を見るんで思わず選んじゃったからな。
もう少しオレンジとか赤寄りのが良かったかも。
ビアンカさんがクスクス笑っているので照れくささはバレてる。
設計図を見てるからゴーグルをしてて、顔が半分も見えてないと思うんでまだマシ。
顔の熱いのが収まるまでは設計図を見てよう。
そんで話も変えよう。
「仕事入ってるんですか?」
設計図があるし素材の箱も積みあがっているので当たり前の質問だ。
「そうね。ある程度まとめて作ってしまおうと思って。エルンストが火魔法を使えるし」
そうでした。
設計図の分からない部分を教えてもらって、ついでに一つ作ってみつつ、先生にも話したカセットコンロの話なんかをする。
髪飾りは今は二つ並んで揺れている。
髪型とか分かんないんだけど、左右の耳上の髪を後ろで一つにまとめてくるっとして留めてた。
器用だな。
それで、だ。
ビアンカさんも隕石素材はできるだけ使わない方向で考えているみたい。
けれどそれは、普段は、って考え方。
燃料としては使用しないって事かな?
掃除機みたいにゴミが燃料になるのが望ましいのは分かるけど。
俺には少し難しい話。こういうの理解できる日が来るんだろうか?
「イブキの環境では火を扱わなかったのでしょう? 別の物があったの?」
電磁調理器とか電気給湯器だけど、当然俺にはそれがどんな構造か分かるわけもなく。
どんな物か、どうやって使うかを説明したら、電磁調理器は作れそうだって。
あ、もちろん電磁でも電気でもない。
「特定の素材に反応して高温になれば良いのでしょう?」
ビアンカさんはそんな理解をしたみたい。
役に立たなさが申し訳ないので、そこから連想してホットプレートとか、電気ポットとかも伝えてみる。
「火傷をする人は減りそうね」
あ、そっか。その問題もあったんだっけ。
隕石素材が手に入りにくいこの界隈では空前の毛刈りブームらしい。
肘から下を刈り上げるのが長毛種のトレンドなんだって。
俺程度だと無毛種扱いだけど、エルンストさんやマティルデさんたち短毛種のトレンドは?
「耐熱素材の手袋が流行っているわ」
皮手袋!
「それなら培養できますね!」
って言ったら笑われた。
「すっかり錬金術師ね」
だって。
そうかな? たまたま今取り組んでいるからそう思っただけなんだけど。
それから火種箱を改造してホットプレート的な物を作ったりしていたら、階下でエルンストさんの声が聞こえた。
エルンストさんが戻ってきたら先生の家まで送ってくれるって話だったので、切りのいいとこまで片付けないと。
慌てそうになったので、一度手を止めて深呼吸してから再開する。
「イブキは、」
ビアンカさんが言う。
「やっぱり向いていると思うわ、この仕事」
そうですか? と手元を見たまま返したけれど、その問いに返事はなかった。
作業を終えて片付けをし、ビアンカさんと二人で階下に降りたけれど二人はいない。
きっと休憩がてらお茶にしてるのよ、とビアンカさん。
なんかエルンストさん、シュテファンさんの足を貰ったせいか、物凄く食べる様になっちゃってるんだって。それは副作用なの? 大丈夫そ?
予想は当たっていて、エルンストさんは食堂は白菜っぽい物をもりもりと食べていた。
切るなり、剥がすなりしようよ。なんで丸のまま食べてるの?
「お疲れ様です。あら! 素敵ですね。お似合いですよ」
気が付いたマティルデさんが先に声をかけてきて、ビアンカさんの髪留めを見て笑った。
「お? 噂の髪留めですか? へぇ! いいじゃないですか!」
とエルンストさん。
噂してたの?
思わずビアンカさんを見たら、にんまりと笑われた。
「楽しみにしていたもの。想像以上に素敵よね?」
二人に同意を求めてるけど、それはもう強要では?
「ええ、本当に。この国の空みたいで」
あ、やっぱり? 色合いでそういう印象になるんだな。俺だけじゃなくて良かった。
「台座は肉食獣の爪カバーをヒントにしたんだろう? ああ、こっちは外側が木製なのか。さしずめ草食獣の爪ってところか」
うんうん、とエルンストさん。
デザインを変えたかっただけで別にそこは意識して無かったです。
「台座の色石は……これ、鱗と甲羅ですね。綺麗な色」
え? それは俺も知らんかった。
「メインが鳥類の羽根というのも素敵よね」
まぁ元々そこ始まりでしたしね。
素敵と思っていただけたんなら良かったです。はい。
「それを人間の私がつけているのだから、正しくこの国みたいでしょう?」
なんだか分からないけれど、最後のビアンカさんの言葉に鳥肌が立った。
声色? 雰囲気?
「ねぇ、イブキ? あなたの名前に意味はある?」
「え? なんで?」
今、俺の名前の意味とか、聞く必要がある?
「せっかくイブキが贈ってくれた物だもの。こちらの言葉で名前を付けたいわ」
「髪留めに?」
「いいえ。意匠に」
デザインに名前? そんな疑問もすぐに消える。謎の鳥肌は収まらない。
喉がふさがれてる感じがして、こくりと飲み込んでから口を開く。
「語感だと生命力にあふれるとか、活気があるとかってイメージで。漢字……こっちだと綴りになるのかな? イとブキの二つに分かれてて」
「ええ」
ビアンカさんが髪留めを外してテーブルに並べだした。
「分かれてて、それで?」
「……伊は聖職者って意味を持ってて、慕われるとか人望がある様に選んだって。吹は息を吹くって意味で、呼吸とか風が吹くとかなんだけど、俺の名前の場合は、芽吹き」
小学校の宿題で親に聞いたんで、なんかそれっぽく綺麗に言われた可能性もあるけど、遠からずそんな感じなんだろう。
言い切って、息を吐く。
「そう」
ビアンカさんは無言でテーブルの上の髪留めを動かしていた。
平行に並べたり、向かい合わせたり、横並び、縦並び、斜め。
コツコツと、碁でもさすみたいにその表情は真剣で。
「うん」
ビアンカさんから見て左上に爪先をまとめるみたいに斜めに置いて手が止まった。
「芽吹きの指針、でどうかしら?」
どうかしらって、なにが?
「あらいやだわ。エルンスト、そろそろイブキを送ってあげないと」
スッとそれまでのぞわぞわした空気が消えて、ビアンカさんは笑顔でエルンストさんを急かし始めた。




