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奇妙な錬金術師は堕ちて来た平凡な転移者です  作者: 弓軸月子


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45 新しい日常


 一日に一度は培養液を追加して生育を観察しなくてはならないので、俺はしばらく先生の家にお世話になる事になった。

 三日に一度はビアンカさんの家から誰かが顔を出してくれるし、固定電話は毎晩かかってくる。


『固定メールに届いている内容を辞書に写しておけばいいのね?』


「はい。それから、後で設計図も送るので、そっちは背表紙に”錬金術マクシミリアン三”って書いてあるヤツにお願いしていいですか?」


 ビアンカさんの家でないとできない事を頼んだり。


『聞いてよイブキ! 信じられる? エルンストが玉乗りしながら素材を運んでいて顔面から製造・複製機に突っ込んだの!』


「え? 玉乗りしてたんですか?」


 なんだかよく分からない話だったりした。

 ちなみに、製造・複製機に設計図が入っていなかったり、材料が不足していれば問題はない。

 設計図が入ってて材料が足りてて、それが体の一部だった場合は無くなるし、部位によっては死ぬのでとても危険である。

 横で聞いていた先生が頭を抱えたりするんで、内容はともかく楽しくはあるけど。

 それから先生の家には通いでお手伝いさんみたいなのが来る。

 一日三時間以内、用事お願いし放題みたいな感じ。

 買い物とか、先生の手が届かない場所の整理整頓とか、お金? なんかレジ締め作業みたいなのとかをやってた。

 派遣とかスキマバイト的な感じなのか、時折初めましての人も混じるんで、その度に俺を見て一瞬ビクっとされる。


「やっぱり人間て嫌われているんですかね?」


 ちょっと落ち込んでそんな風に言ったら、


「見た目が奇妙だからだろう?」


と笑われた。

 ああ。

 ヘルメットにゴーグル、首輪に作業用エプロン姿。ついでに右手が一回り小さくて、声をかけても翻訳機のせいで変な間を挟んでから人工音声での返答なのだ。

 言われてみれば奇妙かもしれない。

 先生のお客さんからの反応もそんな感じなので、あんまり気にしない様にしよう。


「ごめんくださぁい」


 ビアンカさんのところと違って、先生の工房は取引先が引き取りに来る形式。


「はーい! 先生、この伝票分ですよね? 出しちゃいますね」


 物騒な依頼が多いのかと思っていたけれど、無生命のお仕事の方が多い。

 俺の中でゴーレム系と仕分けされている仕事内容は、掃除機とかの自動で動く商品だ。

 竹トンボっぽい形状の自動水やり機とか、カニみたいな形状の自動受粉機とかなんで、脳が混乱するけど。

 そんかし俺の精神はノーダメージで安全・安心。

 王宮の仕事を受けてたりすると、物騒な物が増えるっぽい。

 先生もビアンカさんのせいで訳アリ錬金術師なので、仕事としては少ないんだって。

 その代わり緊急だと、見た目がぐっちゃぐっちゃなのが多いから覚悟しておく様にとは言われた。

 覚悟しても無理じゃねぇかな。と途方に暮れる俺がいます。


「培養液を追加したら今日はもう自由にしていて構わない」


 先生は自分の研究とか趣味の時間をとても大切にしているみたいで、結構早い時間にお手伝いは終了。

 俺は右手の練習とか、細々したなにかを作ったりして過ごす。

 今はビアンカさんへ贈る髪留めのデザインでも考えようかペンを持ち、全然思い浮かばない事実に震えている。

 羽根を使うのは確定しているとして、ピンで髪を留めるんだよな? ピンてどんな形だ? 文房具のクリップとは形が違うのは分かるけど。

 そもそもそういうアクセサリーとかを取り扱っている店を見た事がないし、話題に出した事もないから先生に質問もできない。

 っていうタイミングで、今日はマティルデさんが来たので、頑張って聞いてみる。

 ネックレス、ブレスレット、アンクレットは存在してるけど、認識証みたいな感覚。

 指輪はビアンカさんが持ってるから知っているけれど、獣人は着けないみたい。

 ネクタイはあるんで、タイピンはあったんだ。従来型の通訳機に付いてた画鋲みたいな、受け側がやたらゴツゴツしたヤツ。オシャレよりは実用重視なのかな?

 こっちのオシャレ、毛をツヤツヤにするだとか、爪を磨き上げるだとかが主流っぽい。

 シリコンみたいな柔らかい素材なのに見た目が金属の爪型の指サックみたいなのもあるらしい。

 カッコよく見せるための装備品らしいから、アクセサリーでいいんだろうか?

 デザインとか俺にはピンとこないんで、まぁ無難に攻めるしかない。

 母ちゃんが使ってたパッチンするヤツと差し込むヤツと、クリップみたいに挟むヤツの絵を書く。

 類似品があるか、どういう構造かを説明しつつ、うん、パッチンするヤツはよく分かんないや。

 クリップみたいなヤツなら俺が作った小鳥型の方の通訳機の足に付けた形で良さそうだから、それを土台に。

 そのまま羽根を付けるとどんどん羽根が劣化しそうだから硬化液でコーティングも必要かな。

 それこそクリップを爪型にすればデザインの参考にできるかも。

 そんな話をして、家から羽根を持ってきてもらうのと、爪型指サックが売っているお店を見に行く約束をした。

 ビアンカさんには先日話をしていた運転の練習って事にしておく。

 先生にもそんな話をしましたよって言ったら、いくつかの硬化液とそれぞれの違いを講義してくれた。

 獣人さんも種別によっては今の俺より不器用だったりする。だから設計図が細かく記載できる様になればデザインも凝れるんじゃないかって話。

 義手の時ほどではないけれど、思い通りに動かせないのは結構ストレスだ。

 早く慣れさせようと無理やり使っていると手首が痛くなってくる。


「焦ると雑になる。丁寧に生きなさい」


 先生にそんな風に言われた。

 難しいけれど感覚的にはなんか分かる。

 ゆっくり、丁寧に、余裕を持って。

 言うのは簡単だけれど、やるのはなかなか大変だったので形から入る。

 たとえば作業用の器具は全部置き場所を決めてその都度きっちり戻す、を実行するための道具箱作りとか。

 筆箱よりは大きいけど、道具入れにしては小さ目で、ペンとかは斜めに取り出しやすくしたりと結構こだわった。

 これだけでもちょっと違う。

 今までは使った定規とかはポイっとして押しのけて場所を作ってたんで、机から雑多な感じがしなくなった。

 ちなみにビアンカさんはトレイに背の高い順に器具を並べてて、先生は中に仕切りがあるペン立てみたいなヤツを使ってる。

 そういう部分に目を向けていなかったので発見でもあった。

 夢中になってしまうとかあるし、無理をしないといけない場面もあるんだろう。

 だけど少しだけ自分も大切にする様になったと思う。


『あれ? イブキはもう寝るのか?』


 窓から空を覗いて、もう寝ようと窓を閉めたところでイーダに驚かれた。


「うん。明日はマティルデさんと出かけるんだ。運転の練習もするから万全にしとかないと」


 ここのところイーダはあまり家に居ないからいつもなら話をするんだけれど、


『それはいいね。楽しんでおいで。おやすみ、イブキ』


柔らかくて暖かい気配に俺は素直にうなずいて、


「おやすみ、イーダ」


と、ベッドにもぐりこんだ。

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