43 寝食を忘れるほどの
まずはエルンストさんやダイアンさんの体の一部だった物を素材ごとにわけましょう。
砂粒程度の量で充分です。分けた素材をそれぞれ解析機と分離機にいれていきます。
点数が多いので同時進行で先生の書いた設計図を製造・複製機で複製しておきましょう。
解析機から出た結果を確認してベースになる培養液用の作成に取り掛かります。
設計図を敷き、容器を置きましたら材料を入れて風石の素材を入れて攪拌します。
小さな竜巻が起こるので手などを巻き込まれない様に注意しましょう。
竜巻が収まったら分離された素材を投入し、設計図に指定された素材を指定された場所に並べます。
設計図の手前側を押さえ、奥側から時計回りに素材を混ぜましょう。
設計図上に雨が降り、不純物が設計図の範囲から飛び出して、容器の液体がゲル化します。
最後に設計図が燃えて余分な水分と埃が消失したら保護蓋をします。
錬成発光しますので、光が落ち着くまで待ちましょう。
完成した培養液に培養する素材を投入し、容器をタンタタタンタンと指で弾きます。
一回り大きくなれば成功です。
完成後は冷暗所で保管し、一日に一度培養液を追加して生育を観察しましょう。
まぁ、なんだ。
取りあえず初手で吐いたよね。
お医者さんがもうダメそうなところを見繕ってくれたんで、ユッケみたいな状態だったんだけど。
その状態から素材を分けるのが思ったよか苦行だった。
あと、手を引っ込めるのがちょっと遅くて、竜巻で爪が削れたりとか。
あれはちょっとヒヤッとしたな。
設計図上で素材を混ぜるのも難しい。
遅いと巻き込まれる。
最初が雨だったんで、失敗した時はびしょびしょになった。しかも次の素材が手にくっ付いてそのまま設計図から弾き飛ばされて危うく大惨事。
休憩してた隊員さんがスライディングキャッチしてくれたんで無事だったけど。
あんまり早すぎても混ざらないし。それだとなにも起こらない。
最終確認のタンタタタンタンも、俺が失敗してんのか錬金に失敗してんのか判断が付かないし。
イーダに聞いたら魔法の一種みたいで、振動が言葉になって伝わってどうのこうの言ってたけど。
人に分かる言葉で言うなら、これで育ちそう? とかそんな言葉らしい。
うん、なにに向かってそれを言うの? 話はそこからじゃない?
結構集中してやってて、はっと我に返ったのは胸の痛みだった。
そう、俺、せっかく飲んだ薬を速攻で吐いちゃってたからね。
元々そろそろ切れるから飲んだわけだし、さもありなん? そんな感じ。
いい加減休憩しないとな、と、机から離れようとして足元がふらついた。
またしても休憩していた隊員さんに支えて貰ったんだけど、これはもう休憩じゃなくて俺を見守ってくれていたのでは? タイミングがよすぎる。
「あざます」
お礼をしたら声がかすれちゃってて、それを耳にした隊員さんはそのまま俺を抱き上げてソファに放り投げた。
「っいってぇ……」
悪気はないんだろうけど、すでに胸が痛かったんですよ?
水をくれたんで飲んで、ついでに薬も飲んで、空きっ腹に飲んで平気なんだっけ? と思いながら時計を見たらもう日付が変わろうって深夜の時間帯。
ちょっと自分の異常さにどん引いた。どんだけのめり込んで作業してたんだろ?
隊員さんが何を言っているのか分からないから慌ててヘルメットをかぶって色々聞いてみる。
イーダは先生のお手伝い中らしい。
しばらく俺を見つつ休憩していたらしんだけど、声をかけても俺が無反応だったんで先生の方に移動したんだって。
一度先生も休憩に来て俺を眺めていたらしい。
エルンストさん分の培養液を持って戻ったって話なので、今はエルンストさんをなんとかしてるのかな?
使える物が出来てたんならいいんだけど、声をかけてくれればよかったのに……。
傍から見てると俺の作業はノリが良かったそうで、邪魔をしたくなかったんだと思うよ、と隊員さんは笑って慰めてくれた。
うん? ノリが良い作業ってなんだ?
ビアンカさんも作業中かと聞いたら、隊員さんが俺の後ろを指さしたので振り返ってみる。
ビアンカさん、壁を床にして座るみたいな体勢で地面に寝てました。
白目剥いてるけど、あれは大丈夫なヤツなの? 休まらなくない? マティルデさん怒らない?
そんなマティルデさんは食料と着替えを取りに出てて、そろそろ戻る頃らしい。
怒られる前にビアンカさんをソファに移動しておこう。
お願いしたら隊員さんが引き受けてくれたんだけど、そうだった。
この隊員さん抱き上げるまでは優しいんだけど放り投げるんだった!
「ギャンッ」
変な悲鳴を上げて、半分だけ覚醒したビアンカさんは、俺を見てふにゃりと笑う。
「素晴らしい錬金だったわ」
で、また白目を剥いて寝た。
美人の無駄遣いだな。
でも、褒めて貰えたのは嬉しい。
甘いヤツが食べたくて、フルーツケーキっぽいお菓子を貰って食べる。
食べながら残りの作業を確認していたら、お医者さんも休憩に入って来た。
隊員さんに俺の足元がふらついたと告げ口されて、休憩前に一仕事と笑いながら診察される。
ただの薬切れと疲労と寝不足ですよ!?
やっぱり情緒不安定って言うか、血とか見て倒れたり吐いたりとかが理解できないみたい。
物凄い頭の心配をしてくるんだけど、脳だよね? 俺が阿呆って話じゃないよね?
胸の、なんだかよく分からないベタベタするやつをついでだからと取り換えてくれた。
腫れもないし順調に回復していると言われてちょっとほっとする。
そのタイミングでマティルデさんが戻って来た。
白目を剥いているビアンカさんはどうするのかな?
マティルデさんは薄い毛布で全身を隠しソファごと壁際に移動させたので、なかった事にしたみたい。
心情はともかくナイスフォローだと思います。
お医者さんは食事をしてまた作業に戻って行ったので、俺も残り少ない作業を再開。
ちゃんとした休憩をすればって言われたんだけど、薬も効いてきたし後少しだからね。
さっきまでの集中とは違うけれど、連続作業で体が慣れたのか残りの作業はスムーズに終わった。
先生に声をかけてから休憩か、なにかできる作業があれば……そう思った時だった。
「グォー、グォー」
地鳴りみたいな低い鳴き声が聞こえて、隊員さんが物凄い勢いで立ち上がって作業部屋への扉を開ける。
「シュテファン!」
え? シュテファンさん?
作業部屋でお医者さんが抱えているのは、人間で言えば三歳児程度の大きさで、ぬいぐるみみたいな白い生物だ。
「産まれたてで声帯が安定していないが、ニ、三日で喋れる様になる。シュテファン、右手を上げてみな?」
ブルブル震えながら白い生物は右手をゆっくりと持ち上げた。
ああ、こういう事なのか。
体は小さくなっても、中身はシュテファンさんのままなのだ。
部屋の隅。ボロボロの腕を持ち上げるダイアンさんの横。
そっと置かれたシュテファンさんは、グルグルと喉を鳴らしてその小さな体をダイアンさんに押し付けた。




